歴代プロスポーツの高視聴率を検証する~昭和はプロ野球の時代だったか?
現在のプロ野球(NPB)人気が低下している、という見方をする人がいて(巨人戦の視聴率は低下しているものの、全体の観客動員数は好調なので、そうとは言い切れないと思いますが)、その理由として「昔はプロ野球しか娯楽がなかったが、今は様々な人気プロスポーツがあるから」とか「国内完結していた昭和と違って、今は世界と戦うスポーツに目が向いているから」といったことをあげる人がいます。しかし本当にそうなのかという疑問が、私にはあります。
確かに昔はプロ野球中継は常時20%台をキープしていたわけですが、だからといって他にプロスポーツの人気番組がなかったわけではなく、世界と戦っていないわけでもなかったのです。
ビデオリサーチの年間高視聴率番組の記録から、各年度のプロスポーツのジャンル別の1位、2位番組を抽出し、そのことを検証したいと思います。
1960年代~ボクシングとプロレスの全盛
<1963年>
プロレス 64.0% デストロイヤー対力道山(世界戦)
ボクシング 47.8% 海老原対キングピッチ(世界戦)
<1964年>
ボクシング 47.9% パーキンス対高橋(世界戦)
プロレス 44.2% 豊登対デストロイヤー(世界戦)
<1965年>
ボクシング 60.4% 原田対ラドキン(世界戦)
プロレス 51.2% 豊登対デストロイヤー(世界戦)
<1966年>
ボクシング 63.7% 原田対ジョフレ(世界戦)
プロレス 41.9% 馬場対スナイダー(ワールドリーグ決勝)
<1967年>
ボクシング 57.0% 原田対カラバロ(世界戦)
プロレス 36.9% 馬場対キニスキー(インター戦)
<1968年>
ボクシング 53.4% 原田対ローズ(世界戦)
プロレス 36.4% 馬場対キニスキー(インター戦)
<1969年>
ボクシング 40.8% 西城対ゴメス(世界戦)
プロレス 36.6% 新春チャンピオン・シリーズより
これが1960年代のプロスポーツのジャンル別の、年間1位と2位の記録です。見てわかるとおり、全てがボクシングとプロレスで占められています。プロ野球は巨人のV9進行中でON全盛期ながら、最高視聴率ではこの2つに及んでいません。
プロレスはこの時代、毎週視聴率30%を越える人気番組でしたが、ボクシングの場合は普段はそれほどでもないのに、世界戦となるとピンと視聴率が跳ね上がるのが特徴でした(今のJリーグと日本代表の関係に似ています)。つまるところ、この時代の視聴者も「世界」ブランドには弱かったわけで、その時ばかりは国内プロ野球を越える視聴者が、テレビの前に集まっていたわけです。
そして当時のプロレスもまた「馬場を襲う世界の強豪外国人レスラー」という、国際色を売りにして、プロ野球以上の平均視聴率を稼ぎだしていたのです。当時も「世界」は「国内」以上の魅力を持っていたのです。
1970年代~ボクシング、大相撲、プロ野球の混線に
<1970年>
ボクシング 40.8% 西城対スチーブンス(世界戦)
大相撲 33.5% 千秋楽
<1971年>
ボクシング 40.7% 小林対アルレドント(世界戦)
大相撲 36.7% 千秋楽
<1972年>
記録なし
<1973年>
ボクシング 41.0% 輪島対オリベイラ(世界戦)
大相撲 34.6%
<1974年>
ボクシング 47.5% 輪島対オリベイラ(世界戦)
大相撲 37.1%
<1975年>
大相撲 50.6% 千秋楽(貴ノ花優勝)
ボクシング 47.7% 輪島対アルバラード(世界戦)
<1976年>
ボクシング 42.5% 柳対輪島
格闘技 38.8% 猪木対アリ
<1977年>
プロ野球 42.1% 巨人対大洋(王貞治756号)
大相撲 35.2% 千秋楽
<1978年>
プロ野球 45.6% ヤクルト対阪急(日本シリーズ)
ボクシング 43.2% 具志堅対リオス(世界戦)
<1979年>
プロ野球 39.9% 巨人対阪神(江川初登板)
大相撲 39.1%
この70年代に入って、ボクシングの1強体制に、いよいよ大相撲とプロ野球が割り込んできます。
大相撲は60年代の大鵬全盛時代は、それほど数字は伸びなかったようで、輪島、北の湖に、何と言っても貴ノ花の人気で、75年にはついにボクシングを抜く視聴率を達成します。
