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口に出さない若隆景と体温計理論

2024年7月13日放送のNHK大相撲どすこい研「十四日目運命が動く日」の録画を最近改めて見直して気づいたことがあったので書こうと思います。かなり前の放送ですので、ネタバレしますがご容赦ください。

十両と幕内は15日間、毎日相撲を取ります。(ちなみに幕下以下は半分の七番です)

関取は15日間、ひたすら一日一番の真剣勝負が続きます。長いだろうな、心身ともに相当疲弊するだろうなと、決勝まで進んだとしても2日で大会日程が終わるスポーツ経験しかない私はその過酷さをいつも遠くから想像します。

言いたくない

番組では鍵を握る本場所の十四日目に注目し、その勝率を計算。現役で最もその勝率が高かったのが、荒汐部屋の若隆景関でした。

スタッフにそのデータを見せられたご本人がこう言いました。

「疲れは感じる、でもそういうことをあまり言いたくない」

この番組をリアルタイムで視聴していたときは、この発言に対し「くぅ、なんとストイックで、我慢強い、まるで武士だな」などと胸熱になり、さらに応援する気持ちを強めていました。

でもいま、放送から半年がたち改めて見直すと、ふと別の感想が浮かびました。

「つらいとかきついとか疲れたとかのネガティブなことを口に出さないことで、それを事実にしない効果が発動し、結果、体はまだまだよく動き、心も保たれ、高い勝率を上げているのではないか」と。

言っても仕方がない

さらにもう一つこう感じた補強材料を。
かつて放送されたフジの荒汐部屋密着番組でのひとこま。若隆景関は2023年3月場所の取組で右膝に大怪我を負ってしまったのですが、番組取材はその術後のリハビリのさなかでした。「悔しい気持ちはあるか」といった主旨のことを記者に聞かれた時、若隆景は「そんなこと言っても仕方がないから」とピシャリと遮ったのです。ご本人に遮るつもりはなかったかもしれませんが、テレビの前の受け手としてはそのように感じられる声のトーンでした。

若隆景はつらいときにつらいと口に出して言わない。大怪我したその取組後も、さすがに顔を歪めていましたが、自力歩行で花道を下がっていきました。しかも取り直しの一番を終えて…。

なお、怪我からの復帰後には当時の心境を自らの言葉で語っています。

自分が最初に影響される

疲れていても疲れた、焦っていても焦っていると口に出さない力士が十四日目に高い勝率を上げて、幕内最高優勝までしている事実から、私のような一般人が学べることがあるとすれば、いつもいつもネガティブなことばかり言ってると良いパフォーマンスが発揮できないよ、ということでしょうか。「だるー」「もうダメかも」とネガティブな言葉が頭に浮かんでも全部は口に出さないほうがいい。口に出すと一番にまず自分がそう思いこんでしまうから。

体温計で熱を測ると、その数字を見て急に具合が悪くなる現象と同じです。自分で認めたら終わり。

弱音を吐かないことでパフォーマンスの質を高めている若隆景関(30)、そのメンタルコントロールは天性のものでしょうか、後で身につけた技術なのでしょうか。まだ30歳と一般社会でいえば若いのに立派です。

三兄弟の末っ子で負けず嫌いな性格と聞き及びます。でもそれだけではない彼の強さの秘密を垣間見たように思いました。

土俵には人生のすべてが詰まっているなぁ。マニアックですみません。

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