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ヴィッセル神戸25シーズンの補強動向と戦力分析
2月8日に開催される「FUJIFILM SUPER CUP 2025」で新シーズンがスタートするヴィッセル神戸。SUPER CUP後もリーグ開幕までにACLEのゲームも予定されており、昨年以上の過密日程がいきなり待ち構えている。
今回は昨年に引き続き、ヴィッセル神戸の補強動向と戦力分析をまとめた。リーグ3連覇と悲願のアジアタイトルへ挑むヴィッセルの「今」をお届けしたい。
※選手の動向は本稿執筆時点(2025年2月5日)の情報
例年に比べ「静かなオフ」。ただチームの骨格は整っている
2024年にJリーグ2連覇を達成したヴィッセル神戸。新シーズンは史上2クラブ目のリーグ3連覇、さらにはクラブが悲願に掲げるアジア制覇へ挑むことになる。
とはいえオフの動きは例年に比べ静かだった。新加入選手は7人。23年シーズンのオフに12人(レンタル復帰2名を含む)が加入したのと比べれば、このオフがいかに静かだったかが分かる。さらに他クラブへ移籍したのが山口蛍(→長崎)、菊池流帆(→町田)といった主力組だった点も気になる。本稿執筆時点でリリースはないが、初瀬亮も海外移籍を目指しクラブを離れており、新シーズンへ挑むには積み上げが少ないオフとなった。
ただ23年オフと今オフではチーム状況が違っている点は考慮したい部分だ。23年オフはスタメン組と控え組の実力差が大きく、戦力の底上げが急務だった。クラブは宮代、井手口、広瀬といった実力者を積極的に獲得。2チーム分の戦力を整え、シーズンを走り切った。今オフも数名の主力が抜けたとはいえ、23年オフでチームの骨格が整っていたと考えれば「静かなオフ」にも一定の理解ができる。
主力の移籍に対してピンポイントでの補強に動く
主力の移籍に対して、クラブもただ手をこまねいていたわけではない。
まず層が薄かったSBのポジションに、岡山から本山を獲得した。ヴィッセル神戸ユース出身のユーティリティプレイヤーの加入により、昨季本職ではない鍬先や菊池が務めたSBに厚みが生まれた。これで鍬先を本来の中盤で起用できる計算が立つ。さらに中盤には長期離脱から齊藤未月の復帰も見込まれ、数の上では山口蛍の穴をカバーできる。
菊池の移籍で層が薄くなったCBには、コリンチャンスから新外国人のカエターノを獲得した。守備能力の高さはもちろん、ビルドアップや後方からのロングフィードで攻撃にもプラスアルファをもたらせる逸材。左利きという点も魅力で、状況によってはSB起用も予想される。
さらに前線には東京V(昨年はレンタルでY.S.C.C.横浜でプレー)から橋本陸斗を加えた。ドリブル突破とクロスが魅力の左利きのアタッカーで、19歳と将来性も高い。プレー強度に適応できるかが鍵だが、少なくともカップ戦では早い段階から起用が予想される。初瀬以外に左から順足でクロスを上げられるプレイヤーはクラブにいなかった。物怖じしないパーソナリティも神戸向きだ。アタッカーには2026年からユースの濱崎健斗も加入が内定。過密日程を考えれば、予想以上に出場機会が巡ってくるかもしれない。
ユースから昇格したCB山田海斗は、パートナーシップ締結が発表されたシアトル・サウンダーズFC(アメリカ)のリザーブチーム、タコマ・ディファイアンスに期限付き移籍が決定している。
GKには福知山成美高校のウボング・リチャード・マンデーが新加入した。
誤算は初瀬の離脱。Jリーグから欧州への移籍は第3フェーズへ
ここまでの動きはクラブとしてもほぼ計算通りだったはずだ。予定外だったとするなら、初瀬の海外移籍を目指してのチーム離脱だろう。昨季もLSBのレギュラーとして連覇に貢献。セットプレーの精度も高く、彼のロングキックは戦術の一つになっていた。23年のオフにはベルギー移籍を断って残留したが、彼も27歳。かねてから日本代表入りが目標と公言しており、連覇を置き土産にステップアップを考えたのも無理からぬことだ。
