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70年代アイドルの売上興亡史②~山口百恵VS宏美、裕美編

前回に続き、70年代の女性アイドルの売上興亡史を見ていきましょう。
アイドルのトップに君臨していた天地真理を追い落とした山口百恵と桜田淳子が、そのまま首位争いを繰り広げると思いきや、そう簡単にはいかず、むしろ一時後退してしまうという、波乱の期間です。
その相乗効果として、アイドル・ポップスが、第一次の充実、完成を迎えた時代であるとも云えるでしょう。
それでは、1975年4月以降の、各期ごとの、オリコン・データを見ていきましょう。

<1975年4月~6月>

4月1日  天地真理     愛のアルバム     9.1万枚
4月21日 南沙織      想い出通り     10.5万枚
4月21日 太田裕美     たんぽぽ       6.3万枚
4月25日 岩崎宏美     二重唱(デュエット)14.0万枚
5月21日 天地真理     初めての涙      5.8万枚
6月1日  キャンディーズ  内気なあいつ     9.8万枚
6月5日  桜田淳子     十七の夏      40.4万枚
6月5日  麻丘めぐみ    恋のあやとり     7.5万枚
6月10日 夏ひらく青春   山口百恵      32.9万枚
6月10日 アグネス・チャン はだしの冒険    14.7万枚

1月~3月期に続き、桜田淳子が山口百恵を売上で上回り、女性アイドルのトップの座を確立します。この時期の百恵ちゃんは、『ひと夏の経験』の性典路線から、次の展開に詰まり、淳子の正統派アイドル性の後塵を拝していたのですね。
『年下の女の子』でブレイクしたキャンディーズも、まだ少し足踏み状態でしたが、アグネス・チャンの売上も低下気味。これはメディアが百恵・淳子・森昌子の高二トリオを、人気三人娘のように取り上げた影響の、風評被害みたいなものではないかと、当時思っていました。
そんな中で、アイドルとはいえ歌唱力が際立った岩崎宏美がデビュー。それまで「スター誕生」組には楽曲提供がなかった筒美京平が、阿久悠と組んで、満を持しての登板でした。

<1975年7月~9月>

7月25日 岩崎宏美     ロマンス       88.7万枚
8月1日  南沙織      人恋しくて      23.2万枚
8月1日  太田裕美     夕焼け         6.4万枚
8月15日 麻丘めぐみ    美しく燃えながら    4.2万枚
8月25日 桜田淳子     天使のくちびる    28.1万枚
8月25日 アグネス・チャン 白い靴下は似合わない 14.8万枚
9月1日  キャンディーズ  その気にさせないで  10.3万枚
9月1日  天地真理     さよならこんにちわ   3.5万枚
9月21日 山口百恵     ささやかな欲望    32.6万枚

淳子、百恵の争いを飛び越え、岩崎宏美が、洋楽ディスコ・ソウル・ナンバーの要素を取り入れた『ロマンス』で一気に首位に躍り出ました(この時点で、女性アイドルとして過去最大級のヒットです)。歌唱力のある岩崎宏美に、正統派のバラードを歌わせると思いきや、同時代的な音楽性で勝負したのです。それはアイドル・ポップスの転換点だったかもしれません。
キャンディーズの『その気にさせないで』もソウル調の曲。南沙織は田山雅充の曲で復活ヒット、アグネス・チャン作品の作詞・作曲は荒井由実と、アイドル・ポップスを、従来のカラーから抜け出させるアプローチが、徐々に広がって行きました。

<1975年10月~12月>

10月21日 浅田美代子    この胸にこの髪に    2.2万枚 
10月25日 岩崎宏美     センチメンタル    57.3万枚 
10月25日 麻丘めぐみ    白い微笑        2.9万枚
11月21日 南沙織      ひとねむり       6.2万枚
11月25日 桜田淳子     ゆれてる私      27.0万枚
12月5日  キャンディーズ  ハートのエースが出てこない17.2万
12月5日  天地真理     夕陽のスケッチ     1.7万枚
12月10日 アグネス・チャン 冬の日の帰り道    12.3万枚
12月21日 太田裕美     木綿のハンカチーフ  86.7万枚
12月21日 山口百恵     白い約束       35.0万枚

岩崎宏美の『センチメンタル』は、筒美京平のアレンジがさらにソウルっぽさを増して、アイドル楽曲を越えたセールスを続け、百恵も淳子も圧倒していきます。
しかしこの年の暮れ、今度は筒美京平が松本隆と組んで、フォークソングの
要素を入れた『木綿のハンカチーフ』で、岩崎をさらに上回る大ヒットを飛ばしたのです。ディスコ調、フォーク調と対照的な楽曲で、2人のヒロミに大ヒットをもたらした筒美。そしてアイドルの楽曲に、文学性を持ち込んだ松本隆の登場によって、このジャンルの作品性が、一気に高まったのです。
そうした影響からか、桜田淳子の売上は落ち、山口百恵もやや足踏み状態で、次の展開を模索している感じでした。

<1976年1月~3月>

1月25日  岩崎宏美     ファンタジー    39.3万枚
2月5日   麻丘めぐみ    卒業         2.0万枚
2月25日  桜田淳子     泣かないわ     21.6万枚
3月1日   キャンディーズ  春一番       36.2万枚
3月1日   南沙織      気が向けば電話して  6.2万枚
3月21日  山口百恵     愛に走って     46.5万枚

