見出し画像

サイゼリアの間違い探し

 サイゼリアの間違い探しをご存知だろうか。そう、テーブルの片隅にメニューと共にひっそりと置かれているアレである。可愛らしいポップなイラストが描かれており、一見簡単そうに思えるのだが、食事が運ばれてくるまでの暇つぶしと侮るなかれ。実は非常に難易度が高く、大人が真面目にやってもすべての間違いを見つけるのは至難の業なのだ。

 それに超真剣に取り組む男がいる。うちの夫だ。彼は皿が運ばれてくるまで一言も口をきかず、よそ見もせず、時には箸で何かを測りながら、ひたすらイラストに目を走らせる。そして食後もひたむきに挑戦するのである。それでも10個見つけることが出来ず、スマホで答えを調べたりする。

 サイゼリアで食事をするのは久しぶりだと思う。どうしてここに来ることになったんだっけ。そうだ、夫が青豆の温サラダが美味しいらしいよ〜と言っていたからだ。

 15年一緒にいても、私はこの人が何を考えているのかわからない。間違い探しに何故ここまで熱くなれるのかも理解出来ない。そして向こうも私が何を思っているのか知らないだろうし、知ろうともしないだろう。

 そういえば結婚前にここへ来た時も、目の前にいる人は間違い探しに没頭していた気がする。

 食事に来たんだから会話を楽しもうぜ。たまには私の話を聞いてよ。私を見てよ。

 私達はいつも料理をシェアする。色々なものが少しずつ食べられるので、なんだかとても得した気分になる。

 イカスミパスタもタラコパスタも美味しかったし、ポップコーンシュリンプも辛味チキンも素敵だった。青豆の温サラダも勿論絶品だった。もうそれでいいじゃないか。

「あ!」
「何?」
「わかった!全部わかった!」
 夫は全ての謎が解けたことを子供のように喜んでいた。とても幸せそうな顔をしていた。


 会計後、彼は目当ての青豆サラダがとても美味しかったからまた来ようと繰り返し言っていた。私もイカスミパスタが美味しかったからまた来ようと言った。

 そのあとドライブをして、スーパーに立ち寄る。夫は体力のない私を気遣って、何から何まで全部やってくれる。特に冬場のスーパーは寒いので、いつも私は買いたいものだけカゴに放り込んで、さっさと車に戻るのだ。


 買い物袋の中には、頼んでもいないジュースやお菓子が入っていた。彼は買い物に行くと必ず私の好きなものを買ってくる。なんだかよくわからないけれど涙が出た。

こんなに好きなのに、こんなにわかりあえない
それは君と吾とがひとつでなくて
ひとりずつ別の人間なのだと気づいた時からはじまるんだ


那州雪絵(1991)「君が見ていた夢を」

 
 君と吾とは違う人間なのだ。でもわかりあえずとも、互いに支え合い、助け合うことはできるはずなのだ。

 そんなことばかり考えている自分は、強いのか弱いのか、もうわからない。




※これはフィクションです!

読んでいただきありがとうございました!
明るいはなしにするはずだったのに、な、なんでこんなことに…。

福島太郎さん、楽しい企画をありがとうございました!




 

 

 















いいなと思ったら応援しよう!