Jリーグから欧州への移籍は、日本代表クラスが海を渡った第一フェーズ、若く才能がある選手が青田買いされる第二フェーズを経て、現在は年齢に関わらずリーグのスタメンクラスが引き抜かれる第3フェーズを迎えている。背景にはいくつか理由があるが、円安の影響は大きい。Jリーグクラブが海外選手を獲得する際の予算も高騰しており、クラブも難しい立ち回りを迫られている。MCO(マルチクラブオーナーシップ)をはじめ世界規模でスカウティングネットワークが張り巡らされ、好選手が国境をまたいで「見つかる」ようになったのも一因だ。
話を本筋に戻すが、初瀬クラスの選手を獲得するのは一筋縄ではいかない。そこで神戸はまず横浜FMから左利きのSB小池裕太を獲得した。近年は怪我が多くコンスタントな出場機会を得られていない点は気掛かりだが、神戸が獲得したなら勝算を見込んでのことだろう。これまでも契約満了や負傷離脱が多かった選手獲得で成果を挙げているだけに、編成スタッフの目を信じたい。
SBにはチーム始動日から練習参加していた松田陸もG大阪から加入が決まった。昨季は負傷離脱が長く出場機会が限られていたが、クロスと攻撃参加が魅力のベテランプレイヤーだ。とくにビルドアップでの貢献が期待できる。コンディションを整え神戸の強度に適応できれば、計算が立つ戦力になる。初瀬の穴をチームの総合力で埋めるのが狙いだろう。本山が右SBで早い段階からフィットすれば、酒井を左SBに起用する案もある。広瀬も昨季はLWG起用が多かったが、本来はSBが本職だ。カエターノはCBに適性があると見ており、起用法はシーズンが開幕してからの様子見だ。
繰り返しになるが、初瀬クラスの選手獲得は一筋縄ではいかない。クラブとしても初瀬の動向を見守りながら、開幕へ向けて編成を進めた印象だ。
気掛かりな吉田監督の「補強要請」。連覇したクラブならではの難しさも
冒頭でチームの骨格は整っていると述べた。しかし今オフの補強は昨季出場機会が少なかった選手が多く、はっきりとした積み上げは見えづらかった。端的に言えば、物足りなさを覚える。
吉田監督も取材に対して戦力の頭数が足りないと言及しており、編成部へ向けて「補強要請」をしている。開幕から過密なスケジュールが組まれ、主力メンバーの年齢層が上がっている点を踏まえれば、指揮官としても頭が痛い状況だ。
一方でクラブが置かれている立場にも難しさがある。2連覇を達成したクラブは、ほぼすべてのポジションに主軸が揃っている。永井SDはオフのメディア出演で、昨季の宮代のようにレギュラー争いに挑むような野心ある選手が少なく、移籍市場の反応は芳しくないと述べていた。選手からすれば出場機会が保証されたクラブを選ぶのは自然な流れだ。
神戸としても、わざわざ資金を積んでまで控え選手を獲得する余裕はない。豪華なメンバーが揃うため金満とも揶揄される神戸だが、ここ数シーズンは限られた予算で獲れる選手を獲る堅実路線を歩んでいる。2連覇で選手の人件費が高騰する一方で、クラブは赤字体質の改善を進めている。永井SDも黒字化を求められていると述べており、イニエスタ時代のような「投資」的な補強は打ち止めの様子だ。ここ数シーズンは収支のバランスに気を配るような立ち回りが多い。周囲が考える以上に、編成部が自由に使える資金は限られている様子だ。
後述するが、若手を積極的にレンタルし出場機会を与えながら、成長を促しているのも今後への布石ではないだろうか。
いずれにしろ、今後も余程大きなアクシデントがなければ、即戦力の補強は予想しづらい。今季も現状のメンバーが一丸となり、吉田監督のマネジメント能力に期待するシーズンとなりそうだ。
ヴィッセル神戸2025ポジション別戦力分析
