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りぼーん 第6話

60歳を半年後に迎える田中が、その先を考えて選んだ仕事を縦糸に、
田中の父との日々や、コロナ禍で生きる市井の人々を横糸にした話。

前回まで
20時間の小旅行と有志とのランチ①

目次
・有志とのランチ②
・普段の田中の生活

有志とのランチ②

有志「こないだ、ちょっとない経験をさせてもらいました。
田中さん、帝釈天って知ってます?」

田中「うん、知ってるよ、柴又の帝釈天でしょ。
私も何回かお送りしたこともあるけど。
それが、どうかしたの?」

有志「そのお客様は2人連れで、中年男性と若い女性が乗車されたんです。
私が知らなかったので、住所をスマホで調べてくれて、ナビに入れさせてくれたんです」

田中「優しいお客さまだね(笑)、何処から?」

有志「二子玉川です、そのお2人はお好み焼き屋さんから出てきたんです。
少しアルコールも入っていたんでしょうね、   その男性が59年来の夢だったと言うんです、   帝釈天に行くことが」

田中「59年来…❗️ フーン、そうですか。
随分と我慢したんだね~(笑)で、何時頃ですか?」

有志「帝釈天に到着したのが、21時頃です」

田中「その時間だと、参道のお店は閉まっているかな」

有志「そうなんですね。で、お参りしてくるので待っている様に言われました。
それで、お賽銭用に500円、差し上げました」

田中「…❗️それはいい事したね(笑)」

有志「はい、お待ちしていて車の中から、店が閉まっている参道を、2人が歩いて戻ってくるのを見ていました。

それから、女性だけを三軒茶屋で降して、男性を川崎までお送りしました」

田中「なるほど、かなり長時間になったね」

有志「女性を降した後、その男性と話をしました。顔は、少し左とん平さんに似ています、64歳でお医者さん。

彼女とはどこで知り合ったかは言わなかったのですが、彼女は20代で泊まりはNG...。
田中さんどうしてだと思いますか?」

田中「その情報だけだと?だけど、勘で言わせてもらえば、その人には若い男性がいるのでしょう」

有志「やはりそう考えますよね、そうですよね…」

有志「彼女とは、函館や伊勢神宮も日帰りで行ってきたと言うんです。
本当は、彼は寝たいらしいのですが…」

田中「(内心、当たり前だろうと思いながら)
,,,❗️、そんな所まで。
ところで、その女性は水商売系なの?」

有志「いえ、そうは思わないです。
しかしとても人あしらいが上手いと、感じました」

田中「というと?」

有志「男性の話を聞いていないわけではないのです、
が…、何か上手く捌くみたいに感じました」

田中「なるほど」

有志「で、私は何か物悲しいような、
切なさをその男性に感じちゃったんですね」

田中「深い関係は諦めた、もしそうなってしまったら、お付き合いは、終わりということかな…」

有志「そうなんです、止めるにやめられないのが、悲しいです」

田中「んー、いろいろな人生があるねー。
.…ところで、貸切にすれば良かったんじゃない⤴
貸切のシステムよく知らないけどー(笑)」

有志「アッ❗️そうでしたね、失敗しました。思いつきませんでした(笑)」

普段の田中の生活

田中は有志とランチをしない時は、自分の夕食と翌日の朝昼食の買い物を済ませて帰宅する。

15時頃に遅い昼食を済ませ、入浴と一日おきの洗濯をして、文雄が帰宅する19時頃まで仮眠をとる。

文雄が帰宅したら、デイサービスの連絡帳を確認して、お茶などを飲ませ、話しなどして少しリラックスさせる。

同時に、田中はその日の営業記録を元に、地理の勉強を小1時間ほど。

そして文雄を寝かせ、21時近くに遅い夕食を作りながら晩酌をする。

そして、前述したように夜中にほぼ3回、季節を問わず文雄の小用で起こされる。

文雄は田中を起しはしない、しかし田中はやはり気になって、付き添うことになる。

たまに夢遊病者のように寝ぼけて、自分で洋服に着替えて玄関を出ていくことがある。

田中が寝ていて気がつかなかった時に、警察に保護されたことが、2回ほどあった。

早朝に警察からの電話で起され、交番に行って引き取ってきたのである。

朝は、文雄の決まった朝食、目玉焼き、ハム&胡瓜のトーストサンド、ヨーグルト、バナナ、ブラックコーヒーをつくる。

10時頃に迎えに来るデイサービスの車に、 文雄を乗せて見送る。

それから、Yシャツにアイロンをかけて、出勤の準備をし、早めの昼食を摂ってから、会社に向かう。

田中にはこんな生活の中で、唯一の楽しみがあった…


次回予告:親友の墓参りに関西へ










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