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りぼーん 第17話

60歳を半年後に迎える田中が、その先を考えて選んだ仕事を縦糸に、
田中の父との日々や、コロナ禍で生きる市井の人々を横糸にした話。

前回まで
Sさん

目次
・コロナ禍の人々⑦
・有志とのランチ③

コロナ禍の人々⑦

6月中旬、とうとう我慢できずに雨が本降りになってきた夕方、六本木の交差点近くから外国人の男性をお乗せした。

日本語は何とか通じ、買い物帰りの様子であった。田中は少し英会話のトレーニングのつもりで、出身や仕事、オリンピックやコロナについて話をした。

田中「だいぶ雨が強くなってきましたね、梅雨時期だから仕方ないです。一般には嫌われる季節ですが、私はそうでもないです。
何故なら、今日は私の誕生日だからです(笑)」

ロバートパーカー「何だって❣ 本当ですか(笑)、私はとても幸運ですね」、

「来月に私の新しい店が出来ます、2つの店を閉めて大きい店を開きます。インターネットでSDシティと検索してください、いつでも歓迎します(笑)」

田中「ありがとうございます。日本で仕事されて成功しているのですね、良かったですね」

ロバートパーカー「ワインは、飲みますか❓」

田中「はい」

ロバートパーカー「白と赤はどちらが好みですか」

田中「特にこだわりはございません」

ロバートパーカー「それならば、これは貴方への誕生日のプレゼントです」

田中「…❣️よろしいのですか、ありがとうございます。嬉しいです、とてもよい記念になります」

田中はロバートパーカーを西新橋までお送りした、米軍の沖縄基地に所属していた彼は、退役後にアメリカには戻らずに日本に住むことを決めたのだった。

改めて様々な人生があることを、感じた・・・。

有志とのランチ③

翌日の昼、田中は久しぶりに有志と昼食を共にしていた。

有志「田中さーん、聞いて下さいよ(笑)」

田中「どうした❓(笑)」

有志「今日、変なお客様がいたんです。東中野でお乗せしたんですけど、群馬の伊香保まで幾らくらいかかるかと、聞いてきたんです」、

「一応ナビで計算したんですけど、ただ聞いただけ〜とか言いながら(笑)、送り先は何処だと思います❓」

田中「近い所かな、或はまったく逆方向かな❓」

有志「入間なんですよ、しかも高速なしで下道ばかりで…」

田中「あらまぁ(笑)、それは時間が掛かるね~」

有志「はい、1時間半くらい。しかもこの方は、
車オタクでやたらに詳しいのです。メーカーの開発背景から新車のスペックまで…」

田中「業界の人❓」

有志「はっきりしないのですが、仕事は関係していると思います。
そして、入間に着いてから不思議な行動をとったんですよ」

田中「❓」

有志「自分の家ではない家を4軒を回って、いちいち車を確認しているんです」

田中「…ちょっとマズイ関係の人なのかな、中古車の盗難もあるしそれだけ車に詳しければ、高額な車を
物色していた可能性もあるね」

有志「アッ!!!、そうか、そうですね。そういえばいちいち確認していました」

田中「しばらくぶりだから、まだまだ楽しい話ありそうだね(笑)」

有志「ハイ、田中さん、区役所のバッセンって
行き先、分かりますか❓」

田中「う~ん…、区役所は歌舞伎町だね」

有志「当り❣、バッセンは❓」

田中「まさか、バッティングセンターのこと❓」

有志「そうなんですよ、西池袋でお乗せしてそう言われたんです。私は豊島区役所のバス停ですか?と聞いたら、その若い女性はそうだというのです」、

「それで、ビックリガードからあずま通りでいいですか、と聞いたらそれも「ハイ」とか言うので、
そうしました」

田中「それだけ行き先と経路の確認がしっかりやったなら、私も無理だね~(笑)」

有志「私の辞書にバッセンなんて言葉ありませんよ、あっても他人には使いません。
まして普通に認識されてるなんて思う人がいることが、信じられません…」

久しぶりということもあり、田中は2杯目のレモンサワーを有志の分と合わせて注文した。

有志「こないだ砧公園から、歌舞伎町まで若者2人を送ったんですよ」

田中「朝ならいいお客様だね」

有志「そうなんです、それでマックのドライブスルーに入ってくれと言われました」

田中「(思わず吹き出しそうになるのを堪えながら)エッ❣️、宗ちゃんのお客様は、ホントにユニークな人が多いね(笑)」

有志「マックの駐車場の中に黄色いタクシーが1台、笑えますよね。注文する時や商品を受け取る時に車を寄せなければいけないんで、気を遣いました」

田中「そうだよね、あれは運転手が前提だものね。お客様はボーダー系でしょ❓」

有志「何故わかるんですか…、そんな雰囲気でした」

乗務員の仕事を始めてようやく1年が、過ぎようとしていた。

2人は今まで勤めていた会社の中で、一番良かった会社について話をしていた。

田中「このコロナ禍で新しい生活様式、仕事の仕方ということがよく話題になるよね」、

「宗ちゃんと私が経験して一番と考えている会社は、突き詰めれば信頼できる人間関係と、切磋琢磨して成長し自己実現できる環境を与えた、会社なんだね」

有志「本当にそうなんです、だから不幸なんですよね」、

「その時は課題を達成するのが大変でも、今から考えれば幸せで、その幸せを知ってしまったという不幸があります。
それ以上の会社は出てきませんから…」

田中「本当にそうだね、どんな会社に行っても知らぬ間に比較してるし、冷めた目で見ているんだよね(笑)」、

「それでも、そんな経験できただけでも、ヤッパリ幸せなんだよ」


次回予告: 2020年の夏










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