ここからは各ポジション別の戦力を分析していきたい。基本のフォーメーションは一昨年から継続している4‐3‐3を想定。ゲーム中に可変はするが、基本の立ち位置はこの並びだ。
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GK:正GKは前川が不動。新GKコーチの加入がどう変化を与えるか
大きな動きはなかったが、高いレベルの選手が揃うセクションだ。
正GKは前川が不動。一昨年に引き続き24年も守護神の名に相応しい活躍を披露した。30歳の年齢は、GKとしてまだ成長が見込める。その意味ではシジマールGKコーチが退任し藤原GKコーチ、松本拓也アシスタントGKコーチの新体制がどのような刺激を与えるのか注目が集まる。
2ndGKは新井が一番手か。昨季はオンザピッチでのプレーだけでなく、オフザピッチでも明るい振る舞いでチームを盛り立てた。オビ・パウエルも昨季以上の出場機会を狙っているはず。実力者2人が控えるのは過密日程を戦うクラブにとって大きな支えとなる。
新加入は福知山成美高校のウボング・リチャード・マンデー。194cmのサイズ感だけでなく、ナイジェリアにルーツを持つ身体能力の高さは魅力だ。キャンプでの練習からも素材の良さがうかがえ、「ほんまに」発言でサポの心もがっちり掴んだ。成長が楽しみだ。
LCB:トゥーレルが今季も軸。カエターノの活躍にも期待
LCBは今季もトゥーレルが軸になる。対人能力、空中戦、スピード、ビルドアップと現代CBに求められる能力を高い水準で兼ね備えている。個人的にはJリーグNo.1のCBという評価で、筋肉系のトラブルが減り年間を通して稼動できたのも頼もしい。
2番手はコリンチャンスから加入したカエターノだ。プレー映像や本人のコメントからもCBが本職か。映像では守備能力だけでなく後方からもロングレンジのボールを蹴り込めるなど、昨季後半戦ビルドアップにも取り組んだ神戸に新たな可能性をもたらすかもしれない。早期にフィットすれば、大きな戦力となる。
昨季はSB起用が多かったが、本多もスタメンで十分計算できるプレイヤーだ。ハイボールへの対応は素晴らしく、マーカーを「封殺」するプレーは職人技。今季も状況や時間帯に応じてCBでもプレーしそうだ。
RCB:新キャプテンに就任した山川。岩波は出場機会が増えるか
RCBのスタメンは山川だ。新キャプテンにも就任し、すっかり神戸の顔へと成長した。近年はプレーだけでなく積極的に後方から声を出すメンタル面の成長も著しい。ビルドアップ能力がさらに伸びれば、代表も視野に入ってくる。山口から託された腕章を巻き、さらに飛躍したい。
昨季古巣復帰を果たした岩波だが、トゥーレル・山川のコンビが盤石とあって思ったより出場機会を伸ばせなかった。ただシーズン終盤にはカップ戦で高いパス能力を披露し、貴重な戦力であることを証明。3連覇に挑む今季は、昨シーズンよりもさらに戦い方の引き出しを増やす必要がある。後方でボールを握れる岩波のプレーがアクセントになるか。
LSB:本多のスタメンが有力。小池の攻撃力は楽しみ
LSBは初瀬がチームから離脱しており、本多のスタメンが有力だ。
新加入では小池の攻撃力に注目したい。縦へのドリブル突破とクロスに特長があり、守備型の本多とは違った強みを持っている。懸念材料はコンディション。神戸の環境で安定したフィットネスを手に入れたい。
右SBの起用が基本だが、酒井の名前も左SBで挙げておきたい。初瀬が正式に離脱となれば、過密日程のシーズンで彼がこのポジションで起用される可能性は十分にある。とはいえ、神戸のストロングである右サイドの攻撃力を維持するためにも、スクランブル的な起用に留めたいが…。
この他にも鍬先や広瀬もLSBの適性はある。カエターノはCBと予想しいるが、シーズン開幕後は適性を見極めたい。
個人的にカップ戦での起用があると予想しているのが橋本だ。適性が前目のポジションにあるのは承知だが、本人もWBやSBでのプレーについて意欲的なコメントをしている。守備強度に不安は残るが、見てみたい選手だ。
