復讐まであと1か月。泣けてくるよな/あいつら全員同窓会
成人式まであと1か月。
LINEグループに、懐かしい名前が続々と追加されていく。
170人を超えるアカウントのプロフィールを、私は一人一人丁寧にチェックしていく。ご丁寧に貼ってあるインスタのリンクももちろんタップする。
うわ。うわわわ。
記憶の奥底、こじ開けられることのなかった脳の一部がミシミシと開いていく。5年間、一度も思い出さなかった記憶は、まるで昔読んだ小説のような、今とは全く違う物語を見ているような感覚になる。
こいつ、まだ野球続けてんだ。
相変わらずジャニオタしてんのな。
あんなに爽やかだったのに、専門行ってチャラくなったな。
アニメアイコンにハンドルネームじゃ誰だかわかんないよ。
ハングルも読めないよ。
LINEのプロフィールから読み取れる情報は、空白の5年間を妄想するに十分足る。まあ正直、どうでもいい。どうでもいいけど、気になる。スクロールする手は止まらない。
インスタをチェックしていると、私が想像していた以上にみんな地元の友達と結構な頻度で遊んでるようだった。
深夜の公園でタバコを吸ったり、お揃いのカチューシャでディズニーに行ったり。自分の住んでいる世界は全く違ったのだと、改めて認識して小さな驚きが連鎖していく。
中学校を卒業してから、実家から1時間以上かけて地元の友達が一人もいない私立高校に通った。部活が忙しく、ほとんど地元の人には会わなかった。
都内の大学に進学し、東京の飲食店でアルバイトを始めてからは、より一層忙しさに拍車がかかった。地域柄、一生懸命勉強して早慶やMARCHを目指す人は少数派だ。時々入ってくるごくわずかな噂や、インスタのストーリーから、誰が専門学校に行くだの就職するだのが伺えた。
無心でスクロール続けて、渋谷スカイの屋上で、都会のビル群を背景にこちらを見ている女のプロフィール画像をタップした時、一瞬、心臓が止まった。
当時よりは多少垢抜けたが、間違いない。私を、いじめていた女。孤独を刻み、疎外を嗤った女。いろいろな記憶が脳内を駆け巡り、脳が熱くなる。
スクロールの手は止まらない。
「死ねばいいのに」と言った女。通りすがりに腹パンしてきた女。LINEグループから追い出してきた女。ありもしない噂を流して笑ってた、あいつら。
今も、誰かのことを笑ってるんだろうか。私にしたことを思い出すことはあるのだろうか。ないんだろうな。一生、カスみてえな武勇伝と何度も改ざんされた楽しい思い出を深夜の公園で擦りあって内輪で盛り上がってんだろうな。クソが。
あの後、私がどうなったか知ってるか。あれから、お前らの前に姿をほとんど見せなかったこの5年間、もう私はお前らの知ってるオタクで地味ないじめられっ子じゃなくなったんだよ。
メイクも身だしなみも研究して、流行もいち早くチェックして、いろんな恋愛もして、信頼できる仲間にも恵まれて毎日楽しいけど、それでも未だにフラッシュバックで泣く夜があるんだよ。虚ろな目で一点を凝視したまま、冷や汗も拭えず動けない日があるんだよ。
そんな私を見て、「今が幸せなんだからいいじゃん」と友達は言う。
その通りだよ。幸せになることが一番の復讐で、忘れるのが大人になることだと思うよ。努力で掴んだ学歴もモテも全部ひっくるめて、誰よりもキラキラした人生を送る資格しかないよ。
それでも自分とあいつらを比べて、勝手に生活を想像して優越感に浸っている自分に何者だよって思ったりするんだ。忘れてしまえばいいのに。小さ。って、恥ずかしくなるんだよ。
いくらキラキラな人生送ってたって、仄暗い闇が、肥大した自尊心が、全勢力をあげて復讐を謀っている。虎視眈々と、決戦の時を狙っている。
そんな惨めな思いなんて一度もしないでのうのうと生きていく人がいる。
生まれた頃から「可愛い」と言われ続けてきて、メイクで武装しなくても屈託なく笑える人がいる。
地元に戻れば、楽しい思い出で酒が飲める人たちがいる。
いいな。羨ましいな。絶対に、見返してやる。
余裕そうに微笑んで、久しぶり、そう?そんなに変わった?まあ、5年も経てばね…
決戦まであと1か月。忘れられない日になりそう。
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