【短編小説】鉄塔の町:延びる影
幹線道路といっても交通量はそれほど多くなかった。思い出した頃にスピード超過気味の車が気持ちよく走り去るくらいだ。その幹線道路のガードレールで仕切られた歩道を、僕の部屋に向かって彼女と並んで歩く。太陽は傾き始め二人の影は真っ直ぐ僕たちの前方にある。
落ち着いてはいるけれど、どこか居心地の悪いような無言の時間。二人の黒い影は刻々と長く延びていく。一歩ごとにゆらゆら揺れるその影はいつの間にか手をつないでいる。
僕の左手を握っていた彼女の右手に突然力が入った。思いがけないその強さに僕は思わず彼女の顔を見る。次の瞬間、僕が地響きを感じたとき彼女は立ち止まり、二人の後ろから来て過ぎ去っていくトラックに目を見開いた。
僕は彼女の視線の方へ目をやると、トラックが何台も何台も走り去っていく。優に数十台以上は車列をなしているだろうか。そしてそのどれもが同じカーキ色の軍用車両だった。荷台の幌の後ろは開け放たれていて、中には多くの人がいるのが分かった。兵隊ではない。子どもや老人も乗っている。
「何だか、すごいな」
僕は軍用車両の車列に驚いて言った。
「避難民よ…」
ディーゼルエンジン特有の機械音の中、彼女の声がわずかに聞こえた。
「避難民?」
僕は彼女の言葉にドキリとして、その言葉を繰り返した。
僕の目はトラックそのものではなく、トラックの幌の中に吸い込まれた。
避難民は一様に開け放たれた幌から外を見ている。薄闇の中に感情の見えない白目が漂っていた。
実際はそれほど長い時間ではなかったはずだが、僕の感覚は引き伸ばされ、避難民を運ぶ車列は途切れなく永遠に続くように思われた。最後の車両が僕たちの横を通り過ぎるときには、彼女と僕の影はとても長く延びていて、トラックの幌の中に吸い込まれていく気がした。
すべての軍用車両が走り去った後、立ち込めていた息苦しい煤が薄まるまで、僕の手を握る彼女の手から力が抜けることはなかった。
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