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ヴィッセル神戸マッチレビュー│FFSC25 vsサンフレッチェ広島
2月8日に開催された、FUJIFILM SUPER CUP2025。リーグ戦開幕よりひと足早く、ヴィッセル神戸の新シーズンがスタートした。結果は0‐2で広島に敗戦。あえて厳しい言葉を使えば、完敗だったと言えるだろう。
神戸が抱えていたチーム事情
もちろん神戸には考慮すべき事情もあった。まず過密日程による選手のやりくりだ。この試合神戸はほぼすべてのポジションでターンオーバーを実施。昨季のスタメンクラスは山川と佐々木だけが前半からプレーした。一方の広島は現状のベストと呼べる布陣。昨季のベースに新戦力をミックスした広島は、想像以上の仕上がりの良さで神戸を圧倒してみせた。
神戸がここまで大幅なターンオーバーを実施しなければならなかった理由はもう一つある。主力選手の負傷離脱だ。報道から伝え聞くだけでも、宮代、井手口、広瀬、井出をはじめ多くの主力が離脱。吉田監督も「フィールドプレイヤーが20人いない」と語ったように、使いたくても使えない厳しい台所事情があったようだ。
ACLEのラウンド突破がかかった上海海港戦(2月11日)、さらにはリーグ開幕の浦和戦(2月15日)が目の前に控えているとなれば、この試合を我慢し主力を温存したのは英断だった。
現実を直視しなければならないとつぶやいた理由
それでも筆者は試合直後のXで、「現実を直視しなければならない」と今季へ向けての不安をつぶやいた。その理由はいくつかある。
まずこの日起用されたメンバーのパフォーマンスに物足りなさを感じた点だ。この試合では新加入のメンバーもさっそく起用されており、連携面などはほぼぶっつけ本番だったと推察される。ただコンディションの仕上がりは明らかに広島が上で、とくに出足の鋭さや球際の強度では神戸が劣っていた。選手によってはプレスに行くべきタイミングで躊躇してしまう場面も散見され、戦術の落とし込みという点でも時間がかかっている様子だ。
もちろん今後のACLEやリーグ戦ではこの日温存した昨季の主力メンバーが起用されるはずだ。戦術や強度面では彼らが長けているのは明らかだが、昨季以上のチームの底上げを図るという点で、この日起用されたメンバーの突き上げは不可欠だ。その意味では、この試合のパフォーマンスには物足りなさを感じた。これは連携云々の前に、マインドの問題。チャンスを掴む、アピールするという姿勢がどこか乏しかったように映る。
もう一つは、負傷者が続出した際の選手層の薄さが露呈してしまった点だ。筆者はシーズン開幕前の戦術分析記事で、「リーグタイトルを争える戦力は揃えた」と語った。
一方で、主力の負傷離脱が続出すれば、難しいシーズンになるとも述べている。この試合ではまさに「主力の負傷離脱が続出した」ケーススタディのような展開になってしまい、今季の戦いが決して簡単ではないと、あらためて突きつけられた格好だ。
神戸の戦術は、11人が絶えず連動してフィールドのエリアを潰し、攻守でイニシアチブを握る必要がある。このゲームでは前プレスに行った場面で広島に上手くスペースを突かれ、幾度もゴールチャンスを与えていた。前から行ってひっくり返されるリスクは承知しているが、そこを行き切るのが神戸のスタイルだ。この「リスクを取る」部分は、前述したパフォーマンスの物足りなさにもつながる。
初瀬の移籍が与える小さくない影響
さて、もう一つ気になった点は、初瀬移籍の影響だ。
シェフィールド・ウェンズデイ(英2部)への移籍が発表された初瀬だが、彼は神戸の攻撃において重要な役割を担っていた。高いキック精度を武器に左サイドから対角のパスを蹴り込んでいたが、この大きくアングル変えるキックは神戸の攻撃パターンの一つになっていた。もちろん大迫や武藤といったターゲット役の存在も鍵を握るが、この日は対角のパスが少なかった。広島がボールホルダーを的確に潰し、自由に蹴らせなかった影響もあるが、状況を一本のパスで変える初瀬の離脱は想像以上に痛手だ。
後半には酒井がLSBで起用されたが、彼は昨季までRSBで高い位置を取り、攻撃時の数的優位を作る役割も担っていた。武藤、大迫、酒井、井手口の連携は、神戸のストロングポイントだ。酒井がLSB起用となれば、RSBに説得力のある人材を起用しなければならない。ここにも初瀬移籍の影響が見え隠れしている。
個々人では光るプレーも。齊藤の復帰には目頭が熱くなった
さて、チームがタイトルを目指す状況も踏まえ、厳しい論調が続いたが、個々人では光るプレーもあった。
まずLSBで起用された本山。試合開始直後はやや手こずる場面が散見されたが、試合が進むにつれてJ1のスピードや強度に慣れていった印象だ。この姿には昨季の鍬先が重なる。鍬先もシーズン当初は「リアクション」気味なプレーが多かったが、シーズン終盤には自らボールを動かす、奪うといった「アクション」ベースのプレーが増えた。この試合だけでも本山が持っている能力はたしかで、今後はJ1への適応やいかに自分の強みを出せるかといった点に注目したい。
LIHでプレーした冨永は、強度やテンポの部分ではまだひ弱さが目立ったが、決定機に顔を出すなどストライカーらしいプレーが見られた。この試合90分起用されたのは、期待の表れ。彼がゲームに絡むようになれば、チームのベースが上がる。
後半からの起用だが汰木の名前もここで挙げておきたい。ドリブル突破やクロスといった攻撃性能もさることながら、この試合はボールキープや奪取の部分でも目立っていた。彼がキープすることで前線でタメができ、後方の攻め上がりが活発になっていた。昨季は故障離脱で十分に働けなかったが、今季は開幕から活躍を期待したい。
最後に、齊藤未月の復帰には、誰もが目頭を熱くしたのではないか。筆者はシーズン開幕後に途中出場からコンディションを上げていくと予想していたが、この時期から90分プレーできたのはうれしい誤算だ。選手生命を左右する大怪我から、よくぞここまで回復してくれた。焦る必要も、無理をする必要もない。ただ、彼が復帰前の水準でプレーできるようになれば、神戸にとっては大きな「補強」だ。このゲームで神戸にとって最大の収穫だったのは、齊藤の復帰だ。
昨季同様にチームの一体感を醸成できるか
静かなオフとなった今季の神戸。この試合でも露呈したように、チーム力をいかに底上げし、一体感を持った空気を醸成できるかが今季も鍵を握る。試合後には武藤らが語気を強めチームを引き締めたが、こうした空気をチーム全体で共有できるかが重要だ。
まずは次のACLE上海海港戦でどの程度のパフォーマンスを発揮できるか。真の意味でチームの現状が試される試合。リーグ開幕へ向けて弾みをつける意味でも、好ゲームを期待している。
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