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ワールドカップとWBC~その視聴率の変遷
今回は、サッカーワールドカップと野球WBCの、大会ごとの日本戦の平均視聴率を比較してみたいと思います。
もちろん、歴史も規模も権威も、ワールドカップが上であることは当然なので、大会自体の比較ではないです。あくまでも「日本のテレビ番組」としての視聴率に焦点を絞った話です。
これよく、野球派とサッカー派の比較対象の論争になったりするんですね。その割に、きちんとした平均視聴率データが少ないし、ここ30年のサッカー、野球の流れをおさらいする意味でも、まとめてみました。
〇1994年ワールドカップアメリカ大会
アジア1次予選 平均視聴率 4.8%
アジア最終予選 平均視聴率 29.3%
地上波テレビが本格的にワールドカップ予選を取り上げ始めたのは、1993年のJリーグ開幕年からですね。しかしJの開幕直前に行われた1次予選は(深夜放送が主体だったとはいえ)一桁台前半の視聴率に終わっています。
ぶっちゃけ、J開幕前のこの時点では、多くの国民がサッカーとワールドカップについて、よくわかっていなかったのでしょう。
しかしJリーグが開幕し、20~30%台の高視聴率を連発すると、それと並行して「ワールドカップがいかに凄い大会か」「オリンピックを越える世界最大の大会」かが語られ、「出場は日本の悲願である」というストーリーも語られ、その価値が布教されたのですね。
そのためか、秋の最終予選の視聴率は、「ドーハの悲劇の」イラク戦の視聴率48.1%を始め、凄まじい数字を記録して、盛り上がりました。
この年の巨人戦の平均視聴率が21.5%、そして88年ソウル五輪の(夜間の)平均視聴率が21.1%、92年バルセロナが15.5%なので、この時点で「ワールドカップ最終予選」は、スポーツナンバー1級のコンテンツに、いきなり躍り出たということですね。
〇1998年ワールドカップフランス大会
アジア1次予選 平均視聴率 9.7%
アジア最終予選 平均視聴率 27.2%
本大会 57.9%
Jリーグ中継の視聴率は、1994年後半から落ち始めて、この頃はテレビのゴールデンタイム中継もなくなって、サッカー人気が冷え込んでいた時期でした。
ということで、1次予選の視聴率は伸びなかったのですが、最終予選は、成績がぐずついて監督交代劇があったことからかえって注目度が増して、「ジョホールバルの歓喜」と呼ばれるイラン戦では47.9%を獲得し、悲願の本大会への出場を決めました。
本大会のアルゼンチン戦は60.5%、クロアチア戦では60.9%という、60年代の東京五輪やボクシング世界選手権以来の視聴率を記録し、
若者から高齢層まで、全世代が視聴する、桁外れのイベントになりました。
〇2002年ワールドカップ日韓大会
本大会 平均視聴率 54.7%
かくして開催された日韓ワールドカップでは、日本戦以外の外国チーム同士の対戦でも、視聴率30%以上が17試合もあるという、凄まじい状況を迎えました。
日本が初勝利したロシア戦は視聴率66.1%で、日本テレビ史上歴代3位という、空恐ろしい数字で、「ワールドカップ」は、スポーツの枠を越えた、国民最大のイベントとなったのでした。
〇2006年ワールドカップドイツ大会
アジア1次予選 平均視聴率 19.9%
アジア最終予選 平均視聴率 36.5%
本大会 平均視聴率 40.4%
日本がベスト16に入った日韓大会を受けてのドイツ大会予選は、ジーコを監督に迎えたこともあって、1次予選の段階で19%を獲得、最終予選では
平均36%という、凄まじい人気を示しました。
一方でJリーグの方は、民放での中継が途絶えて、サッカー人気は「代表人気」に一極化する状況でもありました。
