自ら命を絶った息子――命って、生きるってなんだろう?
最愛の息子を亡くし、生きがいを無くした母親が伝えたい事。
《生きていたら》
昔、私の住む町で、若者が行方不明になった。
何か悩み事があって、家を出て、帰って来なくなり、
町の消防団や、警察が探し回った。
その男性は、自殺するつもりで、山に入り、そして、無事見つかった。
小さな町だから、噂話として、その情報は簡単に私の耳にも入ってきた。
町で誰かと会えば、井戸端会議として、その話は話題にあげられた。
『自殺』――
あの頃は、無縁の言葉だと思っていた。
――ある日私は、息子が卒園した保育園を車で通った。
自死遺族になってから、思い出の場所は、辛い場所に変わり、通るたび、辛くて、目をそむけていた。
でもその日は、身体の大きい男性が視界に入り、思わず目をやった。
その男性は、行方不明になった、あの男だった。
男性は、女の子供を抱いて、保育園から出てきた。
嬉しそうに笑い、幸せそうに子供の頬に顔をよせ、優しいお父さんになっている。
死にたいと思いながら、死ねなかった彼は、今は笑って生きている。
生きていたから、幸せを掴めた。
生きると死ぬの分岐点。
あなたにも、生きてて欲しかった。