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ショート フクロウ隊長

そいつは、目の前にフワリと落ちてきた。ビックリしたが、屈んで良く見ると、とっても小さなフクロウだ。サクラも伏せをして尻尾振りまくりだ。

サクラは6歳の秋田犬で俺の相棒だ。本当にデカイ、俺はこの山で、ダム管理の仕事をしていて、ワゴン車で通勤している。自販機のある広場で一休みするのが習慣になっていた。これは、そんな帰路途中のお話だ。

見れば小さいながら、フクロウだ。ビシッとした姿勢に鋭い眼光、そしてやっぱり小っちゃい、・・・かっ可愛い! 俺はワゴン車をガサゴソして、親子丼を作ろうと思って買っておいた鳥胸肉を取り出し、そいつを細かく切って割り箸で持ち、「フクロウ隊長、お食事いかがですか」小声で言って、嘴の前へ、おっ食べたぞ、フクロウ隊長は腹が減っていたのかドンドン食べる。

気付けば、俺もサクラも、粉雪舞う車道にずっと腹這いで、お給仕していたよ、沢山食べてお腹いっぱいになったのか、口を開かなくなったので、こんな道路に置き去りにしても行けない、連れて帰ろうと思い、手を伸ばすと、バサバサバサ、急に飛び立った。あれっ、もう飛べるのかと驚いた。上の枝に止まって、こちらを見下ろしている。そっかー、もう飛べるんだね、カッコいいぞ隊長!

俺とサクラは、ワゴン車に乗り、頭だけ出して手を振った。

「ちゃんと帰れよー隊長」


アイツ行っちゃった。こんな所に居たら、巣を襲ったヤツに見つかってしまう、疲れたぁー、お腹いっぱいだ、赤い光が行っちゃう、・・・追いかける、俺、追いかけるよ、エイー バサバサバサ、ワー落ちる、エイー バサバサバサ、母さんみたいに高く飛んで滑空すれば追いつける。絶対にアイツに追いつくんだ!
エイー バサバサバサ、ワーン、ワーン・・・もっと高く、高く アッ赤い光だ


ワンワンワンワン! 何だ? サクラ急にどうした? バックミラーを見ると、淡い街頭の中を、やけにジタバタと何かが飛んでいる。ン? コウモリか、車を止めて目視すると、あれ、フクロウだ フクロウ隊長が追ってきた。バックドアを開け、車をバックさせようとしたが、瞬間小さなフクロウは高く舞い上がり、凄いスピードで滑空し、バックドアから飛び込んできた。後部座席の背もたれに、シパタッと着地、そのままコロンとソファーに落ちて動かなくなった。

抱き上げると足が変な方向に曲がっている。こいつ怪我していたのか、そうだよなあ、落ちてきたんだもの、俺は何てバカなんだろう、

俺はビスやナットの入った小さな箱をザラザラと床にぶちまけ、首に巻いていたタオルでフクロウ隊長を包んで「ごめんなあ、ちょっと汗臭いけど、お医者さん行こうな」と言って、箱に入れて安定させた。獣医に電話してすぐに向かった。サクラも心配そうにキューンと鳴いている。

獣医の話では、巣が何者かに襲われて、多分その時チビさんは、その時初飛行したんだろうって、怪我しているのに、よく頑張って追いかけたもんだと言っていた。ごめんよ気がつかなくて、そう声をかけると、ギッと睨まれたよ

フクロウ隊長は二日入院した。

隊長が退院してからは、俺はサクラを留守番させてダムに出かけた。その頃は、サクラがどこへ行っても、トトトっと、ついて周り、寝床も止まり木も無視してサクラの横で眠っていた。

あれから一月以上が経った。その日、俺と相棒は別れの予感がしていた。たっぷり食事をした後、腕パットに、ずしりと重くなったフクロウ隊長を乗せ、俺たちは庭に出た。俺の家は庭が広くとってあり、ドッグランになっている。エイっと腕を振ると、翼を広げ神々しいほど美しく、フクロウ隊長は空へ舞い上がった。いつもは旋回して戻ってくるが、向かいの林の枝に止まった。サクラも一緒に走り出していたのに、今日は俺の横に立ったままだ。フクロウ隊長は、林の向こうの空をみていたが、一回だけクルッと首だけ振り向いてから、悠然と飛び立ち、空の向こうへ行ってしまった。俺がチョットだけウルっとしていると、サクラが、最近飽きて、やらなくなった古いフリスピーを咥えてきた。まるで「ほらほら、遊んでやるからネ、泣かないのよ」と言っているようだ。

翌日から、また俺たちは一緒にダムへ向かった。

そして帰り道、休憩しようと車を止めると、自販機の上に、フクロウ隊長が立っていました。毎日居るんです。「おつかれっした」と1〜2分ですが挨拶してます。俺も、ササミは毎日持って行ってます。

おしまい

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