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落とし物を届けたら
ふと昔の出来事を思い出したので、
今日はこのタイトルで。
たぶん15、6年くらい前だと思う。
相方と二人で近所のスーパーで買い物した帰りの話。
信号が変わってしまったので、横断歩道の手前で立ち止まった。
ふと足元に目をやると、黒っぽい四角いものが置いてあった。
「ん?」
すでに陽が落ちたあとで暗かったので、よく見えないけど、
持ち手がついているのでカバンのようだった。
周りを見渡しても、持ち主らしい人はいない。
もう一度、四角いものに視線を戻し、よく見ると、
ビジネスマンが持つような角張ったカバンで、
モノを詰め込み過ぎているのか、口ががばーっと開いている。
「ねぇ」
と相方に声をかけた。
「これ、落とし物?かな?」
「え? …そうみたいだね」
顔を見合わせて、考えることは一緒だった。
”めんどくさいもの見つけちゃったな”
ちょっと間があってから、一応、訊いてみた。
「どうする?」
「どうって…」
そろそろ信号が変わる。
信号待ちの人の数も少し増えてきた。
このまま置いておくのはたぶん良くない。
わたしは黙ってある建物を指差した。
指を指したその延長には交番があった。
「…届けるか」
二人とも買い物の荷物を持っている状態で、
さらにこの重そうなカバンを持っていくのは、
めんどくさい以外のなにものでもなかった…
見つけてしまった運の悪さ(?)とちょっとの良心。
ちょっとの良心が勝ってしまい、めんどくささを堪えて、届けることにした。
交番に着いて2人のお巡りさんにカバンを渡した。
一度でも交番に落とし物を届けたことのある人なら、知ってますよね?
渡してすぐには帰れない。
明らかに大事そうなものが入っていたらなおのこと。
中を確認するから一緒に見ててください、
って言われるのよ。
お巡りさんAは、手慣れた様子で、
拾得物なんちゃらの書類にいろいろ書き込み始めた。
お巡りさんBは、では中を拝見、とか言いながら、
さっそく本のようなものを取り出した。
「「「あ。」」」
お巡りさんBと相方とわたしの3人は同時に声がでた。
その本には「数学」と書いてあった。
お巡りさんBは「学校の先生みたいだね」と言いながら、
他のものを取り出していく。
出てきた教科書や参考書を見た限り、
たぶん中学校の先生なんじゃないかなという感じ。
お巡りさんAはそれらを書類にメモしていく。
いつまでわたしたちはここにいればいいのですか?
と思ったけど声には出さなかった。
お巡りさんBが四角いプラスチック製のケースを取り出した。
「これは何かな?」
と言いながら、ケースを開けて中身を出した。
「あ」
と声を出したのは、相方。
「え?」
と相方の方を振り返る、お巡りさんA・B・わたし。
お巡りさんB「コレが何かわかるの?」
相方「はい、ゲームカードですね」
そう、それはアーケードゲームのカードの束だったのです。
確か、ガンダムのだったと思う。
相当な枚数のカードのコレクションだった。
カードゲームをやったことのある人ならわかるでしょう。
ここまで集めるのにどれだけの努力とお金がかかっているのか。
そんなことに興味などなさげなお巡りさんたち。
相方とわたしは顔を見合わせ、ちょっとだけ説明した。
・中学生の間でとても流行っていること
・子どもだけじゃなく大人でも夢中になる人はいること
・この枚数を集めるのに、相当な労力がかかっていること
・親に買ってもらったとしても、かなりの金額であること
・先生自身が趣味で集めていた可能性もあること
・人気のあるカードは高額で取引されることもあること
「もし先生がその価値を知った上で、生徒から取り上げたのだとしたら?」
「取り上げられたその生徒は、かなりのショックでしょうね」
「もちろん学校に勉強と関係ないものを持っていくこともよくないですが」
「先生は指導の一貫として一時的に取り上げただけかもしれませんしね」
わたしたち4人はそんな会話をした。
最後にお巡りさんは、
「とにかくこのカバンの持ち主に連絡をとり、このカードについても確認します」
と言った。
そのあと、今回の拾得物に関する結果連絡のためにと、
わたしたちの住所と氏名を聞かれたが、
わざわざ知らせてもらわなくても大丈夫です、とお断りした。
あのカードがどうなったかすごく気にはなったが、
わたしたちはすべきことをしただけなので。
*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*
ここまで書いて、どうなったかの結末がなくてごめんね。
ただ思ったのは、
相方もわたしもゲームとかそういうことが好きだから、
そのカードの価値を知っていた。
なんでもそうだけど、
自分が知らないことについてその価値を評価するのは難しい。
中学生が夢中になるくらいハマる大事なものの価値、
先生や周りの大人にはその価値がわからないこともある。
怖いのは、
価値のわかる大人が、立場を利用して取り上げてしまうこと。
それは詐欺や窃盗となんら変わらないのよ。
すんなり解決してたらいいなと思うばかり。