RSB:今季も酒井がスタメン。本山が加入し層が厚くなった
今季のRSBも酒井がスタメンで間違いない。ただ前述したように、チーム編成の兼ね合いでLSBで起用される場面も予想される。
そうなった場合は岡山から新加入した本山がレギュラー候補か。岡山では3CBの右やRWBとしてプレーしており、守備能力に期待がかかる。また昇格プレーオフで見せたような積極的な攻撃参加も魅力だ。神戸のスタイルに馴染めば、昨季の鍬先のように貴重な戦力になれる。
本山と並んで2番手争いに加わりそうなのが広瀬だ。昨季はLWG起用が多かったが、今季は同ポジションは汰木が開幕から計算でき、橋本も加わった。パトリッキもいるため、広瀬が本職のSBを務める機会も増えそうだ。
松田陸もRSBが適性ポジションになる。攻撃参加やクロスの精度に強みを持っており、神戸の強みである右からの攻撃に期待がかかる。経験値が高く、コンディションが整えば楽しみな戦力だ。
この他にも右SBでは昨季もプレーした鍬先、カップ戦で起用された日髙らもプレーが可能だ。
DH:扇原が絶対的存在。鍬先の成長も楽しみ
神戸の舵取り役を担うアンカーポジションは、今季も扇原が絶対的な存在だ。広いエリアをカバーできる守備能力と左右にボールを供給できるパス能力は見事。今季はセットプレーのキッカー役としても期待される。
扇原に続くのが鍬先。昨季はRSBで出場機会を掴み、信頼を勝ち取りにはボランチでの起用も増加。当初は井手口との2ボランチ気味だったが、シーズン終盤には1アンカーにも対応し大きな可能性を示した。扇原とは違いドリブルでボールを持ち上がるプレーが可能で、今季は昨季以上の輝きが期待される。
選手生命を脅かすほどの大怪我から復帰を目指す齊藤も、このポジションでの起用が予想される。とはいえ開幕からフル起用は難しいはず。徐々にプレータイムを伸ばし、コンディションを上げていきたい。
RIH:井手口が軸。山内は新たなゲームメーカーとして開花を
RIHは昨季中盤戦から圧巻のプレーを披露した井手口で決まりだ。加入当初こそ神戸の戦術に戸惑いを見せていたが、適応後は替えの利かない存在に。山口の負傷離脱を感じさせない働きぶりだった。今季はその山口が移籍。井手口には開幕からシーズンを通して好プレーを期待したい。
2番手には山内の名前を挙げる。ルーキーイヤーの昨季はLIHやWG起用が多かったが、本来は中盤でタクトを振るプレーメイカータイプだ。Jリーグの強度に慣れた今季は、本格稼動が期待される。飄々とした性格も強みで、計算できる戦力として働きたい。
3番手は日髙。昨季はRSBでの起用が多かったが、中盤が本職だ。縦への推進力を発揮できるか。少ない出場機会でアピールし、勝負のシーズンにしたい。齊藤もこのポジションでプレーが可能だ。
LIH:戦術的に重要なポジション。攻撃なら宮代、バランスなら井出
LIHは神戸の戦術的に重要なポジションだ。守備時には442に可変するチームで2トップの一角を担いつつ、攻撃にも加わらなければならない。
純粋な能力だけで序列を決めるなら宮代が一番手だ。昨季2桁得点を挙げ、大迫へマークが集中するチームを救ってみせた。プレースタイルも中央からやや前にスペースがある状況から、ドリブル突破や飛び出しで輝く選手。WGよりも真ん中寄りが適性か。
前線で絶えず動き回りながら、周囲のプレイヤーとの潤滑油役として輝けるのが井出だ。味方を活かしつつ、チャンスと見れば自ら仕掛けもできる。井出不在時は攻撃が停滞する傾向にあり、彼の存在がいかに大きいか理解できる。懸念材料はコンディション面。負傷離脱が多いのは玉に瑕で、稼働時間をコントロールする必要がある。
佐々木もLIHでのプレーが可能だ。昨季影のMVPとして活躍した佐々木は、今季から神戸のエース番号13番を背負う。攻撃的なポジションならどこでもプレーできる万能性とタフさは魅力だが、今季は自らが主役になるようなプレーも増やしたい。リーグでの2桁得点に期待だ。
