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肩関節はどこまで?
こんにちは。
診療放射線技師のだーはらです。
今回は、肩の検査に関するお話です。
肩の痛みは多くの人が経験し、病院を受診される方も多いです。
肩の動きには多くの筋肉や靭帯が関わっており、痛みの原因を探るには、MR検査が非常に有効です。
しかし、肩の痛みと言っても場所は様々、MR検査を受けたけど原因がわからないこともあります。
今回は、そんな検査の落とし穴を紹介したいと思います。
診療放射線技師のみなさんも、肩に痛みがある人も、ぜひ最後まで読んでいってください。
肩関節はどこまで?
肩関節は、MR検査依頼の頻度が高い関節の一つです。
症状をある程度詳しく書いてくれている検査依頼であればよいのですが、"肩関節痛"としか記載のない検査依頼もあります。
さて、皆さんにとって、"肩関節"といえばどこを指しますか?
腕の付け根あたりを指しますよね。
診療放射線技師であれば、肩甲上腕関節や肩峰下関節を指す人が多いと思います。
MR検査で撮像している範囲は、診療放射線技師以外の人たちが思い浮かべているよりずっと狭いです。
通常、MR検査は四角形の画像で表示され、その一辺の長さをFOVという言葉で表現します。
肩関節MRの場合、多くの病院で140〜180mm程度のFOVが採用されていると思います。
大体、肩甲骨がギリギリ入る程度です。
"関節痛"という言葉を聞くと、骨同士の関節を思い浮かべてしまいますが、実際の関節痛は骨だけでなく、筋肉や靭帯、軟骨の損傷などが伴っています。もし、肩を動かすと痛みが出る、動かせる範囲に制限がある、押すと痛みがある(圧痛)など、腕の付け根に症状がある場合、肩関節MR検査が有効なことが多いです。
そんななか、首から肩にかけての痛みや、背中の肩甲骨周囲の痛みを"肩の痛み"と訴えられる患者さんも少なくありません。
"肩揉み""肩たたき"なども、"肩関節"というより"背中"に近いですよね。
すなわち、首の付け根から肩関節に至る背中部分の痛みを"肩の痛み"として認識している人が多いのです。
医療機関において、背中の痛みを"背部痛"と表現することが多いのですが、"背部痛"と"肩関節痛"では原因が異なることが多いのです。
人体の中で、体の中心に近い場所を"近位"遠い場所を"遠位"と表現するのですが、痛みの原因の多くは、痛みのある場所そのものか、それより"近位"に由来することが多いです。
"肩の痛み"で受診した際に、肩の検査だけでなく、頚椎(首の骨)や胸椎(背骨)の検査をすることがあるのはこのためです。
もし、転倒など背中に強いダメージを受けた後から肩の痛み(肩甲骨周囲)が出現し、MR検査となった場合、大きな落とし穴があります。
その落とし穴は"肋骨"です。
体に強いダメージを受けた時、骨折していなくても、骨そのものにダメージが残ります。
これを"骨挫傷"といいます。
いわゆる"ヒビが入った状態"です。
肋骨の場合、骨折して骨がズレていない限り、通常のX線写真で骨挫傷を判断することは難しいです。
この肋骨なのですが、ダメージを受けた場所によっては、肩関節MR検査しても、頚椎や胸椎MR検査(背骨)を検査しても撮像範囲に入らない場合があります。
CT検査で偶発的に見つかる場合や、検査を担当する技師が肋骨を狙った工夫を行い見つかる場合もあります。
ここで前提としてお伝えしたいのですが、診療放射線技師はあくまで“医師または歯科医師の具体的指示のもと“検査をおこなっています。
肩関節MRの依頼を頚椎MRに変更する事はできません。
そのため、依頼された検査を行う上で、症状に合わせて画像の調整を行う場合があるのです。
検査に携わるスタッフとしてやるべき事は、“症状の聞き取りをしっかり行い、広い視野で画像を観察し、工夫する“事です。
診療している医師は、患者さんの症状と照らし合わせながら画像を診ています。
検査をする診療放射線技師が、症状を詳しく聞く事もなくルーチン検査に終始していては、“診たいものが見えない画像“になる可能性があります。
時にはFOVや角度を変えて広範囲に観察して見たり、ルーチン以外の画像を追加することで、症状の原因を発見することができるかもしれません。
私は、脊椎MR検査で背部痛や腰部痛の場合、冠状断の脂肪抑制T2強調画像を追加する場合や、周囲筋組織や肋骨に損傷がないかをスクリーニングしたり、横断像のFOVをあえて広げて撮像する場合もあります。
また、“画像に描出されているに気が付かなかった“という経験は、診療放射線技師であれば誰でも通る道です。
“関節“の検査をしていると、どうしても関節部分に注目してしまいがちです。
間接を一通り見たあとは、症状と照らし合わせながら、画像全体をよく観察することを心がけましょう。
今回は、肩の検査に関するお話でした。
“ルーチン検査““スタンダードな検査“というのは非常に大切です。
その中において、“画像を通して症状の原因にアプローチする“ということを念頭において検査に取り組んでみてください。
きっと、検査の質が大きく向上すると思います。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
症状の聞き取りを大切にしましょう。