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【極超短編小説】ツボ


 公園のベンチ。首をぐるりとまわすとボキボキと鳴った。疲れが溜まっているようで肩や首筋がこわばっている。
 「どれどれ」
 と彼女が親指で僧帽筋のあたりを押してくれる。もちろんくわえ煙草で。だけど微妙にツボに入らないし、彼女は直ぐに飽きてしまって何事もなかったかのようにラッキーストライクをふかしはじめる。
 「お腹すいた」
 「そうだね。僕、部屋で作るよ」
 「まめだよねぇ」

 「これ」
 テーブルに向かい合って座った彼女が指さす。
 「豆腐」
 「これ」
 「醤油。冷やっこ、おいしいよね」
 「これ」
 「枝豆。季節だよね」 
 「これ」
 「味噌汁」
 「これ」
 「納豆汁だから、納豆でしょ」
 「これ」
 「具の油揚げ」
 「これ」
 「油揚げだけじゃさみしいから厚揚げ入れてみました」
 「‥‥豆」
 彼女は箸をとった。
 やっぱりこういうのが彼女のツボだったらしい。


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