その他にも山内、ユースの濱崎も同ポジションでプレーが可能だ。
LWG:復活を目指す汰木。パト、橋本などタレントは多彩
LWGは昨季絶対的なスタメンが固定できなかったポジションの一つだ。とはいえタレントの顔触れは多彩。
まず名前を挙げたいのが汰木。昨季は開幕直後に大怪我に見舞われ不遇な時期を過ごした。ただシーズン終盤には持ち味のドリブルで違いを生み出し、今季への期待を抱かせる終わり方だった。神戸に加入後は途中離脱が続くだけに、今季は開幕からフル稼働を目指したい。
異次元のスピードを持つパトリッキも健在だ。昨季序盤はコンディションが上がらず、一昨シーズンのような派手な輝きな少なかった。しかし中盤戦からギアを入れ直すと、持ち味のスピードだけでなく守備面でのプレーも向上。今季は攻守で貢献しながら、数字にもこだわりたい。
井出と同じくチームの潤滑油として活躍したのが広瀬だ。SBのイメージが強かったが、サッカーIQの高さを活かしてWGでも好プレーを披露した。
新加入の橋本もLWGでのプレーに適性がある。順足でのクロスはチーム戦術にも合致するため、早い段階で出場機会を掴むか。
ベンチメンバーに余裕があるなら、佐々木や宮代もスタメンに名を連ねる可能性がある。スクランブルなら山内もプレー可能で、選択肢が多いポジションだ。
RWG:武藤の残留が最大の補強。控えの層に若干の不安が
RWGでは一時移籍報道もあった武藤が契約を更新し残留を果たした。昨季はリーグMVPに相応しい活躍で、シーズンを通して高いパフォーマンスを披露した。今季も神戸の攻撃陣を牽引するのは間違いない。
2番手には飯野が控える。縦への仕掛けからクロスへの形を持っており、貴重な戦力だ。ただ筋肉系のトラブルが多いのは懸念点。控えの層が他のポジションよりも薄いのは気になる。
スクランブルとなれば佐々木、パトリッキ、広瀬らが候補に挙がる。サプライズを期待したいのが、神戸ユースから2026年に昇格が内定している濱崎だ。ユースでは中盤でプレーするが、WGでのプレーにも適性がある。小柄ながら重心が低いドリブルはボールロストが少なく、パスの出し手にも仕掛け役にもなれる。過密日程のトップチームを救う救世主として、出場機会を掴みたい。
CF:大迫を軸に佐々木、宮代もポジションを狙う
CFは今季も大迫が務める。昨季はマークが厳しくなるなか、それを逆手に取りパスの出し手や囮役としてプレー。守備での貢献やボールキープも相変わらずで、ギアを上げる場面での得点力はさすがだ。「戦術大迫」から脱却した神戸だが、今季も彼の能力に頼る時期は必ず来るはず。
CFのポジションでは佐々木と宮代もプレーが可能。身体能力が高くターゲットを役を務められる佐々木が序列では上だが、戦術次第では宮代も難なくプレーできる。
成長が期待されるのが冨永だ。非凡な得点感覚はストライカーのそれで、スペースへの抜け出しでも見せ場を作る。豪華な先輩達から吸収し、貪欲に成長を目指してほしい。
3連覇、アジア制覇を狙う戦力を揃えながら、シーズン移行への準備も進む
「静かなオフ」に物足りなさは残るが、スカッドの状況をあらためて整理してみるとJ屈指の戦力はしっかり整えている印象だ。もちろんタレントの働きと吉田監督のマネジメント能力に頼る面が大きいが、間違いなくリーグタイトルを争う戦力は揃っている。
となれば懸念材料は過密日程によるコンディション不良。ここ2シーズンは主力の負傷離脱後に救世主が登場するサイクルで乗り切ってきたが、複数人が離脱となればチームの歯車は大きく狂う。特に神戸の屋台骨を支える2CBに長期離脱があると、雲行きは一気に怪しくなる。攻撃陣はコンバートで乗り切れそうだが、不測の事態には備えておきたい。その意味ではカエターノがどれだけ戦力として計算できるか、本山、小池、松田といった守備陣の稼働率にも注目だ。まず守備をしっかり整える。神戸がこの2年間継続してきたチームの原則を、開幕からどれだけ体現できるか。そのサイクルが上手くはまれば、アジアでの戦いにも勝機が見えてくる。
