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インサイドエリア/形状記憶粒子-3

第3章 山の異変


比較的空いた道路を、山へ山へと進んだ。店では、カードは全て使えなかった。必要なものは現金で買った。と言っても、キャンピングカーには、なんでも揃っていて、食料・蓄電器等も十分にあったので心強かったのです。3人で交代で運転して、そろそろ夕方になる頃、やっと山に差し掛かる、山田さんが「疲れましたね、チョット外に出て休憩しませんか」と言うので外に出て伸びをした。有川さんが「せっかくだからキャンプファイヤーでもしましょう」と言って、サッサと枝を拾って器用に組み立てる。さすがサバゲーのベテラン!アット言う間に炎が立つ、私がコーヒーを入れる間に山田さんはすでに、厚切りベーコンを食べ尽くしそうだ。今夜はこのまま山中を突っ走る予定なので、山田さんと有川さんに、思いっきり濃いコーヒーを手渡した。

すっかり暗くなり、片付け終わると、懐中電灯であたりを照らしていた山田さんが「これ、普通じゃないですよね」懐中電灯の光が木の根元を照らしている。地面から30cmぐらいの幹に横に黒い筋目があり、それが幹を一周していて、筋の上部分は、そこで流れが止められ、メタボ腹状に一周している。ルーズーソックスを履いた足首のような形状だ。彼が懐中電灯を巡らせると、全ての木がこうなっている。その時グーッという音が微かに聞こえ始め、幹の上部分に向かって、樹皮が少しめくれあがって、筋目から一斉に僅かな光が四方に差し始めた。3人が固まっていると、漏れた光は先の方から徐々に白い霧になり始めた。幹はジリジリと上へ捲れて行く、山田さんが「乗れ!出発するぞ!」と言った。足元の光がドンドン上へ、そしてあたり一面に広がる中、私達はさらに暗い山中へ向かって、出発した。

暗い山中を上に向かって、何時間も走り続け、開けた場所に着いた。ヘッドライトに浮かぶ木々の様子には、異常は見られなかった。幹を一周するメタボな膨らみも、光も、霧も無かった。夜は明け始めている。日差しが有るだけでありがたい!有川さんが、「コーヒー入れましょうね」とキッチンスペースに立った。車内に豊かなコーヒーの香りが広がった。3人は、車外に出る事なく車内灯を点け、用意されたコーヒーとサンドイッチを前にして、私の意識は飛んでしまった。ハッとして見回すと、ソファに横になった状態で、毛布が掛けられていて驚いた。寝癖と体裁を整えて車外へ行くと、有川さんと山田さんがフロントガラスを背にして、2人の男性と話をしている。山田さんが振り向いて、「アッ宮内さん!おはようございます。親方、先程話した宮内由美子さんです。宮内さん!俺の会社の社長村井さんです。」親方(村井さん)の横の男性が、「私は川上と申します。この上の山小屋の主人です。」と紹介された。5人は、車内でお茶とサンドイッチを頂きながら話した。

親方は、休暇に入ってすぐ、霧の中でやっと帰宅し、翌日、現場に戻る途中で、忘れ物に気付き、取りに帰った。そしたら、玄関から知らない女が出て来て悲鳴を上げられた。警察を呼ばれそうになり、家を間違ったのかと謝って、外に出て遠くから確認するが、やはり自分の家である。親方の自作した出窓がそのままなのだ。遠目で窓の中を伺うと、見知らぬ家族がごく自然に生活している。たった今!乗っ取った様には見えないのだ。路肩にトラックを止め、一旦現場に帰ろうと思っていたら、山田さんから電話があった。と言うわけだった。因みに、現場作業員で帰って来たのは、山田さんだけだった。

川上さんは、買い出しに山を降りた従業員が帰って来ない上に連絡も取れないので、自分で下山する事を決め、車を出したのですが、麓のあたりは、霧が出ている様で、ラジオの電波も途切れてしまっている。山を出るギリギリの所で車は、深い霧に突っ込んだ。道路横で霧の晴れ間を待ったが、車内で10時間動けないでいるうちに眠ってしまった。目が覚めた時にはもう霧が晴れていたので、先ず交番へ行くと、そこは花屋だった。街はいつもの様子なのに、中身がデタラメだった。取り敢えず、目についた店で、買い物をした。このデタラメな街の住人が、あまりに自然で、もしかして自分が突然のアルツハイマーを発症したのかもしれないと思った。その時が来たと、それと言うのも、川上さんが山小屋を経営し始めた原因が、奥様の若年性アルツハイマーだったからだ。山の好きな奥様をこの場所で、1年前に看取っていたのだ。切ない思いを引き摺りながら山小屋に帰ると、駐車場で、いつもタバコを買いに来る馴染みの親方に出会った。


次回につづく 是非ご覧くださいませ!!

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