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【ショートショート】アヒルが一羽

 あるところに一羽のアヒルがいた。

 二つの頭が、並んで動く。陽光を受ける嘴は、ひまわりのように、黄色に輝いている。胴体は真っ白な羽毛に覆われて、まるで細やかな泡の塊のように震えていて、美しかった。一方が、があ、と鳴けば、もう一方も、があ、と返す。さも仲良さげである。二本の首が絡み合うように動く。アヒルは双頭であった。
 
 があ、があ。ぐぐ、ぐぐ。ぐわあ、ぐわあ。ががあ、があ、とそんな調子。いつも二羽分鳴いてまわる。
 ごはんを食べる。二つの口では、一人前のごはんがすぐに消える。倍の速さで食べ終わる。だが食べ足りない。半分しか食べた気がしない。腹が満ちても満たされないものがある。満たされずにまた、鳴く。

 双頭のアヒルは、飛べない。もっとも双頭でなくても、飛べない。でも他のアヒルは、飛べずとも気にする様子はない。双頭のアヒルはというと、ただ悲し気に、鳴く。
 一羽一羽と水に入り、ぷかぷかと浮く他のアヒルたちを傍目に見つつ、出てくるのは、二羽分の嘆き。増幅する悲しみ。共鳴する愁い。互いに慰め合うように、二本の首が、ゆらゆら揺れた。

 あるとき、実のところそれは決まりきった運命だったのだが、アヒルは突然に死んだ。打ち殺されたのだ。鳥屋の主人の棍棒が風を切る。二羽分の、断末魔。
 
 そうして、二羽分の鳴き声がとまる。双頭のアヒルは、しかし、一人前の夕餉に供せられた。

〈終〉

そういえば、北京ダック食べたことないな。春が来たら、食べに行きたい。


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