3つのフレームワークと最新理論で、これからの戦い方を捉える
今回紹介する「世界最先端のマーケティング」は非常に興味深いトピックでした。特に、チャネルシフト戦略に焦点を当てた施策について考えることは、現代のビジネス環境において重要です。
チャネルシフト戦略は、オンラインとオフラインの両方で展開される現象であり、企業が新たな顧客を獲得し、市場で競争するための鍵となっています。
チャネルシフト戦略の成功には、顧客の行動と期待を理解することが欠かせません。オンラインとオフラインの両方で購買を行う顧客のニーズや行動パターンを把握し、それに合った施策を展開することが重要です。
また、オンラインからオフラインへの進出には、物理的な店舗やサービスの運営に関する新たなスキルやリソースが必要です。これに関連して、顧客のオンラインとオフラインでのエクスペリエンスの統合が重要です。顧客がシームレスな体験を享受できるように、デジタルとフィジカルの統合が求められます。
さらに、競合他社との差別化が必要です。オフラインに進出するだけでなく、その進出先や提供する価値をユニークに設計し、競争優位性を築くことが成功の鍵です。
次のステップとしてデータと分析がチャネルシフト戦略の成功に不可欠です。オンラインとオフラインのデータを統合し、顧客行動を洞察することで、施策の最適化と効果測定が可能となります。
要するに、チャネルシフト戦略は、オンラインとオフラインの両方で顧客にリーチし、競争力を維持・向上させるために重要です。そのためには、顧客理解、統合体験の提供、差別化、データ活用が不可欠です。この本がどのようなアプローチや成功事例を提供するのか、非常に興味深いですね。
これを実践する企業は「個客」を認証する技術を活用して、その行動データを収集し、多角的な分析をした結果をもとに、1人ひとりに最適な提案を仕掛ける。
すると顧客は、完全にそのサイクルの中に取り込まれてしまうという、マーケティング要素自体が変革した時代にあってカナリアコミュニケーションズでも自社にどのように取り入れていくか、また活用事例をもとにグループ企業や関係企業へ、どのように水平展開できるか考えていかなくてはならないと思います。
本書ではその戦略について、フレームワークと事例を通して解説されていました。
チャネルシフトは、これから加速していくでしょうし、そのすべてを既に完全に成し遂げた企業があるわけでもありません。これは終わりのない戦いです。
その意味では、本書が示した事例は、兆しに過ぎないのかもしれません。しかしその「狙い」は徐々に明らかになってきているのではないでしょうか。
Amazonを筆頭にチャネルシフトを仕掛ける企業は、自由にオンラインとオフラインを行き来する顧客に対して、無作為にチャネルを配置しているわけではありません。
明確な戦略意図を持って、顧客のどんな行動データをどの程度把握するかを決め、そのための仕掛けとしてチャネルを配置しています。
そして様々なチャネルから把握した顧客行動データを踏まえて、斬新な提案を繰り出してくるのです。
それは最適化された情報提供や配送の見直し、さらに顧客ごとに異なる価格設定やPB商品の開発などに及んでいます。
本書では、「顧客とのつながり」という言葉が頻繁に使われており、「つなぐ」とは顧客との対話によって創られるものであり、対話とは、顧客から提供される行動データと、それに応じた企業からの提案であるから、それが顧客の購買体験の質を大きく左右し、その企業やブランドへの気持ちや行動を変えることになるのです。
従来型のオフライン店舗では、顧客とのつながりと言うと、来店客との直接的な会話や馴染みのお客様と店舗スタッフとの関係性を思い浮かべることが多いと思いますが。これからは、そのような人的なつながりが重要になっていることは間違いないと思います。
しかしそれだけでは、多くの「個客」を認識できないし、せっかく築いた「つながり」という資産は可視化ができませんよね。可視化できないものは組織内で共有することができないし、そうなると企業単位のマーケティングに活用できません。
現場が顧客と良いつながりを築いても、それが最前線のオペレーションレベルで留まってしまい、経営に活かされないんですよね。
これは企業にとって、大きな成長機会の損失です。
チャネルシフト戦略は、言い換えれば、オフライン市場のデジタルトランスフォーメションです。
顧客の行動データをいかに蓄積するか、そしてそれをどう活用するかは、これからの経営全体においての大きな戦略要素になるのです。本書に書かれていた事例が、すべてではないはずです。
方法は様々にあるはずで、たしかに通販企業やオフライン店舗を展開する企業も、これまでは顧客データを活用してきた。
しかしその多くが、「購入」という「点のデータ」だったんです。これに対してオンライン企業は、顧客の買い物行動プロセス全体での行動データを重視するのみにとどまっています。
データをオンラインに循環させて活用できる企業から見れば、行動データ獲得のためだけでも、オフラインに進出する価値は十分にあると思います。オンラインでのつながりに、オフラインの店舗などと組み合わせると、購買体験は圧倒的に強く深いものになるはずです。
チャネルを単なる販売の場と捉えているオフライン企業は、そのことを忘れている気がします。その隙をついているのが、オンライン企業なのです。このようにオンライン企業は、遥かに大きいオフラインでの接点に入り込み、顧客とのつながりを創ろうとしているのだと本書は伝えています。
「オンラインの市場は1割に過ぎないが急伸している」と捉えるか、「オンラインの市場は急伸しているが1割に過ぎない」と捉えるかで、危機感はだいぶ違います。
これまでは、オフラインからオンラインへと、顧客の買い物行動が徐々に「移行」するといった感覚を、多くの実務家が持っていたのではないでしょうか。
しかし、いま始まっているのは、移行ではなく「融合」です。Amazonのホールフーズ買収が大きな衝撃だったのは、その実感を多くの実務かに与えたからに他ありません。
しかし同時に社内で「マーケティングがうまく進まない」という課題を多くの企業が抱えています。
それが難しいのは、既存の店舗や業務で縦割りにされてきた組織に、顧客の行動データという横串を通そうとするからです。
そしてオンラインとオフラインを担う部署や人材は、上場企業でサラリーマン生活も長かった私の経験から照らし合わせても概ね仲が悪いです。
そんな理由かと笑われるかもしれないんですが、往々にして変革が頓挫する最大の原因は、組織内に機能が不足し ているからではなくて、協業の文化をつくれないからです。
そもそも部署内で使用する言語が違ったり、計画を立てるスパンがまったく違ったりするわけです。そこに横串を通して協力するのは、現業を進めながらではなかなか難しいものがあります。
本書でも述べられているのが、このような環境変化の激しさと、多くのオフライン企業の対応の遅さというギャップに、危機感を持ったからで、いま必要とされているのは、各企業のオンラインとオフラインの人材が、いま起こっていることに対する危機感を共有すること、そしてその解決に向けて協業できる思考の枠組みを持つことであると締めくくっています。
本書にはそのための事例と、フレームワークがふんだんに示されており、これらは、1つの専門性を持つ個人が1人で読んでも、あまり意味はなく、単に事例を知ることではなく、そこに自社を当てはめて思考して、周囲と協業することであるといえます。
チャネルシフトという新しい戦いは、すでに始まっています。本書をぜひ、変革への挑戦の現場で活用していただければと思います。
今回は以上となります。