冬木透さん追悼~ウルトラ名曲15選
『ウルトラセブン』を始めとするウルトラシリーズの音楽を手がけた、冬木透さんが12月26日に亡くなられました。
自分は冬木音楽の大ファンだったので、追悼の意味をこめまして、特撮ドラマにおける冬木さんの代表曲15曲を、振り返っていきたいと思います。
DVDなどで『ウルトラマン』を見終えて『ウルトラセブン』を見始めると、暖かみのある世界観が、一転してハードでクールな世界観に切り変わっていくことに、ちょっとした快感を覚えることが、常でした。
もちろん『ウルトラマン』は『ウルトラマン』で好きなんですけどね。でも
『セブン』のクールさには、見ているこちらをちょっと大人にするような、不思議な高揚感があるんですよ(もう十分大人なんですけどね)。
そうした印象に大きく貢献していたのは、やはり冬木さんの音楽だと思います。
『ウルトラマン』は怪獣との闘いがメインであるのに対して、『セブン』は、宇宙からの侵略がテーマ。その、宇宙というものの得体の知れなさ、
侵略の恐怖。その反面の美しさ・・・そういったものが、音楽で見事に表現されていたんですね。
ということで、その具体例をあげていきます。
その1~「ウルトラホーク発進」
まずあげたいのが、この「ウルトラホーク発進」のテーマです。
これはホーク発進の時にかかる音楽ですけど、ホークそのものの威力を讃える曲じゃないんですよ。
そうではなくて、宇宙から大円盤群が飛来してきて、ホークが緊急スクランブル発進してくという・・・そっちの方のイメージの曲で、つまり主体は侵略者の側にある曲なのです。
(ビートル機の発進の時には、明るく勇ましい『科学特捜隊』のテーマが流れていた『ウルトラマン』とは全然違うわけです)
同じ旋律が繰り返されるだけの構成にも、余裕のない緊張感が出ていて、とても素晴らしいですね。
その2~「地球防衛軍基地」
『ウルトラホーク発進』とは逆で、こちらの方は、すでに宇宙人が防衛軍基地内(あるいは街中に)潜入して、破壊工作を進めているイメージの曲ですね。
侵略というのは、真正面からもあるし、スパイ工作的なものもあるわけで、
そのもう一方の緊張感が、すごく出ている曲だと思います。
後半の曲は、ポインターに乗って宇宙人を捜索しているイメージで、これも「敵が何者で、どこに潜んでいるかわからない」という不安感に満ち満ちている曲で、引き込まれます。
その3~「危機」
これはいよいよ宇宙人が、地球侵略を本格的に開始するイメージの曲なんですけど。やっぱり何か、敵の正体が掴めないまま、一方的な侵略を受けているというイメージの曲なんですね。
音楽の専門家ではないんで、詳しくはわかりませんが、おそらくは現代音楽(無調や不協和音を重視する)の手法が用いられている気がします。
調性がない=得体が知れない=宇宙からの恐怖、という組み立てが、冬木さんにはあったんじゃないですかね。
分離した謎のロボット(キングジョー)が、原子力潜水艦を破壊するシーンで使われましたが、あの絶望感は、忘れ難いですね。
その4~「盗まれたウルトラアイ」
宇宙人の地球破壊工作員の少女マヤとダンをめぐるエピソードで使われた、曲ですが。
ダンとマヤはテレパシーで会話するので、お互いに無言で、ほぼ無表情なわけです。マヤは母星に裏切られたことが明らかになるのですが、その哀しみを表現するのはセリフではなく、この音楽なわけです。
「無表情の映像に、情感のこもった音楽」という、対比的な表現が、素晴らしかったですね。
後半の曲は、『狙われた街』で、メトロン星人が侵略計画を、ダンに語るシーンに流された曲ですね。恐ろしい計画を語る場面に、なぜかモーツアルト風の明るい協奏曲が流れるという、この対位法的表現にも、息を呑みましたね(これは実相寺昭雄監督が、メトロン星人の侵略を、ある種の「寓話」としてとらえていたからでしょう)
その5~「史上最大の侵略」
これはもう、聴いているだけで泣ける、最終回の名曲ですね。
宇宙からの侵略を描きながら、最後は、彼自身宇宙人であるダン=セブンと、地球人の友愛を描く。
身体がボロボロになり、愛するアンヌに「行かないで!」と言われながら、
「アマギ隊員がピンチなんだよ!」と、たった一人の地球人を、しかしかけがえのない仲間を救うために、変身するダン。
「宇宙人と地球人は必ずわかりあえる」という最終的なテーマを、見事に壮大な情感で、表現したのでした。
その6~「MATのテーマ」
侵略テーマの『ウルトラセブン』に対して、『帰ってきたウルトラマン』は、郷秀樹の人間的な成長の方にスポットが当てられていて、音楽もドラマ性やヒーロー性に、重点が置かれています。
このワンダバのMATテーマはその象徴のようなものです。
特にグドン・ツインテール戦で、長官に「我々MATにもう一度だけチャンスを下さい!」と進言し、それまで対立していた隊員たちが一致団結する場面での使用が、感動的でしたね。
これって実は、『半沢直樹』まで続く、TBSドラマの王道的展開じゃないですか。その原点・・・とは言わないまでも、それと同じ精神が、この音楽の中に流れているのですよ。
その7~「ウルトラマン大ピンチ!」
ドラマ的テンションを重視したこともあり、『帰ってきた~』では、ウルトラマンやMATが、やたらとピンチに立たされます。
MATはいつも「解散、解散」と言われるし、ウルトラマンは怪獣に何度も負けてしまいます。
