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アイドル誕生までの女性歌手の系譜

女性アイドル及びアイドル・ヒット曲の原点は1971年にデビューした南沙織の「17才」であり、それに続く天地真理である・・・という話は、今まで何度もしてきました。
とはいえ、何もないところから突然「アイドル」なる存在が生まれるはずもなく、必ずその前段となる流れがあるはずだ、それを知りたいと前から思ってきました。
そこで今回は、そのことを検証したいと思います。

色々調べたところ、以下にあげる女性歌手たちが、「南沙織、天地真理以前のプレ・アイドル」と呼べる方々だと、思いました。
後のアイドルたちと共通する要素を持っていた方々です。
(プレ・アイドルの条件として、「その時、歌っている歌詞の内容が若者向けで、大人向けでない」ことを最も重視しました)

彼女たちのどこに「プレ・アイドル性」があったのか。逆に言うと、どこが足りなくて「元祖アイドル」とは呼ばれなかったのかを検証していきたいと思います。
そうすることで、「南沙織、天地真理へと至る道筋」が見えてくると思いますので。


○弘田三枝子(1947年生)

弘田三枝子(当時16歳)はその健康的で愛らしいルックスから、「ミコちゃん」と呼ばれ、若者から子どもまでに親しまれていて、その意味では立派なアイドルでしたね(幼かった私もなついてました)。
この当時は洋楽のカヴァー・ポップスを歌い、それは日本的な湿っぽさとは無縁の、カラッとした若者の青春ソングでしたから、その点でもアイドルたる資格は充分でした。
ただ、あまりにも堂々とした歌唱力があり、その意味でまず「プロの歌手」であり、アイドルという繊細性とは結びつかない部分がありますね。
それに、オリジナルの和製ポップスでないと「元祖女性アイドル・ヒット」とは言いずらい部分もあります。
(彼女の和製ポップスでのヒットと言えば『人形の家』ですが、これはすっかり大人の歌でした)

○伊東ゆかり(1947年生)

伊東ゆかり(当時18歳)も、初期は洋楽カヴァー・ポップスでヒットを飛ばしていました。弘田三枝子が「天真爛漫系」のアイドルの源流なら、この方は「繊細な感受性系」のアイドルの源流でしょうかね。
この曲は洋楽っぽいのですが、作詞は安井かずみ、作曲は宮川奏という和製ポップスです。
しかし彼女が和製ポップスで大ヒットさせたのはこの路線ではなく、「あなたが噛んだ小指が痛い」という、大人の匂いの曲「小指の思い出」でした。
ということで、元祖アイドルには至らず、という感じです。

○山本リンダ(1951年生)

山本リンダ(当時16歳)は、スタイルもファッションも当時の若者文化の先端を行き、初めてデートに誘われた女の子を歌ったデビュー曲「こまっちゃうナ」も、その歌詞の内容から充分にアイドル・ヒットと言えそうです。
ただ逆に、彼女が美人すぎて「可愛らしい」タイプではなかった点、そして「こまっちゃうナ」の作曲が演歌の遠藤実で、あまりポップス的でなかったところが、足りなかった点かと思います。

○内藤洋子(1950年生)


内藤洋子(当時17歳)、この人はどこからどう見ても、70年代型アイドルの先駆ですよね。とにかく可憐で、愛らしくて、胸キュン度がひたすら高く、演技力や歌唱力というより、ひたすらその存在感によって、ファンを惹きつける人でした。
では何で彼女が「アイドルの元祖」ではないかと言われれば、単純な話、映画女優であり、歌手活動はほとんどしていなかったという、その1点だけでしょう。

○中村晃子(1948年生

「虹色の湖」を歌う中村晃子(当時20歳)は、そのスタイルもファッション性も見事なもので、女性版グループサウンズみたいな曲にも若者受けする魅力があって、大ヒットしました。GSを男性アイドルの元祖とするなら、彼女にもその資格はありそうです。
ただ、大人の女性の印象もあるし、歌唱法も堂々としていて、アイドル的な繊細さはない。さらにその後にヒット曲が続かなかったところが、マイナス点でした(アイドルは、その歌手の人気によって、連続的にヒットを飛ばすというのが、一つの条件になると思います)

○黛ジュン(1948年生)

黛ジュン(当時20歳)は、アイドル的な位置づけの人ではないと思いますが、ただこの「天使の誘惑」という曲の歌詞の淡さや曲調は(「幸せはオレンジ色の雲の流れに流れて消えた」「ごめんなさいねあの日のことは 恋の意味さえ知らずにいるの」)、後の天地真理を始めとする天真爛漫系アイドルの曲の、原型になっていると思います。
決して大人の関係には発展しない、初々しい恋の仄めかし・・・これこそが、女性アイドル曲の骨子となったもので、その形成にこの「天使」と名付けられた曲の影響は大きかったと思います。
(アイドル=天使という連想にも、貢献しました)


○ピンキー(1951年生)

