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おれとじいちゃん。ありがとう、ごめんね。
5年前にじいちゃんが亡くなった。
じいちゃんの家は高台にありじいちゃんの特等席からの眺望がとても良い。
1日中じいちゃんは景色とTVで時代劇と野球と相撲観を見ていた。
実家とじいちゃんの家は隣で親が共働きだったから小さい頃は毎日遊んでもらった。
俗に言うおじいちゃん子だった。
幼稚園、小学校の頃は帰宅すると毎日キャッチボールをしておやつに焼き芋とかかき氷を用意してくれて食べながらTVで横浜ベイスターズの試合を応援するのが日課。
休みの日は朝早くから遠くまで散歩をしたり山登りに行ったり自然と触れ合える場所に連れて行ってもらった。
じいちゃんは学校の先生だったから子供と遊ぶのも上手だった。
中学、高校になると段々と自分も忙しく、交友関係を優先するようになり、じいちゃんの家に行く回数も減った。
不思議なもので行く回数が減ると話しかけるのが照れくさくなり、じいちゃんから話しかけてくるのを待ってそれに返事をするだけ。
会話も続かない。
社会人になってからは一人暮らしを始め、年末年始ぐらいしか顔も出さなくなった。
だけどお酒が飲めるようになったから親父とじいちゃんとお酒を飲む事もあったりで話す機会も増えた。
昔に戻って普通に話しているようで素直に嬉しかった。
そんな自分も結婚をして2人の子供が産まれた。
子供を両親に会わせるために実家に帰る事も増えた。
じいちゃんにひ孫を見せれたのは唯一のじいちゃん孝行だったかな。
それから数年後じいちゃんが肺炎で入退院を繰り返した。
結局癌だったようだ。
詳しい事情は聞かされていないけど抗がん剤の治療はやっていなかったみたい。
毎週のように子供を連れてお見舞いに行った。
最初の頃はじいちゃんもすごく元気でベンチでお茶を飲みながら話をする事もできたんだけど、毎週、毎週行くに連れて部屋からも出てこれなくなった。
そして入院先が変わったと親父から知らせがあった。
どうやらその病院は最後まで看取ってくれる施設のようだ。
お見舞いに行くと明らかに1週間前と様子が違う、動けないから足がパンパンに浮腫んでいて顔が痩せこけていた。
急激に悲しみと胃に激痛が走った。
そしてじいちゃんが手を差し出してきて握手をした。
自分と子供に来てくれてありがとうこんな所にいるな、早く帰れと言われた。
翌週にまたお見舞いに行くとばあちゃんが耳元で来てくれたよと大声で呼ばないと眠ってしまう状態だった。
そして今度はこちらから手を差し出し握手をした。
微かな声でじいちゃんがありがとう、早く帰れと言ってきた。
多分弱っている姿を見られたくないし、死が近い人間が集まる所に子供なんかつれているなって事だったのかな。
じいちゃんとの別れが近づいているのがはっきり分かった。
胃が締め付けられるほど痛い。
その晩、夕食も喉を通らず寝た。
その時、夢にじいちゃんがでてきた。
2人で楽しく会話をしていた。
会話の途中でじいちゃんが片手で目頭を押さえてもうすぐ目が見えなくなりそうだと伝えられた。
えっ何を言ってるの?
という質問をした瞬間目が覚めた。
嫌な予感がした。
その日は会社で勤務中に親父から連絡があった。
今夜でお別れする事になりそうだと。
会社を早退し病院へ急いだ。
いつもの病室にじいちゃんや家族がいなかった。
職員に聞くと部屋が変わったそうだ。
案内された部屋の前に立つと普段の入院するような部屋ではなかった。
何となく予想がついた。
部屋に入ると横たわるじいちゃんのベッドの周りに椅子を並べ家族が座っていた。
じいちゃんはもう意識がなく苦しそうに大きく呼吸をしていた。
人間の本能で生きようとしていた。
虫の息という表現がしっくりくる。
こんな時でもばあちゃんは堂々としていて、来てくれたよと大きな声でじいちゃんの耳元で叫んで知らせていた。
一番辛いのはばあちゃんのはずなのに涙一つ流さずにかっこよかった。
そして数時間、呼吸を続けるじいちゃんを見つめ帰宅をした。
食欲もなく胃の痛みも治らなかった。
夜中にやっと眠れそうなになったとき親父から着信が入った。
どんな内容かは直ぐ分かったし覚悟をした。
嘘であってくれとも願った。
勿論、内容は息を引き取ったという報告だった。
別れが近い事が分かっていたから意外と涙はでなかった。
気づいたら昔のじいちゃんとの思い出が頭の中を永遠と流れ続けた。
あの時、もうすぐ目が見えなくなりそうだと別れを告げにきてくれてありがとう。
今更遅いけど元気な時に時間を作って顔出さなくてごめん。
今では帰る度にじいちゃんの特等席に座り同じ景色を眺めているよ。