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タイピスト2

 そしてある晩、A氏がやはり寝ている時、カタッと普段より少し大きな音が一度し、「ああこれは」と声がした。
 はっと覚醒したが、カタカタという音は消えていた。
 「ああこれは」とは何か。少し嘲笑するようでもあった。
 益々気になる。

 A氏は昼間ずっとこの音の問題について考えたが、結論は出なかった。
 そしてまたある日、「なるほど」と頷くように声がした。
 本当に小人がいるんだろうか。
 A氏はこの奇抜な考えを一時的に受け入れることにした。どんな不条理も飛び越えて、今はこの問題を解決することが先決だ。 
 翌、日曜日、A氏はスーパーで燻煙式殺虫剤を買ってくると寝室で炊いた。
 彼にUMA捕獲とか、未知への探求心はない。 
 昼間殺虫剤をセットしていると、自分でも少し馬鹿馬鹿しい気がしたが、とにかく音を取り除くことだ。
 しかし晩には例の如くカタカタとなり始め、そしてまるでA氏を嘲笑するように「あーあ」と声が笑った。
 これは彼の勘に触った。
 それはちょうどA氏の息子がまだ小さいころに、息子に妻の真似をされた時に似ていた。
 A氏はついカッとなり、「“あーあ”とは何だ」と口に出した。
 すると僅かに「ひっ」と驚くような声がした。
 A氏も驚き、反射的にベッドから飛び起きた。
枕元を見るが誰もいない。

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