中田英寿を始め、有力選手は海外リーグで活躍するのが当たり前になってきたので、彼らの姿を代表戦で見るのが、サッカー視聴のスタイルとなってきたのでしょうか。
本大会はクロアチア戦で視聴率52.7%を記録しましたが、成績はグループリーグ敗退で終わりました。
〇2006年WBC
東京ラウンド 平均視聴率 18.7%
アメリカラウンド 平均視聴率 23.3%
そんな時に、MLBが「野球の世界大会」を提唱したのは、もちろんワールドカップのビジネスとしての成功ぶりを意識してのことでしょう。
でも収益分配がMLBに偏るなどの問題があり、日本はノリノリで参加したわけではなく、松井秀喜の辞退などもあって、国民の認知も盛り上がりも今一つでした。
東京で行われた第1ラウンドは、イチローが参加しているにも関わらず、3戦中2戦は客が埋まらず、平均視聴率も20%に届きませんでした。
このままMLB主催の国際大会花相撲・・・という感じで終わる可能性もあったのですが。しかしアメリカ戦でのデービッド審判の世紀の誤審で、国民の怒りに火がつき、韓国に敗れながら、メキシコの奮戦で準決勝進出が決定するという、ドラマチックな出来事もあり、決勝キューバ戦は43.4%という、国民行事レベルの視聴率を獲得し、優勝を果たしました。
今考えても、野球にとってはラッキーなことでした。歴史や規模があるワールドカップと違い、WBCはその場で起こるドラマ性で惹きつけるしかなかったのですが、それに恵まれたのですから。
〇2009年WBC
東京ラウンド 平均視聴率 33.2%
アメリカラウンド 平均視聴率 28.5%
前回の優勝を受けての第2回WBCは、イチロー、松坂らMLB勢に、ダルビッシュ、田中将大ら強力メンバーが結集し、今度は東京ラウンドから、大フィーバーとなりました。
韓国戦では視聴率40.1%を記録。東京ラウンドの平均視聴率33%は、時期的には平行していたワールドカップ最終予選を大きく上回るもので、北京五輪の夜間平均視聴率17.8%も越えました。この時点で日本ではWBCは「ワールドカップ(本大会)に次ぐスポーツイベント」としての地位を確立したと云えるでしょう。
大会も侍ジャパンが二連覇を果たします。
〇2010年ワールドカップ南アフリカ大会
アジア3次予選 平均視聴率 15.9%
アジア最終予選 平均視聴率 16.0%
本大会 平均視聴率 44.8%
一方ワールドカップは、期待されたドイツ大会がグループリーグ落ちして、
熱が冷めたように予選の視聴率が落ちてしまいました。特に最終予選の
平均視聴率が20%割れし、過去最低となったのは、かなり危機的な状況だったのではないでしょうか。
しかし本大会では、予想を覆してベスト16に進出。決勝トーナメントパラグアイ戦では57.3%と、再びモンスター的な視聴率を獲得。
本田圭佑、長友、長谷部ら新スターの登場で、再びサッカー人気が息を吹き返すのでした。
〇2013年WBC
東京ラウンド 平均視聴率 23.1%
アメリカラウンド 平均視聴率 25.0%
日本の二連覇で盛り上がったはずのWBCですが、この大会ではMLB勢が全て参加辞退という状況になり、オランダ戦で視聴率34.4%は獲得したものの、盛り上がりに欠け、日本も準決勝で敗退しました。
MLB主催の大会にも関わらず、メジャー選手の参加辞退が多い状況は、各国も変わらず、大会の権威にも人気にも、影を落とした感がありました。
〇2014年ワールドカップブラジル大会
アジア3次予選 平均視聴率 19.8%
アジア最終予選 平均視聴率 29.9%
本大会 平均視聴率 39.2%
南アフリカで活躍した日本選手が、そのままヨーロッパリーグで活躍し、サッカー報道も盛んになりました。
アジア最終予選の視聴率は、再び平均30%弱まで上昇。オーストラリア戦の視聴率は38.6%を獲得し、陰りの見えたWBCを始め、野球中継コンテンツをぶっちぎる、無双ぶりを見せました。