そしてプロ野球も、巨人の9連覇が終わったことで、かえって視聴率は上昇し、王貞治のホームラン世界新記録、江川騒動という国民的関心事を得て、
ここでついに首位に立ちました。
1980年代~これぞプロ野球と大相撲、黄金時代
<1980年>
ボクシング 41.1% 具志堅対金(世界戦)
大相撲 37.6%
<1981年>
大相撲 52.2% 千秋楽
プロ野球 41.3% 巨人対日本ハム(日本シリーズ)
<1982年>
大相撲 42.0%
プロ野球 40.5% 巨人対中日
<1983年>
プロ野球 41.8% 巨人対西武(日本シリーズ)
大相撲 41.0% 千秋楽
<1984年>
大相撲 38.9%
プロ野球 35.5% 巨人対広島
<1985年>
プロ野球 34.0% ヤクルト対巨人
大相撲 33.6%
<1986年>
大相撲 36.3% 千秋楽
プロ野球 32.4% 阪神対巨人
<1987年>
プロ野球 34.8% 西武対巨人(日本シリーズ)
※他の記録なし
<1988年>
プロ野球 31.4% 巨人対大洋
※他の記録なし
<1989年>
プロ野球 39.8% 巨人対近鉄(日本シリーズ)
大相撲 34.1% 千秋楽
80年代に入って、ついにプロ野球と大相撲、国内型スポーツの2強状態となり、トップの座をほぼ等分に分け合っています(「昭和は世界と戦うようなスポーツがなかった」という印象は、この時期についたものかもしれません)。
大相撲は千代の富士というイケメンな力士が横綱を張っていたのが、はっきり効果として出ていますね。おばあちゃんたちの人気は絶大でした。
プロ野球はONが巨人から去って、江川原のヤングジャイアンツになってから、さらに視聴率に伸び、ペナントレースでも視聴率40%を取る、驚異的なコンテンツになりました。巨人が独走でないことが、逆に人気に結びついたのでしょうか。
この国内型人気スポーツの安定した図式は、平成=90年代に入ると、新たな局面に入っていきます。
1990年代~サッカー日本代表の登場
<1990年>
ボクシング 38.3% タイソン対ダグラス(世界戦)
大相撲 33.2%
<1991年>
大相撲 39.0%
<1992年>
大相撲 40.9%
プロ野球 35.2% ヤクルト対西武(日本シリーズ)
<1993年>
サッカー 48.1% 日本対イラク(ワールドカップ予選)
大相撲 37.6% 千秋楽
<1994年>
プロ野球 48.8% 巨人対中日
ボクシング 39.4% 薬師寺対辰吉
<1995年>
大相撲 38.3% 千秋楽
プロ野球 35.2% ヤクルト対オリックス(日本シリーズ)
<1996年>
プロ野球 43.3% オリックス対巨人(日本シリーズ)
大相撲 31.1% 千秋楽
<1997年>
サッカー 47.9% 日本対イラン(ワールドカップ予選)
プロ野球 30.9% 巨人対ヤクルト
<1998年>
サッカー 60.9% クロアチア対日本(ワールドカップ)
大相撲 33.2%
<1999年>
大相撲 29.4%
プロ野球 29.0% 中日対巨人
大相撲は若貴兄弟の台頭で人気をさらに上昇させ、プロ野球が新スター不在でやや勢いに陰りが出たタイミングで、サッカーJリーグが誕生し、プロスポーツの構造は一変します。
Jリーグ自体は初期のバブルがはじけると人気は一段落したのですが、ワールドカップに挑むサッカー日本代表への関心は高まり、98年のワールドカップ初出場持には視聴率60%台という、1960年代以来の国民的視聴率を獲得しました。
サッカーの売りは「世界にチャレンジする」スポーツであることですが、テレビ的に言うとそれは、ここで初めて起こったことというより、昭和の五輪やボクシング世界戦にあった「国民の世界熱」を再燃、拡大させたということなのかもしれません。
プロ野球はこのサッカーの台頭により、その地位が揺らいだのは確かですが、一方でそれを強い刺激として、活性化していった部分もあります。Jリーグ誕生翌年の10.8決戦、そしてイチローの登場、さらに野茂のメジャーリーグでの成功。「サッカー=若者」「サッカー=世界」というイメージのあった中、それぞれに対抗するヒーローが出たことは大きなことで、むしろ80年代のプロ野球以上の面白味が出た感じです。
