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70年代アイドルの売上興亡史~天地真理VS百恵、淳子編
ここ十数年のオリコンCD売上のランキングを見ると、特定の女性アイドルグループがずっと上位を独占しているのですが、70年代に女性アイドルが
誕生した初期は、季節ごとに激しい売上争いを繰り広げる戦国状態で、それをチェックするのが楽しみでした。
その模様をオリコン・データをもとに、ここに再現してみましょう。
女性アイドルは、1971年にデビューした『17才』の南沙織が起源とされ、その年の秋にデビューした天地真理が、翌1972年に『ちいさな恋』『ひとりじゃないの』『虹をわたって』で、3曲連続のチャート1位となって、そのジャンルを確立しました。天地真理の成功を受けて、夏には麻丘めぐみが『芽ばえ』でデビューするなど、続々と後続アイドルが誕生し、群雄割拠の状態で、1973年を迎えます。
ということで、当時のアイドル覇権を握っていた天地真理を中心に、期間ごとの売上を見ていきましょう。
※データはアイドル・ポップスに限定し、当時はアイドル扱いでしたが、曲調が和風だった小柳ルミ子と森昌子は除外しております。
<1972年11月~1973年3月>
11月25日 アグネス・チャン ひなげしの花 32.8万枚
12月5日 天地真理 ふたりの日曜日 44.7万枚
1月15日 麻丘めぐみ 女の子なんだもん 17.7万枚
1月21日 南沙織 早春の港 15.7万枚
2月25日 桜田淳子 天使も夢みる 12.1万枚
3月21日 天地真理 若葉のささやき 48.1万枚
73年に入っても、天地真理の独走は続き、他のアイドルを寄せつけない
売上ぶり。そんな中で、同じプロダクションの新人、香港から来たアグネス・チャンが、天地に迫る勢いを見せます。
「スター誕生」からデビューした桜田淳子は、天地のような正統派アイドル
として大器と評判でしたが、まだ本領発揮とはいたりませんでした。
<1973年4月~6月>
4月10日 アグネス・チャン 妖精の詩 27.0万枚
4月10日 麻丘めぐみ 森を駆ける恋人たち 20.0万枚
4月21日 浅田美代子 赤い風船 48.1万枚
5月1日 南沙織 傷つく世代 27.1万枚
5月21日 山口百恵 としごろ 6.7万枚
5月25日 桜田淳子 天使の初恋 7.1万枚
このクールは天地のシングル発売はありませんでしたが、代わって『時間ですよ』の挿入歌でデビューした浅田美代子が、いきなりチャート1位の快挙
を見せました。その割を食ったわけではないでしょうが、この期にデビューした山口百恵は伸び悩み、桜田淳子も売上を下げました。
<1973年7月~9月>
7月1日 天地真理 恋する夏の日 50.2万枚
7月5日 麻丘めぐみ わたしの彼は左きき 49.5万枚
7月21日 浅田美代子 ひとりっ子甘えっ子 14.5万枚
7月25日 アグネス・チャン 草原の輝き 44.5万枚
8月21日 南沙織 色づく街 29.6万枚
8月25日 桜田淳子 わたしの青い鳥 15.9万枚
9月1日 山口百恵 青い果実 19.6万枚
9月1日 キャンディーズ あなたに夢中 8.1万枚
麻丘めぐみが『わたしの彼は左きき』が、曲の良さで初のチャート1位に。天地真理も代表曲といえる『恋する夏の日』を大ヒットさせ、その地位は盤石に見えました。
しかしよく見ると、すでに勢力争いに変化の兆しが見えています。アグネス・チャンはデビュー以来最高、40万枚台の売上を記録しているし、淳子と百恵も、前作から大きく売上を伸ばしています。次世代アイドルの台頭は、数字から明らかになっていたのです。
<1973年10月~12月>
10月1日 浅田美代子 わたしの宵待草 10.2万枚
10月15日 麻丘めぐみ アルプスの少女 22.2万枚
10月21日 天地真理 空いっぱいの幸せ 24.1万枚
10月25日 アグネス・チャン 小さな恋の物語 58.0万枚
11月10日 桜田淳子 花物語 23.7万枚
11月21日 山口百恵 禁じられた遊び 17.6万枚
12月5日 南沙織 ひとかけらの純情 23.6万枚
大きな山が動いた、と行っていい期間です。
それまで常時40万枚以上の売上を維持していた天地真理の新曲が、20万枚台に急落。代わってアグネス・チャンが売上を大きく伸ばし、桜田淳子も
自身最高の売上を記録しています。
人気の浮き沈みは芸能の常とはいえ、何故この時期に一気に天地の売上が落ちたのか。それは、この年の秋に22歳になった天地から、18歳のアグネス、15歳の淳子に、ファンが移行した・・・と考えるしかないのですが。
(『恋する夏の日』は、楽曲のキャッチーさで、天地の人気を延命させたが、そこまででない『空いっぱい~』では、限界が露呈したということでしょうか)
<1974年1月~3月>
1月15日 麻丘めぐみ ときめき 19.4万枚
1月21日 キャンディーズ そよ風のくちづけ 6.3万枚
2月1日 天地真理 恋人たちの港 21.2万枚
