異形者達の備忘録-5
濡れ衣
連日大盛況のバイト先、その日の賄いは量が多くて美味しくて、帰ってすぐ満腹すぎて、仮眠してしまった。
そ し て、夢を見た。
そのビルは交差点の一角に立っていた。7階建てだ。昔は銀行であった。今は、一階がコンビニ、2階から上は雑居となっているが、プレートに社名は無い。
午前2時、1階のコンビニ以外は真っ暗だ。通りの向かいから、3人のビル管理会社の職員が見上げている。上司らしき人が時計を見て、「そろそろ始まるな」その声に3人は揃って上を見上げる。6階の窓には、ピッタリとブラインドが降ろされている。はたして噂は、本当なのだろうか、 異変は始まった。
バキッ!ガシャッ!と大きな音と共に、見上げたブラインドの中央が、指でグッと、大きく押し広げられた。グレーのブラインド中央に、まるで、目の形をした黒い穴が出来たように見える。すぐにビシッと戻ったが、その様子はまるで,まばたきをする瞼だ。そしてすぐ、隣のブラインドで同じことが起きた。次々とまばたきは、移動して行く、中から覗く者でも居るかの様だ?
バキッ!ガシャッ!ビシッ 6階の窓を一周し。7階の窓を一周した。まるで誰かが、外にある何かを探しているような、いいや、外に潜む大きな人が中の人を探している様でもある。音は大きさを増している。
バキッ!ガシャッ!ビシッ バキッ!ガシャッ!ビシッ ゥン?? 止まった?
そう思った直後、屋上から人影が、コンビニの駐車場に落下した。 ドンという音に、店長が飛び出してくる。こちらに駆け寄ってくると、「すいません、店長の○○です。うちも来週には引き上げさせてもらいます」と言った。足元がヌルッとしたので、見ると同時に 皆、悲鳴を上げていた。
私も、自分の悲鳴に飛び起きた。
起きたと同時に、物凄い義憤に苛まれ腹が立っていた。悔し泣きをしていた。
PCを起動させると、ビルの屋上で揉み合っていた。相手は10人ほど、皆無言で俺に掴みかかって来る。多勢に無勢だ。どうにもならん!
こんな奴らに、こんな奴らに殺されてたまるか! とうとう俺は、屋上から下にブン投げられた。目の前には縦横に電線が走っていて、俺は 俺の首が飛んでしまったのを見たんだよ。痛み?苦しみ? トンデモナイ! 驚愕と、憤怒の念だ。
俺も銀行員になった頃は、夢も希望もあった。入行3年目にして、トンデモナイ不況に見舞われ、銀行は吸収合併騒ぎに浮き足立っていた。俺は外回りにされ、連日、不良債権の回収に、走り回っていた。そんな折、俺の受け持ち区域に、小さな会社が起業した。S社長(女性の方)が代表をしていて、不況の最中にも、アイデアとPC作業を駆使しての快進撃をしていた。何度か挨拶に伺う中、大きな仕事を成し遂げ、高額の手形を受け取った様だ。月違いで4枚 総額数億にのぼるものだ。早速当座預金のご提案をし、了承をもらい、名刺にその旨を記し、ハンコをついて、お預かりしてきた。銀行にとっても久々の朗報である。飛ぶ様にして戻り、上司に報告した。上司は手形を見るとニヤリと笑みを浮かべた。
嫌な予感がしたんだ。上司の後をそっとつけていた俺は、聞いてしまった。S社長に電話をして、当座預金開設の準備をします。お手形とご本人様の確認のため、当行の社員の預かり証を持参していただきたい、と言っている。証拠隠滅だろうと思った。そうして会話にあった、もう一つの厄介者の始末とは、俺のことか?年配の声が言う、「本当に大丈夫か」上司の声が答えて「金にしちまえば、金に顔はございませんよ」と、数人の笑い声に、ゾッとして音を立ててしまった。長い時間最上階に監禁されていたが、あの日最後の始末として、屋上からブン投げられたのさ、俺が横領犯、詐欺師として追われ、屋上から飛んだと聞いたS社長は、屋上に花を持ってやって来た。透明な俺はS社長の前に土下座していた。振り向いた彼女は上司を指差して言ったんだ。「嘘つくんじゃないわよ! 死のうって人間がねェ、こんな電線だらけの空間に飛び込むわけないでしょうよ、いい? 私を覚えておきなさいよ! このままで済むと思うなよ!」
フッとパソコンの電源が落ち、ジョーンと再起動して初期画面になった。私は大急ぎでノートを開いた。早く!早く記録しなければならない、そんな気持ちで一杯だった。
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