前年暮れ発売の『木綿のハンカチーフ』は、実質この期間のヒット曲です。
岩崎宏美の『ファンタジー』はメロディーもアレンジも凝りまくった作品で、これがまたアーティスト・パワーでヒットするわけです。
さらにキャンディーズが、アルバムで話題となった「フォークみたいな歌詞の曲」、『春一番』をシングル・カットして大ヒットさせ、いよいよアイドル・ポップスも楽曲的に仕掛けていく時代になっていきましたね。
山口百恵は好セールスを記録していますが、これはB面にドラマ『赤い運命』の挿入歌が入っていた影響もあるのではないでしょうか。しかし本格的な逆襲は、もうすぐそこでした。

<1976年4月~6月>

4月10日 アグネス・チャン 恋のシーソーゲーム 19.3万枚
4月21日 天地真理     矢車草        2.3万枚
5月1日  岩崎宏美     未来        31.4万枚
5月25日 桜田淳子     夏にご用心     36.0万枚
5月31日 キャンディーズ  夏が来た!     17.6万枚
5月31日 南沙織      青春に恥じないように 2.9万枚
6月1日  太田裕美     赤いハイヒール   48.7万枚
6月3日  麻丘めぐみ    夏八景        2.1万枚
6月21日 山口百恵     横須賀ストーリー  66.1万枚

太田裕美のブレイク後第二弾の『赤いハイヒール』、岩崎宏美のディスコ路線の極み『未来』が共に大ヒットする中で・・・
山口百恵が、作詞・阿木燿子、作曲・宇崎竜童を得た『横須賀ストーリー』
を発表。ここでついに、山口百恵の第二章にして真章とも云える展開を、スタートさせます。
思えば『ひと夏の経験』のブレイクから丸二年が経過していました。天地真理の全盛期が二年だったことを考えると、ここで入ったセカンドギアこそが、山口百恵を百恵たらしめたものでしょう。しかしそこには、変化するアイドル・ポップスシーンからの刺激というのがあったと思いますし、その対応の部分で桜田淳子と差がついた気がいたします。

<1976年7月~9月>

7月21日 天地真理     愛の渚         2.8万枚
8月1日  岩崎宏美     霧のめぐりあい    23.4万枚
8月1日  アグネス・チャン 夢をください      9.6万枚
8月25日 ピンク・レディー ペッパー警部     60.5万枚
8月25日 桜田淳子     ねえ!気がついてよ  28.6万枚
9月1日  キャンディーズ  ハート泥棒       9.0万枚
9月1日  南沙織      哀しい妖精       8.7万枚
9月5日  麻丘めぐみ    夜霧の出来事      0.3万枚
9月21日 山口百恵     パールカラーにゆれて 47.0万枚
9月21日 太田裕美     最後の一葉      30.6万枚

・・・そういったところでアイドル・シーンは落ち着かず、怒涛の新展開に突入します。
ひとまず状況を整理すると。
山口百恵は『横須賀ストーリー』に次いで連続チャート1位となり、太田裕美、岩崎宏美、そして桜田淳子を売上的に抑え込んで、おさまるところにおさまった貫禄を示します。
旧アイドル勢?で云うと、アグネス・チャンが海外留学のため、休業しました(アイドルの休業、引退イベントの最初と云えますね)。
天地真理、麻丘めぐみは、これが最後のオリコン・チャート入りとなり、
第一期アイドルにひと区切りがついた感じです。
そんな中で南沙織は松本隆訳詞のジャニス・イアン『哀しい妖精』で盛り返し、シンガーとしての可能性を示しました。
キャンディーズは、高い人気にも関わらず、売上枚数一桁転落の憂き目に。しかしこれは楽曲がパッとしないせいでした。

といった状況で、山口百恵を主役に、安定したアイドル・シーンが展開していくと思いきや、ここで伏兵といえるピンク・レディーが登場し、状況は再び激変していくのです。
阿久悠が仕掛けたこのピンク・レディーは、もしかしたら、少し高級な音楽性や文学性に傾きかけたアイドル・シーンを、再びガチャガチャした世界観に引き戻そうとする、ショック療法的な企みだったのかもしれません。
そしてその目論見はあたり、この年の暮れ以降、全てをさらっていくのでした・・・

感想・総括

この時期の女性アイドル・シーンは、総じて言うと『スター誕生組』(山口百恵、桜田淳子、岩崎宏美)対『渡辺プロダクション組』(キャンディーズ、太田裕美、アグネス・チャン)という対立構造にも見てとれますが、楽曲プロデュース的に言うと阿久悠(桜田淳子、岩崎宏美)対CBSソニーの酒井政利(山口百恵、太田裕美、キャンディーズ)だったり、作曲で言うと筒美京平が岩崎宏美と太田裕美を手がけていたりと、複雑に入り組んでいて、単純な図式で読み取ることはできません。
その分、複雑な競争意識の中でクリエイティビティが発達し、女性アイドル・ポップスというジャンルが、大きく成長した時代、と云えるのではないでしょうか。

この黄金時代が、ピンク・レディー登場という激震によって、どうなっていくのかは、また追いかけて見たいと思います。



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