2月25日 アグネス・チャン 星に願いを 34.0万枚
3月1日 浅田美代子 しあわせの一番星 22.1万枚
3月1日 山口百恵 春風のいたずら 16.1万枚
3月5日 桜田淳子 三色すみれ 18.6万枚
3月21日 南沙織 バラのかげり 13.6万枚
天地真理の売上はさらに落ちて、これは前作の質の問題というより、天地の人気そのものの低下であることが、明らかとなりました。
とはいえ、アグネス、淳子にも百恵も、一気に突き放す爆発力はなく、団子状態の混戦となっています。
<1974年4月~6月>
4月5日 麻丘めぐみ 白い部屋 12.0万枚
4月21日 キャンディーズ 危ない土曜日 3.8万枚
5月25日 桜田淳子 黄色いリボン 16.5万枚
6月1日 山口百恵 ひと夏の経験 44.6万枚
6月1日 天地真理 恋と海とTシャツと 15.7万枚
6月1日 浅田美代子 虹の架け橋 9.1万枚
6月10日 アグネス・チャン ポケットいっぱいの秘密 22.3万枚
6月21日 南沙織 夏の感情 10.9万枚
しかしそれも束の間。天地真理と同日発売となった山口百恵は、『ひと夏の経験』で大ブレイクし、天地に売上で3倍以上の差をつけます。
僅差ながら桜田淳子も天地の売上を、初めて越えます。一方でアグネスの売上が、陰りを見せ始めます(松本隆の作詞家デビュー作という記念碑的作品ですが)。
<1974年7月~9月>
8月21日 浅田美代子 じゃあまたね 8.8万枚
8月25日 桜田淳子 花占い 12.3万枚
9月1日 山口百恵 ちっぽけな感傷 43.2万枚
9月1日 天地真理 想い出のセレナーデ 32.4万枚
9月1日 キャンディーズ なみだの季節 5.9万枚
9月10日 麻丘めぐみ 悲しみのシーズン 18.9万枚
9月10日 アグネス・チャン 美しい朝がきます 18.4万枚
10月1日 南沙織 夜霧の街 9.5万枚
前期に続き、山口百恵が圧倒的な人気を見せつけますが、そんな中で天地真理も『想い出のセレナーデ』が、その楽曲の良さから、30万枚台という復活ヒットを遂げます。他の女性アイドルと比べても、百恵と真理が抜きんでた数字で、ここは意地を見せたと云っていいでしょう。
桜田淳子は人気を生かした曲に恵まれず、停滞してしまいましたね。
<1974年10月~12月>
11月1日 太田裕美 雨だれ 18.1万枚
12月5日 桜田淳子 はじめての出来事 52.7万枚
12月10日 山口百恵 冬の色 52.9万枚
12月5日 麻丘めぐみ 雪の中の二人 11.1万枚
12月10日 天地真理 木枯らしの舗道 12.1万枚
12月21日 アグネス・チャン 愛の迷い子 40.2万枚
12月21日 南沙織 女性 9.3万枚
12月21日 浅田美代子 想い出のカフェテラス 4.1万枚
そんな桜田淳子が、軽快で思わせぶりな、彼女らしい曲に恵まれ、ついに百恵と並ぶ大ヒットを記録します。
そしてアグネス・チャンも、曲の良さから大きく売上を伸ばしました。
そんな中天地真理は、前作の好調を生かせず、売上を落とし、チャートも最高14位と、初めてベストテンから落ちてしまいました。
ここもまた、アイドル売上史上の、大きな転換点と云えるかもしれません。
<1975年1月~4月>
2月21日 キャンディーズ 年下の男の子 26.0万枚
3月1日 浅田美代子 少女恋唄 5.7万枚
3月5日 桜田淳子 ひとり歩き 34.1万枚
3月5日 麻丘めぐみ 水色のページ 11.0万枚
3月21日 山口百恵 湖の決心 24.9万枚
3月25日 アグネス・チャン 恋人たちの午後 18.9万枚
4月1日 天地真理 愛のアルバム 9.1万枚
ここにきて、ついにキャンディーズが『年下の男の子』でブレイクします。
同じプロダクションで、共通の清純派カラーを持ち、より若いキャンディーズの台頭は、はっきり天地との世代交代を感じさせるものでしたね。
天地真理が1972年10月から続けていた、TBSのレギュラー主演番組も、この3月に終了し、ひとつの時代に区切りがついたのでした。
総括的な感想
私個人は、当時は天地真理に思い入れが強く、ナベプロと対立関係にあった淳子や百恵には負けないでほしい!という気持ちもあったんですけどね。
でもキャンディーズや太田裕美にはそういうものはなくて、自然とそっちのファンに移行していった記憶があります。
なお、売上争いでは名前を挙げることはなかったけど、この時期のアイドル曲で、曲として一番好きなのは、南沙織の『色づく街』と『ひとかけらの純情』です。ロマンチックな青春小説のような楽曲は、真理ちゃんでも淳子、百恵でもない、シンシアならでの名曲でした。
そして、それを作曲した筒美京平が、『赤い風船』『わたしの彼は左きき』、そして桜田淳子の『ひとり歩き』、さらには太田裕美の『雨だれ』をも手がけ、アイドル史を裏から形作っていたことは、後に気づいたことでした。
いずれにしても、この女性アイドルのチャート争い、まだまだ続きますので、また機会を見て、続編を書きたいと思っています。