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ヴィッセル神戸マッチレビュー│J1 第3節 vs 京都サンガ
ホームノエスタに京都を迎えたリーグ第3節。両チーム今季初勝利を目指したゲームは、試合最終盤にゴールが決まる劇的な展開で1‐1のドローとなった。
苦しい台所事情がうかがえる神戸
多くの負傷者を抱える神戸だが、この日のメンバー構成からも苦しい台所事情がうかがえた。今季からJリーグはベンチ入りの人数が7人から9人に増えたが、この日は新井とオビの2人のGKが名を連ねた。それだけフィールドプレイヤーに負傷者が多い証拠で、限られたメンバーでやり繰りをしている「スクランブル」体制が続いている。
スタメンにも変更があり、前節負傷交代した本多のLSBには広瀬を、その広瀬が前節起用されたRSBは松田陸が務めた。松田は神戸で初の公式戦起用だ。さらに武藤が欠場したWGには飯野を左サイドで起用している。
難しいやり繰りを強いられるが、吉田監督が語るように今いるメンバーで戦っていくしかない。このゲームも総力戦と呼べるような展開だった。
やるべきことを徹底してきた京都
メンバーのやり繰りこそ難しい神戸だが、この日のパフォーマンスは決して低調ではなかった。むしろ選手達は過密日程の疲労もある状況で、よくプレーしていた印象だ。
ただこのゲームは対戦相手の京都のパフォーマンスが上回っていたように思う。京都は前線と最終ラインを極端にコンパクトに保ち、密集を形成。神戸のボールホルダーに対してはタイトにマークし、自由を与えなかった。セカンドボールの回収ではエリアの「密度(人の多さ)」を活かしており、大迫や佐々木をターゲットにする神戸の策を防いでいた。
攻撃では前線の3トップに素早くボールを供給する意識を徹底しており、とくにラファエル・エリアスとマルコ・トゥーリオのブラジリアンコンビは神戸守備陣を翻弄し脅威を与えていた。先制点もまさにその形で、神戸のパスミスを奪ってからすぐさまエリアスにボールを預け、彼が独力でボールを運ぶと最後はトゥーリオにスルーパス。これを冷静に決めて、高速カウンターを完結してみせた。
正直このゴールを含め、この日の京都はやるべきことが整理され、選手の集中力も高かったように思う。この失点も相手の狙いがハマった格好で、単純にパフォーマンスで上回られたシーンだった。
ゴール前に「あと1人」が欲しい神戸
早々にリードを許した神戸だが、その後も慌てることなく活路を探っていた。
攻撃で可能性を感じたのが、飯野と松田の2人だ。飯野はこの日左サイドで起用されたが、彼のスピードは武器になっていた。左足でのクロスも積極的に供給するなど、これまでの飯野とは違った一面を披露してくれた。今のメンバー構成では、彼のような「槍」は少ないだけに、今後も攻撃を活性化させてもらいたい。
神戸デビューとなった松田陸だが、パフォーマンスは想像以上に良かった。立ち上がりこそやや控えめに映ったが、機を見た攻め上がりでゴール前に顔を出し、得点機に絡んでいた。さらに右足でのクロスは球種が豊富で、今後大迫や佐々木と連携が噛み合えばホットラインを形成できる予感がする。現地で観戦したサポーターからは、状況に応じたポジション取りや帰陣の速さにもポジティブな声が聞かれた。酒井高徳の離脱が予想以上に長くなりそうな状況で、計算できる本職SBがさっそく存在感を発揮してくれたのはうれしい。
さて、攻撃へのアクションは多い神戸だがそれでも同点ゴールはなかなか生まれなかった。個人的にはゴール前の人数がやや不足していると分析している。例えば鍬先がより高い位置まで攻め上がることができれば、佐々木や大迫らのマークが薄くなる。
