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俺は、絶対!渋谷第三ビルへ行きたい!

 明日は7時に目覚ましを掛けよう。
 面接だ。
 渋谷に15時。
 早く、起きすぎだろって思ったんだろ。
 甘いな。
 
 4023年10月5日、朝7時。
 ジ、ジ、ジ、ジ、ジ♪ アラームが鳴る。
 「パワーオン」 俺の部屋のAIも起きる。
 ウェットシートで顔を拭いて、WAXが出る櫛で髪を撫でる。
 アイロンクローゼットから、スーツをライダースーツの様に、足と袖を通してチャックを上げる。
 最後にぶらんとしているネクタイの結び目をパチッと止めればバッチリ。
 俺は外を見た。
 アスファルトに眩しい朝日が照っている。
 葉をすっかり落とした街路樹。
 その街路樹のすぐ側を、時折、レーサー並みの速さで、車椅子が掛けていった。
 「はぁー」 今日、これからの一日を思うと、先が思いやられる。 まずはバスに乗らなくては。
 バスで町田まで出て、そこから電車で渋谷へ直通の路線に乗る。
 よし!出来る!きっと俺は渋谷に辿り着ける!
 アパートから出ると、シンとしていた。
 少し緊張しながら歩道をバス停へ歩いてると、後ろからシャーっと車輪の回る音が聞こえた。
 「うわっ」 驚いて端に避ける。
 「ばかやろう!あぶねーだろ!」
 電動車椅子だ!バイク並みの速さが出る新車が最近話題になってたが、これか。 
 歩道の端、側溝の蓋の上を、またビクビクしながら歩き出した。
 ああ、早く定職について車がほしい。 というか、車椅子専用歩道と、歩行者専用歩道を作ってほしいよな、、。
 リンリンリンリンリン! 端によってじっとする。 シャッ! もう一度車椅子が通り過ぎる。
 もう、来ないかな。
 「視覚障害者が通ります。安全のため、道を開けてください」 アナウンスが流れ、穏やかに視覚障害者用カートが通り過ぎていった。
 通り過ぎる時に、軽く会釈をしていった。  なんだか、少し心温まる。
 よし! 気を持ち直してバス停を目指す。
 歩道の端を出来るだけ身体を細くして歩いていくと、程なくバス停に着いた。
 やれば出来るじゃん!あとは乗るだけ!
 バス停には、もう3人並んでいる。
 さっきの自分を追い越していった人たちだ。と、俺の後ろに、もう2人並ぶ。
 定刻通り、バスが着た。
 7時58分。
 このバスなら俺も乗れるはず。
 プー!
 バスが目の前で停車する。
 停車後、ゆっくりバスが車高を下げる。
 嫌な予感。
 「こちらのバスは身体障害者優先バスになります。それ以外の方は、列の最後でお待ち下さい。」
え?何?列の後ろに並び直すの?
 「列の後ろにお並び下さーい!」運転手の声。
 明らかに俺に言ってる、よな。
 でも、乗れるなら。これも仕方ない。 すごすごと列の後ろに並び直す。
 1人、また1人と乗り込む。1人ずつ電動で上げるから時間が掛かる。
 思わず貧乏ゆすりをしてると、前の男性が小さく「足があるなら歩けよっ!!」と吐き捨てるように言った。
 その前の男性は俺に同情するような目を向けて、苦笑いをする。
 ようやく、俺以外が乗り終わり、さぁ乗ろうとすると、「このバスは定員となりました。次のバスをお待ち下さい。」とアナウンス。
 「え?次のバスって、健常者も乗れますか?」
思わずでかい声で運転手へ聞く。
 「次のバスをご利用下さい。」
 「それ、乗れるんですか?」
 「発車します。下がって」
 くっ!と思ったが仕方ない。
 これを見越しての7時起きだ。

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