最後に、今季の展望からはやや道がそれるが、前半で述べた「若手を積極的にレンタルし成長を促している」という部分について触れておきたい。
昨季から神戸は数多くの若手をレンタル移籍に出しながら、成長の機会を与えている。リーグタイトルを争う戦力を抱える神戸では、若手選手のプレータイムは極端に限られる。育成目的での起用は、吉田監督が掲げる「基準を満たした選手を起用する」という原則を崩しかねない。それならば、カテゴリーをまたいで選手をレンタルに出し、成長を促すのが得策だとクラブは判断した訳だ。
筆者はこの動きを、25年シーズン後に待ち構えるシーズン以降もにらんだ戦略だと推察している。Jリーグは今シーズン終了後に半年間の「特別大会」を実施し、2026-27シーズンからは8月に開幕し5月に閉幕する欧州型のレギュレーションに変更される。ここでポイントとなるのが、半年間の特別大会だ。同大会はACLEの出場権や賞金は用意されているが、降格はない。クラブにとっては若手の起用や新たな戦術へのシフトチェンジを図る絶好の機会だ。
思い出されるのがコロナ禍のシーズンで、降格がない異例のシーズンは若手の台頭が目立った。欧州に比べ若手の起用に対して消極的な日本だが、降格なしの状況ではリスクを取る姿勢がうかがえた。これと同じ現象が特別大会の期間に起こっても不思議ではない。若手にとってはチャンスが、ベテランにとっては苦しい現実が待ち構えているかもしれない。あくまで私見ではあるが、神戸に関わらずどのクラブもシーズン移行のタイミングはターニングポイントになるのではないか。
もう一つ若手起用について述べるなら、永井SDがシーズン後に「育成」という意味でのバルサ化に言及していた点も興味深い。神戸のバルサ化はプレーモデルの側面から語られることが多かったが、クラブは当初からバルセロナという組織全体の在り方をお手本にしようとプロジェクトを進めてきた。イニエスタやビジャらの加入もあってピッチ上での取り組みがフォーカスされてきたが、ここに来てプロジェクトの根幹とも呼べる「育成」に取り組んできた成果が表れている。
佐々木や山川を筆頭に、アカデミーからチームの主軸が育ち、山内や濱崎ら期待の若手も多い。レンタル移籍もアカデミー育ちが多く、クラブが育成に本気で取り組む強い意志を感じる。
もちろん、育成をベースにしたチーム作りは簡単ではない。先に挙げた欧州との競争や、RB大宮へのレンタルから完全移籍に移行した泉のように例も出てくるだろう。
ただ、それも含めてクラブにとっては貴重なノウハウだ。かつての神戸は継続性に乏しく、行き当たりばったりのクラブ運営が目立った。現在は数年後のプランまで見据えながら、編成が動いているのが分かる。アストンビラやシアトルとの提携も、世界規模で起こる移籍マーケットの変化に、いち早く対応するための一手だ。今後Jリーグも移籍マーケットでの立ち回りで、資金を獲得する時代が本格化する。黒字化を目指すというクラブの目標を考えても、育成が神戸のテーマになってくるのは間違いなさそうだ。
昨年に引き続き、新シーズンを迎える神戸の補強動向や戦力分析をお届けした。過去2年がそうであってように、タイトルへの道は険しい。3連覇というリーグ史に残る偉業に挑むとなれば、なおさらだ。さらに今季は、悲願のアジアタイトルへ向けても歩みを進めなければならない。例年以上に難しいミッションが待ち構えているが、クラブ・サポが一丸となって、臆することなく試練に立ち向かいたい。
クラブ30周年の節目のシーズン。今年はどんなドラマが待っているだろうか。
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