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連載小説 サエ子 第5章

怒り

普段食べないドーナツを、興奮して3個も食べてしまったので気持ちが悪い、それ以上に、サエ子から聞いた山本課長の話にムカついていた。

あいつは、サエ子の素性を知って、プロポーズした。お金が無いから結婚式は無し、2人きりで籍だけ入れて、家族になろう、いざという時のために、お互いを受けとり人にして、保険に入ろう、と言って、安い指輪を渡した。

サエ子は、家族と言う言葉に恋をした。だから

お金なら保険金があるから、小さな結婚式をしたい、思い出の写真も撮りたい、家族の写真一枚も無いから沢山撮ろう、と言った。その時から課長が変わった。毎日の様に、式場のパンフレットを沢山集めて来て、どこが良いか選べと言い、ドレスの仮衣装パンフレットも沢山揃えた。2人で毎晩選んだ。その頃は、本当に嬉しかったと言っていた。

式場と衣装が決まると彼が申し込みをしてくると言うので、2人でサエ子の預金をおろしに行った。思ったより、サエ子の預金が高額であったため、マンションも申し込むことにした。後の支払いは彼がすることになり、1000万、丸々おろして、彼に託した。

3ヶ月後、彼から来たメールには、

いつも、サエ子はあの時間のままだね、もう俺の知らない家族の話は聞きたく無いよ、限界だ、少しの間距離を置きたい、連絡しないでくれ。

泣いて、謝ったが、以後の電話もメールもブロックされ、待つしか無かった。

職場では毎日見かける彼との接触は無くなっていった。そして時が過ぎ、

全部嘘だったと、分らされた。山本課長は新入社員の女性と結婚した。

サエ子は1人で考え得る限りの復讐をした。早く皆んなの前から消えたかった。と言っていた。やっと忘れたはずの山本が現れたことで、サエ子は、母親が残してくれた保険金を、こんなことで無くしてしまった自分を責めた。母が可愛がっていた猫達に、餌をやりながら、母ちゃん御免ネと泣いていた。

俺達はコテンパンにするべく山本を探した。あのペットショップの周辺も、以前の会社の周辺も探した、しかし、一向にその動向は掴めなかった。

昼休憩の時にサエ子が、最近3匹の猫が傷だらけなの、どこかで喧嘩でもしているのかな、老猫なので心配でしょうがないと言うのだ。サエ子の課の先輩女子は、猫にGPSを付けて、悪ガキを捕まえたことがあるそうだ。

その日のうちに俺達は、GPSと小動物に取り付けられるcameraを購入した。その夜のうちに取り付けた。3匹共傷だらけだ。両手で頭を包み込み、「コラッ!誰にやられたんだ?」と言ったら、ニャーと頭を持たせ掛けて寝たふりかよ!アレ、寝てるわ、疲れてるんだねーとサエ子と顔を見合わせた。

翌日俺の課に病気早退が出てしまい、先に帰ったサエ子からメールが来た。

マルが大変! 終わったら急いで来てください、でも運転には気を付けてください、武史まで何かあったらヤダから

仕事終わりに、飛んで帰った。サエ子が白いバスタオルにマルを寝かせて、沢山の花と綺麗に包んだカリカリを前にボーゼンとしていた。俺を見ると「マルちゃんが死んじゃったー」と手放しでわんわん泣いた。泣くことで少しサエ子が救われるような気がして、背中に手を当てたまま、しばらくそうしていた。

サバもミミも弱りきって見える。ン! 部屋の隅にデカイハチワレが座っていて、何故か堂々として、ドヤ顔なのだ

つづく


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