タイピスト1
ある日A氏が寝ていると、しきりにどこかからカタカタと音がする。
耳を澄ましている内に目が覚めてしまい、寝返りをうって時計を見た。
午前2時だ。
まるで耳元で誰かがタイピングしているようだ。そして時々、正にタイプライターの行を変えるが如く、ガタッと大きな音がする。
そうだ、これはタイプライターの音だと、A氏は思った。
しかしA氏は1990年生まれであるから、タイプライターの音など実際は聞いたことがない。だから、本当にタイプライターの音かA氏に分かるはずもない。
そもそも、ここはA氏の寝室で、タイプライターなど無いのだ。
家族はみんな寝ている。
さて、これは何だろう。 音は確かにタイピングの音のようであるが、実際のタイピングの音程大きくはない。 音を説明しようとすれば、小人が耳元でタイピングしている、というところだろうか。
そんなことが幾晩かあった。
A氏は念のため耳鼻科に行ったが、A氏の耳は至って正常であった。
しかもこの音は昼間には聞こえない。
注意していると、夜寝ている時、ベッドに横になると聞こえ出すのである。
ベッドから聞こえているのかと思い、ベッドに這いつくばって耳を寄せてみたが、どうもベッドからではないようであった。