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お部屋からすぐ出ていく年少さん

10月になると、多くの年少さんたちも落ち着いてきます。それでもなかなか落ち着けない園児、お部屋から出ていってしまう園児がいます。

一人一人にお話を聞くと、お部屋にいなくてはいけないことはわかっているようです。

それでも、お部屋から出て行ったり、お部屋の中をうろうろと歩き回る園児さんがいます。

そうした年少さんたちがなぜお部屋から出ていくのか、なかなか理解できませんでした。

彼らの多くはお部屋の中のザワザワした声や音、他の園児たちの動きからくる刺激から逃れようとしているみたいです。

まだ3歳なので、どうしてお部屋からでていくか、言葉で上手に説明できません。

そうした子どもたちは、感覚が過敏といいますか、本人にとっては刺激が多かったり、強かったりするようです。


様々な感覚に対して敏感な特徴は、なかなか変わっていきません。しかし、保育者との関係がしっかりと出来上がっていくに従って、徐々に感覚に対する過敏さが減っていきます。その理由として考えられるが、子どもが感じる安心感です。

子どもの安心感に大きく影響するのが、アタッチメント(愛着)形成です。このアタッチメントは、養育者、多くは母親との間で作られます。また、保育園・幼稚園に入ると、保育者とのアタッチメントが作られていきます。このアタッチメントが形成される期間や強さには、個人差があります。また、保育者との相性によっても期間や強さの違いがあるようです。
子どもと保育者の間でアタッチメントが作られていくことにより、子どもの心に安心感が大きくなっていきます。

このアタッチメントという概念は、日本語にするのがなかなか難しいです。一般に使われている「愛着」の意味は、なれ親しんだものに深く心が引かれることです。しかし、心理学で使われる「愛着」の本来の意味は、ボウルビーによると、「自らが安全であるという感覚(felt security)を確保しようとする生物体の本性に基づき、危機的な状況あるいは潜在的な危機に備えて、特定の対象との近接を求め、これを維持しようと個体(人間やその他の動物)の傾向」です。(Bowlby,1968/1892)なんだか、難しいですね。

ボウルビーはその後、愛着について次のように言いなおしています。
「特定の対象との情緒的な結びつきを指し、乳幼児が母親との情緒的な相互作用を通して形成される、母親との確固たる絆である。」

現代では、母親だけではなく、父親や一緒に暮らしている親族などの養育者や、保育園や幼稚園の保育者も愛着対象になると考えられています。

実際の保育の場での子どもの姿としては、なついてくる、いつも保育者のそばにいる、いつも一緒に遊ぶ、何か不安なことがあると保育者のそばくっついて離れなくなるなどの姿が見られます。このような姿を見せながら保育者とのアタッチメントが形成されていきます。アタッチメントによる情緒的絆がつくられ、安心感が増えることで、子どもたちは嫌な刺激があっても耐えられるようになっていきます。

子どもが保育の場で安心して生活するためには、子どもと保育者とのアタッチメントによる絆情緒的絆がしっかりと作られることがとても大切になります。


残念ながら、すぐにお部屋から出ていく子どもは、不安になりやすい子どもが多いです。そして保育者とアタッチメントを形成するのに時間がかかります。また、先生の言うことを聞かない子悪い子と思われがちです。保育者が言うことを聞いてくれない子と思うと、どうしても注意することが多くなります。そのため、子どもと保育者との間で良好なアタッチメントが作られにくくなります。

多くの場合、本人もお部屋から出ていってはいけないことは理解しています。けれど、本人的には、お部屋にいられない理由があります。それを言葉で説明できないから困っていることがあります。

こうした理由から、お部屋からすぐに出ていってしまう子、お部屋の中で走り回ってしまいやすい子に対して、保育者は、子どもと遊びや褒めることを通して、情緒的絆が結ばれる関係を作っていくことが大切です。一見遠回りのように見えて、実はいちばんの近道です。

 五感すなわち、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚は、一人一人の感じ方が大きく違います。幼児の場合、大人よりも鋭敏なことがあります。その一方で非常に鈍感なこともあります。
ですから、子どもと関わるときに少し立ち止まって、この子は一体どんな感覚の受け取り方をしているのだろうと想像してみてください。そうすることで、子どもが何で困っているのか感じ取れることがあるかもしれません。

お部屋から出ていく子に保育者は困っているとおもいますが、それと同時に子供も困っていることに気がついていただけると幸いです。

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