ピンキー(当時17歳)は、とにかく当時の子供に人気が絶大で、僕もはまっていた一人でした。
「恋の季節」は歌いやすいので、ピンキーのアクションも入れて、皆で歌ったものです。子供は健康的で愛らしい女性が大好きですからね(ピンキーを経て天地真理のファンになった人も多いでしょう)。
グループの中の一人なので、元祖アイドルとは言いづらいですが、ピンキーを主演にしたドラマ『青空に飛び出せ!』などもあり、存在感としてはアイドルだったと思います。

○岡崎友紀(1953年生)


岡崎友紀(当時17歳)こそ「元祖女性アイドル」だとする説も多く、実際、ジュニア向けのドラマ『おくさまは18歳』の大ヒットで、ブロマイド売上1位を独占していたので、「テレビ時代のアイドル第1号」と言うことはできるでしょう。
歌の分野でもデビュー曲「しあわせの涙」を始め、生臭さゼロのふんわかした少女メルヘンチックな歌詞・曲調の作品が並んでいて、「女性アイドル・ポップス」も、ここから始まったと言えるかもしれません。
ただ一つ欠けていたのは、彼女が女優に軸足を置き、積極的に歌手活動していなかったので、歌がヒットしなかったことです(後年にはヒット曲も生まれましたが)。
ほとんどの面で女性アイドルの元祖と言えるのですが、唯一「実績」だけが岡崎友紀には欠けていたのでした。


○南沙織(1954年生)

ということで、ついに女性アイドルとしての完全体、南沙織(当時17歳)
が登場します。
そのルックス。繊細な少女性。ミニスカートの衣装。素直な歌唱。何より作詞の持つ「同世代感」、作曲の「同時代感」。そして大ヒット。
アイドルとしての要素が全て揃っていました。

「誰もいない海 二人の愛を確かめたくて」「好きなんだもの 私は今
生きている」(「17才」)
「潮風に吹かれると思い出す あなたのこと」「もう一言言われたら 恋人でいたのに」(「潮風のメロディ」)

この詩に筒美京平の先端ポップスなメロディがのると、それはまるで南沙織自身のドキュメントのような魅力が生じ、ファンが殺到し、連続的にヒット。以降「南沙織が歌えば20万枚は確実に売れる」という状況が生まれたのです。
実績という最後のピースも埋まり、ここに「女性アイドルの元祖」南沙織が誕生したわけです。


○天地真理(1951年生)

アイドルという概念を決定づけた天地真理(当時20歳)ですが、「水色の恋」でデビューした当時の雰囲気は、必ずしも「100%のアイドル」ではないですね。
作品性も含めて、フォーク歌手的なテイストもあり、どちらか言うと「素敵な歌のお姉さん」という雰囲気に近かったかもしれません。
しかしデビュー3曲目の「ひとりじゃないの」から、路線を「爽やか天真爛漫系」のアイドル・ポップスに特化したところ、さらに人気が爆発して、国民的な人気アイドルになっていきました。
髪を少し短めにしたのは、大衆に愛された黛ジュンやピンキーのイメージに寄せた可能性もあります。過去の成功例のエッセンスを入れることで、より完璧なアイドルに進化した、と言えなくもありません。

もっとデビューが早かったら、天地真理はアイドルではなかったかもしれません。このタイミングでデビューしたからこそ彼女はアイドルとなり、彼女がアイドルとなったからこそ、日本に「アイドル文化」が定着した。これは幸運なめぐり合わせと言えるでしょう。


○麻丘めぐみ(1955年生)

最後に麻丘めぐみ(当時17歳)を取り上げたいと思います。
南沙織も天地真理も、ある種の結果論としてアイドルと呼ばれるようになったわけですが、麻丘の場合は、その二人の成功例があるだけに、最初から「アイドル狙い」でデビューしているのが、大きなポイントです。

南、天地にない特徴として「歌が下手である(ただし声質に切ない魅力はある)」点、そしてそれをカバーするために「可愛らしい振り付け」がある点、があげられると思います。
ビジュアル的には南沙織に近い麻丘めぐみですが、歌の路線は(同じ筒美京平担当ながら)南沙織とは異なり、振り付けを生かした軽快なものが多く、やがて「わたしの彼は左きき」の大ヒットにたどりつきます。
これ以降「振り付け」がアイドルに必須のものになったことを考えると、麻丘もまた元祖アイドルに加えてもよいかもしれません。



こうして整理していくと、アイドルという存在が誕生するまでに、それなりの段階があったことが、わかります。

○カヴァー・ポップスのプレ・アイドル歌手(弘田三枝子、伊東ゆかり)
○大人の歌に大衆アイドル性を忍ばせていた歌手(黛ジュン、ピンキー)
○ビジュアル的にはアイドルだった歌手(山本リンダ、中村晃子)
○映画、テレビのアイドル(内藤洋子、岡崎友紀)

といった段階を経て、ビジュアル、雰囲気、衣装、歌唱、作品性(詩と曲)、ヒット性・・・と、全てを完璧に揃えた南沙織が登場。
後続の天地真理は、前段の人気歌手たちのエッセンスを取り入れることで、天真爛漫なアイドル像を確立した。
そして、麻丘めぐみが、可愛らしい振り付けという最後のピースを加え、ここに「アイドル」は完成した・・・

ということで、勝手にスッキリしてしまったのですが、いかがでしょうか。







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