自ら命を絶った息子――命って、生きるってなんだろう?
生きがいを無くした母親の独り言。――ちょっと笑える話。
《誕生》
肌寒い季節がやってくると、あの時の事を思い出す。肌で感じ、蘇る思い出。
私は、夜中に破水し、病院に向かった。初めのうちは、陣痛がお腹を刺してチクチクと痛む程度で我慢ができた。
しかし、陣痛の痛みは、時間を増すほど強くなり、痛さに耐えきれなくなってきた。
チクチクから、ギンギンと言う痛みに変化し、まるで足が攣るような痛さが定期的にやってくる。
苦しい、痛い、眠い、18時間も陣痛と戦い、私は先生に『お腹を切って下さい』と頼み込んだぐらい、痛みから逃れたかった。
トイレに行きたくなり、看護師さんに支えられ、やっと歩き廊下に出た。
外来の終わった病院は、薄暗くシーンと静まり返っていた。
ふと廊下の奥を見ると、私の母がポツンと長椅子に座っていた。
私を心配して、病院を訪れていたのだ。
痛さと不安で心が弱っている私は、嬉しくて涙が出てしまった。
「看護婦さん、赤ちゃんはまだ産まれませんか?」
私に気がついた母が、看護師さんに駆け寄り声をかけた。
「もう少しで産まれますよ、安心してください」
看護師さんは、母と私を勇気づけるかのように笑顔で話した。
すると母は、笑顔になるどころか、渋い顔をしこう言った。
「今日、産まれるんですか?」
看護師さんも、私もその言葉の意味が分からずキョトンとした。
「看護婦さん、今日は14日です。できれば15日の方が数字がいいので、明日になりませんか?」
母のその言葉に、私は愕然とした。
時刻は18時。明日まであと何時間陣痛に苦しめと言うのだ💢
こっちは、今すぐにでもお腹を切ってほしい気分なのに……
私はさっき泣いた自分を悔やみ、
「帰って下さい」と母に伝えた。
私の母は天然なのである。
私の息子はその30分後に産まれた。