それでも最後には綺麗に事が収まるかと思いきや、あろうことか、郷の恋人アキと恩人の坂田が、ナックル星人に惨殺されるという、信じられない展開も起こってしまう。危機の表現に、トゥーマッチなところがあるのです。
しかしそのやりすぎ感こそが70年代という気もするし、そういう場面で流されたこの曲も、とても忘れ難いです。
その8~「夕陽に立つウルトラマン」
数ある特撮番組のヒーロー・バトル・テーマの中で、私はこの曲が一番好きですね。この曲こそが初代とは違う、『帰ってきた』ウルトラマンの真髄
だと思っています。
「夕陽に立つ」ウルトラマンなんですよ。もう何度も危機に陥り、恋人すら奪われる絶望的な展開の中で、最後に立ち上がるウルトラマン。
そういう、本当の意味での、不屈のヒーロー精神が表現された曲です。
ナックル星人との再戦で、再びピンチに陥りながら、「しかしウルトラマンは負けない。初代ウルトラマンとセブンの友情が、心の支えになっているのだ」というナレーションと、この曲と共に逆転していくウルトラマン。
もう音楽の力で、勝利を確定させたようなものですが、それに全く違和感のない名曲です。
その9~「ウルトラの星」
『ウルトラマンレオ』でも使用されたので「ウルトラの星」というタイトルになっていますが、『ミラーマン』のバトル・テーマ曲です。
インベーダーの侵略がテーマということで、『ウルトラセブン』に近い世界観が感じられますね。
インベーダーが変身したモンスターと、暗闇の中で、手探りで戦うミラーマン・・・という手に汗握る緊張感が、伝わってきますね。
その10~「戦え!ミラーマン」
これは後半使用された、ミラーマンの悲壮なヒロイズムを表現した曲ですね。
途中でインベーダーに体内に爆弾を埋め込まれたり、SGMのメンバーが行方不明になったり、こっちはこっちで相当ハードな展開がありました。
インベーダーが惑星✕を地球にぶつけてくるというパニック状況の中、京太郎は恋人の朝子に別れを告げて、最後の決戦に挑む。
『セブン』に共通した展開ですが、すでに特撮ドラマが乱立し、質の低下も目立つ中、きっちりとSFとしてドラマとして完結させようという意気込みがあったことを、この曲を聴きながら思い出しますね。
その11~「TACのテーマ」
『ウルトラマンA』における防衛チームのワンダバ曲ですね。
しかしMATのような対立の果ての一致団結というドラマもないので(むしろ最後まで信頼関係が薄い)、今一つ印象は劣るのですが・・・
ただこの曲が、北斗と南の単独行動の時に流れた時には興奮しました。
南夕子は諸事情で後半姿を消してしまうのですが、やはり「北斗と南、男女2人ヒーロー」というのが、この番組の一番面白かったところ、のはずで。
その二人が何で結ばれているかといえば、男女関係というより、TAC隊員としての、戦いの同志としての結びつきではないかと思うんですね。
それがこの曲で表現されている・・・と考えると、とてもいい曲だなあと思えてきます。
その12~「超獣出現!」
超獣・・・というか、異次元超獣のテーマですね。
『A』における超獣は、それまでの怪獣や宇宙人と違って、異次元からやってくるということで、天空を割って出現したり、神出鬼没なところがあるわけですよ。
その不気味さ、摩訶不思議な存在に翻弄されるA・・・という感じが、よく表現されている曲だと思いましたね。
超獣も番組の前半では楽しめたのですが、後半はヤプール人が倒されて(復活はしますが)、存在理由がなくなった感じで、残念でしたね。
その13~「真紅の若獅子」
『ウルトラマンレオ』というのも、色々な意味で満身創痍な番組でしたね。
視聴率が低下して、これで第二期ウルトラシリーズが終了となりましたし、内容的にもレオが特訓、試練、苦難の連続で、あげくの果ては防衛チームが全滅、務めていたスポーツクラブの仲間も亡くなってしまうという、非情すぎる展開ではありました。
この曲はとても気持ちを高揚させる名曲なんですが、この曲のイメージ通りには地球も、仲間たちも、そして番組も守り切れなかったという、レオの哀愁も感じてしまいますね。
その14~「恐怖の円盤生物」
そしてこれが、防衛チームや仲間たちを全滅させた、円盤生物が襲来する時に使用された曲です。
『セブン』の「ウルトラホーク発進!」と似たモチーフの曲ですが、あちらが防衛チームの視点から描かれているのに対して、こちらはもう、巨大なモンスターが、遠慮なく堂々と乗り込んでくる感じですね。
それだけもう、地球防衛は手薄ということで、その危機感は尋常ではありません。
その脅威に、一人孤独に立ち向かっていくレオの姿が浮かんできます。
第二期ウルトラシリーズの最後を飾るにふさわしい曲だと思いますね。
その15~「ウルトラセブンの歌」
というわけで、やっぱり最後は「ウルトラセブンの歌」です。
冬木透さんご自身の指揮によるオーケストラ演奏。
はい、これはもう第二国歌でいいです(笑)
『セブン』をリアルタイムで知っていようがいまいが、この曲には誰しもが心震えて、感動するでしょう。
ヒーローの主題歌の、「THIS IS スタンダード」であり、「マスター・ピース」でしょう。
こうして書いていくと、やはりウルトラシリーズを盛り上げたのは、冬木さんの音楽であることを、改めて痛感します。
ご冥福をお祈りすると同時に、これからも作品を楽しませていただきます。
ありがとうございました。