さてここから現在までは、プロ野球とサッカーの争いの図式が続いているので、その年の最高視聴率だけを、ザっとあげていきましょう。
2000年代~野球VSサッカーの戦いは・・・
<2000年>
サッカー 42.3% 日本対アメリカ(五輪)
<2001年>
サッカー 37.9% 日本対フランス(コンフェデ)
<2002年>
サッカー 66.1% 日本対ロシア(ワールドカップ)
<2003年>
プロ野球 28.0% 日本対韓国(五輪予選)
<2004年>
サッカー 32.4% 日本対中国(アジアカップ)
<2005年>
サッカー 47.2% 日本対北朝鮮(ワールドカップ予選)
<2006年>
サッカー 52.7% 日本対クロアチア(ワールドカップ)
<2007年>
ボクシング 28.0% 内藤対亀田(世界戦)
<2008年>
プロ野球 28.2% 巨人対西武(日本シリーズ)
<2009年>
ボクシング 43.1% 内藤対亀田(世界戦)
<2010年>
サッカー 57.3% 日本対パラグアイ(ワールドカップ)
<2011年>
サッカー 35.1% 日本対韓国(アジアカップ)
<2012年>
サッカー 35.1% 日本対オーストラリア(ワールドカップ予選)
<2013年>
サッカー 38.6% 日本対オーストラリア(ワールドカップ予選)
<2014年>
サッカー 46.6% 日本対コートジボアール(ワールドカップ)
<2015年>
プロ野球 25.2% 日本対韓国(プレミア)
<2016年>
サッカー 26.8% レアル対鹿島(クラブワールドカップ)
<2017年>
プロ野球 27.4% 日本対キューバ(WBC)
<2018年>
サッカー 48.7% 日本対カメルーン(ワールドカップ)
<2019年>
テニス 32.3% 大坂なおみ対クビトバ(全豪オープン)
<2020年>
大相撲 20.7% 千秋楽
<2021年>
プロ野球 37.0% 日本対アメリカ(五輪)
<2022年>
サッカー 42.9% 日本対コスタリカ(ワールドカップ)
<2023年>
プロ野球 48.0% 日本対イタリア(WBC)
<2024年>※11月14日現在
プロ野球 24.9% ドジャース対パドレス
最高視聴率だけでそのスポーツの人気は判断はできないのですが、とはいっても平成期のサッカー日本代表の「瞬間最大風速ぶり」は圧倒的で凄まじかったといえます。
とはいえ、2010年代後半になるとワールドカップも予選の視聴率は落ち着いてきて、プロ野球もWBCなどの世界大会を得て、新しい形で巻き返していきました。そして大谷翔平が参加したことで、ついに2023年大会のWBCの視聴率は、前年のワールドカップを越えるという快挙?を達成し、戦いは新たな局面に突入しました。
総括
プロスポーツ別の年間最高視聴率獲得回数をまとめると、こうなります。
サッカー 17回
プロ野球 16回(今年1位となれば17回となる)
ボクシング 15回
大相撲 10回
なかなか白熱の勝負という感じになっていますね。
総括していうと、1970年代の前半までは「普段はプロ野球の好きなチームを応援して、(五輪や)ボクシングの世界戦の時は、それを国民が一体となって応援する」というような視聴習慣があり、それが次第に「プロ野球か相撲か」という風に国内安定型の視聴にシフトしつつ、平成期にサッカーワールドカップによって、再び世界熱が高まった。するとプロ野球も国際型に転換して、サッカーに対抗・・・という流れになるかと思います。
この戦いが今後どうなっていくかが、とても興味深いところです。
最後に余談を。
私がプロレスファンになったのは、1969年の「ワールド大リーグ戦」を見てからのことです。アメリカ代表ボボ・ブラジル、イタリア代表ゴリラ・モンスーン、ロシア代表クリス・マルコフ、メキシコ代表ペッパー・ゴメス。まあそれぞれアメリカで活躍しているレスラーではあったのですが、それでもお国柄も様々な大柄な外国人たちを、テレビで見るのは壮観でした。
あれはきっと、私にとってはワールドカップだったのだと思う。たとえそれがイメージ性の強いものであっても、そこで私は初めて「プロスポーツの世界大会」なるものを見たのですから。
というわけで、私はプロレスファンの立場からも、「昭和は昭和で、プロスポーツで世界を味わう感覚はあったんだよ」と、訴えたかったんだと思いますw