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りぼーん 第12話
60歳を半年後に迎える田中が、その先を考えて選んだ仕事を縦糸に、
田中の父との日々や、コロナ禍で生きる市井の人々を横糸にした話。
前回まで
コロナ禍の人々②
目次
・コロナ禍の人々③
コロナ禍の人々③
政府は2020年2月下旬から大規模イベントの中止、延期または規模の縮小(2週間)、全国の小中高校の臨時休校を要請。
WHOが「新型コロナウィルスはパンデミックと言える」、と述べるに至る。
・3月中旬の日曜の夜、田中は元麻布から目黒まで40歳代のサラリーマン風の男性をお乗せした。
高木「私、イベントの企画をしているんですが、
コロナの影響で大変なんです」、
「今日はライブ会場にキャンセルの件で、話してきたんです。メールや電話でもいいんですけど、
そうじゃないような気がして」、
「彼らも、ハイそうですかとは、
聞けないと思うので…。経営的にも」
田中「それは大変お疲れ様でした、このご時世なので相手方も、理解はされてはいるでしょうね。
お客様がわざわざ足を運んだことで、仕方ないと
思わざるを得ないですね」
高木「そう思ってくれるといいのですが、
次の話も今は、出来ません。
明日からは、演奏者にキャンセルを、伝えなければなりません…」
田中「器だけでなく、プレイヤーにもですか…」
高木「私自身も奏者なんですが、スケジュールとかの問題がありまして…」、
「当日のギャラを、お支払いする事になってはいるのですが、それでいいのかどうか、次を考えると」
田中「それはそうですね、その日程以外は、年内は難しいという奏者も、いらっしゃるかもしれませんね」
車は目黒駅を過ぎ、山手通りに向かっていた。
田中「お客様、一つだけ…。身体だけは大事にして
下さいね、元も子もないですから」
高木「そうですね、ありがとうございます。
…、そうですよね」
田中「仕事で、命まではとられませんから」
高木「先が見えないのですが、チョット明るくなったような気がします、ありがとうございます」
田中は、高木が山手通り近くのレストランの灯りに消えていくのを見ながら、ハンドルを元の道へ戻した。
・3月中旬の月曜の朝、田中は大手町から神宮前までお送りした。
桜井「あずさパートナーズの桜井です。今朝、先物がUS200$値下がりしました。
日銀の協調介入がありますが、金融政策決定会合後に改めて連絡します」、
「…マイナス金利を深堀しても、インパクト弱いですね、…また市場にジャブジャブ投入しますかね」
(☎️の会話の後)
「運転手さん10時までに、原宿に着きたいんだけど」
田中「10時ですか、厳しいですが頑張ります。
空いている道を選択します」
桜井「お任せします」
桜井「(違う相手に2回ほど☎、同じセリフを繰り返す)・・・ふっー」
田中「大変ですね」
桜井「また、不景気になっちゃいますねー」
田中「そんな気配ですね」
桜井「(外部から携帯に☎)もしもし….、
あっ桜井です。すみません掛けて頂いて…」
(☎️が終わったようなので)
田中「車内、暑いですか?」
桜井「少し、暑いですね」
田中「クーラー掛けましょう」
桜井「ありがとうございます。失礼ですが、
リーマンショックは、経験されていますか?」
田中「(いきなりの質問で戸惑うも)はい、人員整理の対象でした」
桜井「それでは、大先輩ですね」
田中「海外の会社の方が、リアクションが早くて
厳しかった気がします」
車は表参道を、代々木に向かって降りていた。
桜井「ギリギリで間に合わないって、感じですね(笑)」
田中「すみません、そのようですね。こちらで宜しいですか?」
桜井「ありがとうございます」
田中「お身体を大切に、ご武運を」
ニヤリと笑って飛び出していった桜井の背中を見た田中は、回送表示にして、車を会社に向けた。
桜井が何故、リーマンショックを持ち出したか、
田中はわからない。
ただ、何となくだったのか、田中の雰囲気がそうさせたのかは…。
次回予告:コロナ禍の人々④
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