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異形者達の備忘録-34-2

絆(後半)

私と京子は一度だけ、廃墟キャンプについて行ったことがあります。あそこでは、夜になると本当に犬が歩き回る様な音がして、犬の声も聞きました。3人で声が枯れるほど名前を呼んで、廃墟内も周りも探しました。コテツは勿論、ホームレスも、だれも居ませんでした。鉄郎君は、探し疲れ、泣き疲れて声もすっかり枯れてしまって、コテツのことはもう諦めると、宣言したの、それで、この休みの間は、ワンゲル部のボランティアにも全部参加してた。

でも鉄郎君は、乗り切れていなくて、1人で、まだ苦しんでいたんだと思うのです。どうか理解してください。

と、京子と2人で何とか話し終えました。ご家族は、何故?何故?だったことが、やっと理解できたと、ありがとうと言ってくれましたし、彼を責めることなど勿論しないと言ってくれました。私達が居る間に彼が目覚めることもなく、帰ってきました。

私は、あのダム放流時、地域のニュースを検索していたら、消防団が数匹の犬と猫を保護したらしいことを見つけた。両親に話したら、早速翌日消防団に電話をしてくれた。すると、1匹だけ飼い主が引き取りに来なくて、鑑札もなくて、消防団の人が引き取った大型犬が、居るそうだ。父親の車で会いに行ってみたら、確かにサモエドの様だ。とても可愛がられていたが、お話をしてみた。やはりコテツに間違い無いと思う、でも救出される時に喉に大きな怪我をしていて、声が出せなくなっていた。そして、現在の飼い主の娘10歳の恵美ちゃんは、廃墟で犬の声が聞こえたなら、それは絶対エド(コテツにはサム=エドモンドという名前が付けられていた)じゃないもん!コテツの首に齧り付いた。・・・無理だ。引き離せない! 私も両親もそう思った。飼い主の消防団の人は、何か言いたそうにしていたが、10歳の少女の精一杯の「帰れー!バカヤロウ!」を背中で聞いて、肩を落として帰ってきた。

先程から父が、スマホで鉄郎君のお父さんと話し中だ。電話を終えると、「鉄郎君は意識が戻ったそうだよ、ずっとあの廃墟でコテツと居る夢を見ていたらしい、スピーカーにして俺の話を聞いて、喜んで泣いていたよ、コテツが声を失ったのは、地下に繋いでいた俺のせいだと言っていた。それでね、せめてコテツに会って謝りたいと言うんだ。鉄郎君はまだ数ヶ月は車椅子だから、家の大型バンで行こうと思うが、どうだ一緒に行くか?」うん行く!京子も乗れる? ああ勿論さ、

翌日、鉄郎と父親、私と京子と私の父親でバンに乗って行った。バンが凄く大型だったので付近の駐車場に止めて歩いた。遠くに平家の一軒家が見え、その家の前に白い大型犬と家族3人が見える。私の父が、「やぁ! 本当にデカイなあ」と言った時、鉄郎君が「アッ、コテツだ」と小さな声を上げた。たちまち白い犬の耳がツッと立った。ガバッと立ち上がり、ギャオンと血の出る様な声で吠えると、驚いて尻餅をつく少女をちょっと見やり、リードを空中に浮かせて、ビュンビュン近づいてくる。鉄郎に飛びつくと車椅子ごとひっくり返る鉄郎に体を預けてきた。しばらく「コテツごめんね、」「ペロペロ」アハハ、ペロペロを眺めていたら、息を切らせて恵美ちゃんの家族が来た。恵美ちゃんのパパが「ネッ、分かったでしょ?この子はエドじゃなくて、コテツくんなんだよ」見上げる少女の目に水が溢れ、小さく「ウン分かった」と頷くとポロッと大粒の涙が流れた。クルッと振り向くと家に向かって駆け出して行ってしまった。すみませんと言って母親が後を追った。恵美ちゃんのパパは「犬の譲渡契約などはこちらでやりますね、予防接種は一回してますから、書類お送りしますので住所をお教えください、ハイと言って2人の父親が名刺を差し出す。アッつい、すみませんと言って引っ込める父親に笑ってしまった。

恵美ちゃんのパパは「イヤー助かりました」と言うので???って顔をしていたら、「エド、いやコテツを引き受けてから、エンゲル係数が跳ね上がりまして、女房はパートを俺もアルバイトを増やそうとしてました。ハハハ」だって、

数日経って、恵美ちゃんパパからお手紙と写真が来たと鉄郎の父親が見せに来た。結構な譲渡金ありがとうございますの手紙と、新しいエドと恵美ちゃんのニコニコ写真があった。新エドは黒豆柴であった。父親同士が、エラくちっちゃいのを選んだねえ、大変だったんだねえと、ビールで乾杯していた。

おしまい


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