とはいえ中盤は扇原がかなり負担を強いられており、そのカバーに鍬先が奔走しているのも理解できる。神戸のRIHは山口、井手口と代表クラスの選手が務めてきたポジションだ。要求は高くなるが、ここで鍬先がステップアップできれば今後の戦い方がぐっと楽になる。
過密日程が続き、攻守のトランジションはチーム全体で鈍くなっている印象だが、そこはやり続けるしかない。書いていて心苦しくなるが、チームの基準だけはぶらさないでおきたい。
途中出場のメンバーに感じた可能性
さて、この試合は途中出場のメンバーにもそれぞれ可能性を感じた。
まずリーグ戦デビューを飾った濱﨑だが、彼のアイデアとドリブルは京都相手にも武器になっていた。ボールを前進させる意識をしっかり持っており、ゴールへアタックするプレーでチャンスを作っていた。VARで取り消しとなった大迫の決定機では彼のクロスが起点になっている。さらに劇的な同点弾にも彼が絡んでおり、フィールドプレイヤーの数が限られる中で起用してみたくなるプレーを披露してくれた。
ユースの先輩にあたる山内も、本職ではないLWGで果敢な仕掛けを披露した。個人的に山内にはもっと高いクオリティを求めたい。王様になれる能力を持っているが、ゲームメイクにプラスして決定機にもっと絡んでいきたい。数字を残せる能力はあるだけに、離脱者が多いこの期間に結果を出してもらいたい。
RSBで登場した岩波は、今後のオプションとして可能性を感じた。このゲームではSB起用だったが、例えば後ろを3枚にして彼のフィード力を活かすのもありだ。やはり精度の高いロングボールは一気に局面を変えられる。吉田監督は基本的にバランスを崩すような戦い方を好まないが、岩波をこのチームに組み込むオプションは模索する価値がある。
京都を慌てさせた神戸の粘り強さ。劇的ゴールには必然性があった
最後に、劇的な同点ゴールについて振り返っておきたい。
まず後半の70分あたりから、京都の足が止まってきていた。京都としてはここで2つの選択肢があった。1つは守備を固め、リードを守り切る戦い方。もう1つはギリギリまでハードワークできるメンバーで引っ張り、最終盤にゲームを終わらせるやり方だ。
どちらもリードを守るという点では共通するが、選手心理はまったく違う。早々に守りに入れば、自然とリアクション的なプレーが多くなり、足は止まってしまう。一方でギリギリまで引っ張るなら、選手は簡単に足を止めない。もちろんこれは疲労との兼ね合いもあり、どちらが正解という訳ではない。勝てばどちらでも正解だ。
ただこのゲームで京都はやや早い時間帯に守備を固めてきた。疲労もあっただろうが、神戸のハードワークがプレッシャーを与えていたようにも映った。神戸は残り時間がどんどんと少なくなる中でも、途中出場のメンバーが刺激を与え、相手ゴールへ迫っていた。負けている展開とはいえ、スタメンメンバーも含め最後までよく走っていた。やや陳腐な表現だが、「諦めない姿勢」が京都の選手やベンチワークにプレッシャーを与えていたと推察する。
一度は大迫のゴールが取り消されたものの、すぐさま顔を上げて同点ゴールを目指した選手達にはJリーグ王者の「矜持」を感じた。京都は冷静に時計の針を進めればよかったが、それを許さなかった神戸のプレーがあったことを、あえてここで強調しておきたい。
それにしても最後にゴールを決めたのが佐々木だったのは鳥肌物だった。自分にベクトルを向けて成長を続ける彼の姿は、この数年の神戸の物語が重なってみえる。満身創痍のチームにとって「負け」の二文字は重くのしかかる。それだけに、この佐々木のゴールは値千金の一撃だった。
リーグでは勝ち星こそないが、今の状況では負けない強さに価値をおきたい。易々と3ptを献上せず、したたかに1ptを積み上げる戦いは必ず先々に生きてくる。
我慢強く、粘り強く。戦い続けたい。
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