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りぼーん 第22話
60歳を半年後に迎える田中が、その先を考えて選んだ仕事を縦糸に、
田中の父との日々や、コロナ禍で生きる市井の人々を横糸にした話。
前回まで
・有志とのランチ④
目次
・コロナ禍の人々⑧
・コロナ禍の人々⑧
・4月中旬の午後9時頃、田中は銀座で男性2名をお乗せした。その雰囲気は、会食後に自宅にお送りするといった、感じであった。
中沢「今日はお疲れさまでした、参加された皆様が良かったと言っておりました」
池山「いえ、こちらこそありがとうございました」
中沢「ところで、引退した後は海外の選手はどうしているのですか?」
池山「アメリカはショービジネスが発達しているので、スポンサーがついて施設や興行をバックアップしています」
中沢「そうですか~、日本と違いますね。
日本もオリンピアンの、引退後のビジネスモデルを創る必要がありますね」
池山「そう思います、私もリスクを覚悟して…、借金してクラブを作りました」
中沢「やはりご自身で指導するということは…?」
池山「競技となると単なるクラブ活動と異なります、危険も伴います」、
「それでも選手を目指すかどうか、その判断が必要になります」、
「その判断に対して、こちらは出来る限りの
安全安心を考えねばなりません」、
「だから、自分でやらないとダメなのです」
中沢は池山を芝浦のマンションに送り届けた後、
中沢「運転手さん、勝鬨までお願いします。あの、新しい橋を渡ってください」
田中「畏まりました」、少し間をおいて、
「失礼ですが先ほどのお客様は、外村様ですか❓」
中沢「いや、池山さんです」
田中「そうでしたか、失礼しました」
中沢「いえいえ、外村さんのスポンサーを今度弊社がすることになりまして、そのご縁です」
田中「貴社のその記事は先日、日経新聞で拝見しました」
中沢「ありがとうございます、うちの様な
小さい会社なんですが」
やがて車は築地大橋を渡り、中沢のマンションの車寄せに到着した。
中沢「ありがとうございます、私、こんな者でして」
と言って、代表取締役の名刺を差し出した。
田中「ご乗車ありがとうございました」
田中は料金を支払う中沢の指が太いこと、とても応対に謙虚なこと、
彼のプロフィールは知らなかったが、人柄が出ているな、と感じながら後姿を見ていた。
・GW直前の平日、田中は午後9時過ぎに歌舞伎町から2名の男性をお乗せした。
京映「すみません社長、ご馳走様でした。
・・・私からで宜しいですか❓」、
「運転手さんすみません、豊玉南まで行って下さい、環七からで」
田中「畏まりました」
宮崎「さっきの話だけど、京映にはもうそうゆう
能力ないの。でもヤクザな事、館を増やすこと、
現場の仕切りとかはさ、出来るのさ」
京映「いや、本当にそうですね。
今回の件も、彼で収まるかどうか」
宮崎「収まるわけないだろ、彼にはできないよ。
こうゆう些細な事は無理です。
結局、我々が汗をかくことになるんだよね」
京映「優儀汪の時も同じでしたね、社内には
開発能力がなくて」
宮崎「そうだった…、仕方ないからモノが先で始まった。こんなに儲かるとはね」、
「そう言えば息子は野球してるの❓」
京映「はい、今は硬式クラブに入ってます。
高校はC和歌山と八戸Kが希望らしいです」
宮崎「・・・入るのは簡単だな、高校にも野球部にも。問題はそこからだ」、
「野球はうまくいっても高々知れているよ、
ゴルフはどうですか❓」、
「ゴルフは50年できます、或いは相撲は❓」、
「相撲は部屋を継いだらそれこそいいね」
京映「そうなんですよね、でも本人の意思を尊重したいので…」、
「ゴルフや相撲は考えていないと思います」
田中「そろそろ環七でございます」
京映「ありがとうございます、環七を右で二つ目の信号を…」
車はやがて住宅街の一角に停まり、若い男性を降ろした。
宮崎「…それじゃ、所沢までお願いします」
田中「畏まりました、ご指定のコースはございますか❓」
宮崎「下道で行ってくれ、その方が安い。青梅街道で」
その後、宮崎は問わず語りに家族の事や、最近亡くなった奥様の相続のこと、ダライ・ラマ氏に会ったこと、故千代の富士との交友関係や、最近購入した車の事など、話をした。
田中は、よくある酔客の広言と思っていたが、なるべく誠実に対応した。
宮崎「ところでタクシーの運転手はどれくらい給料をもらっているのかな❓」
田中「…そうですね、難しい質問ですね。ご存知の様に歩合給の為、個人差が大きいと思います」
宮崎「うちの会社にも貴方と同じくらいの年齢の人がいるけど、60万払ってるな。
何もしていないけど…」
田中「私はまだ2年目なので、そんなには頂いておりません」
宮崎「最近買った車、何だっけメルセデスの流行っているやつ…」
田中「ゲレンデヴァーゲンですか」
宮崎「そう、それを貴方に預けるから、運転手してくれるかな。会社の駐車場もあるし、ゴルフや遠出するときに運転してもらいたいんだけど」
田中「…そうですか、会社にいてそれをお引き受けするのであれば、会社に相談してみないとわかりません」
田中は酔いの気まぐれをわかっていた、
わざと話をすり替えて、後に感じるであろう不快な思いを避けた。
車はやがて所沢の八国山そばの住宅街に到着した。
「ありがとう、これでお茶でも飲んで」と言って、宮崎は千円札を3枚、田中に渡した。
田中「こんなに沢山、ありがとうございます、
遠慮なく。楽しいお話をありがとうございました」
宮崎「久しぶりに楽しかったよ、ありがとう」
田中「また、、いつかどこかでお乗せできればと
思います」
宮崎は、人気のない家の暗い玄関で、荷物を抱えながらカギを探していた。
やがて家の中に入り、門灯と室内の明かりが灯ったのをみて、田中は車を都内に向けた。
次回予告: 松ちゃん、有志とのランチ⑤