しかし期待度MAXで迎えた本大会で、1引き分け2敗でグループリーグで敗退すると、再びサッカー人気は後退していきます(この時期までは、ワールドカップの成績とサッカー人気が、完全に連動していますね)
本大会の最高視聴率はコートジボワール戦の46.6%でした。
〇2017年WBC
東京ラウンド 平均視聴率 18.4%
アメリカラウンド 平均視聴率 22.0%
2017年のWBCは、期待された日本ハムの大谷翔平が、怪我で参加を辞退し、MLB勢力も青木のみの参加となり、視聴率はキューバ戦の27.4%が最高で、さらに後退していきました。
成績でも日本は再び準決勝で敗れ、優勝を逃します。
大会へのメジャー組の辞退者続出の状況も変わらず、行き詰まりの雰囲気も
ありましたね。
次の大会はコロナの影響で、2023年まで延期となります。しかしそれが幸いするとは、この時点では、誰も想像できませんでした(大谷翔平が成長していたのです・・・)
〇2018年ワールドカップロシア大会
アジア2次予選 平均視聴率 16.6%
アジア最終予選 平均視聴率 18.8%
本大会 平均視聴率 40.1%
ブラジル大会の敗退の影響で、アジア最終予選の視聴率は、再び10%台に陥落しました。
しかしこういう時には何故か盛り返すサッカー日本代表。直前に監督交代した本大会では、ベスト16に3度び進出を果たし、コロンビア戦では視聴率48.7%を獲得するのでした。
〇2022年ワールドカップカタール大会
アジア2次予選 平均視聴率 11.4%
アジア最終予選 平均視聴率 16.2%
本大会 平均視聴率 35.4%
本大会でベスト16に入ると、次の予選の視聴率は上昇する・・・今までのパターンが崩れて、数字は前回よりさらに落ちてしまいました。
原因は・・・もはやアジア予選への注目が薄れてきたこと。放映権料の高騰で、アウェー予選が地上波放送されなくなり、連続ドラマ的な盛り上がりに欠けたこと。本田圭佑のような、話題性のあるスター選手がいなかったこと。色々とあげられますが、「サッカー人気の行き詰まり」的な受け止め方も、されてしまいましたね。
本大会ではドイツ、スペインを破る快挙でベスト16に進出。最高視聴率はコスタリカ戦の42.9%で、これは普段の大会の水準からは落ちますが、
地上波と同時中継したABEMAの影響を指摘する声もあり、これをもって人気低下云々は、言いきれないところです。
〇2023年WBC
東京ラウンド 平均視聴率 44.1%
アメリカラウンド 平均視聴率 42.5%
栗山英樹監督が、大谷翔平の参加を取りつけた時、WBCをめぐる状況は一変したと云えるでしょう。二刀流でMVPを獲得した、MLB最大のスターが参加する。しかもそれは日本にとっては、スーパースターの凱旋帰国試合ともなるのです。
かくして東京ラウンドは、イタリア戦の48.0%を始め、5試合連続視聴率40%以上という、前人未到の数字を挙げました。
さらにアメリカで行われた準決勝、決勝も40%を越えて、7試合連続、日本戦全試合40%以上という、とてつもない快記録を達成。初めて、同時期のワールドカップの平均視聴率を越えるのでした。
しかも大谷は、試合でも投打で活躍。最後はトラウトを投手として三振に打ち取り、優勝を果たすという展開は、WBCという大会の権威自体を、一気に押し上げるものでした。
〇2026年ワールドカップ
アジア2次予選 平均視聴率 11.7%
次回ワールドカップ大会の予選。2次予選は振るいませんでしたが、最終予選は中国戦が16.0、オーストラリア戦が18.5%と、前回よりは上昇の気配があります。
以上が、日本におけるワールドカップとWBCの視聴率の変遷です。
色々なことが読み取れるとは思うのですが、総括や感想はあえて避けます。
この数字から、ワールドカップとWBC、サッカーと野球をめぐる日本の
様々を、考察していただけると幸いです。