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りぼーん 有志特別編 水色のビートル
第10話は、コロナ禍の人々の予定でしたが
変更してお送りいたします(笑)
ゴメンなさい😊
有志「お待たせいたしました」
奈津子「小田です」
小枝子「お世話になります」
と言って、ゆっくりと後部座席に座り、慣れた手つきでシートベルトを締めた。
有志は、運転席に戻る時、奈津子と健一の会話を
漏れ聞いた。
健一「大丈夫?、ナビを入れてもらった方が・・・」
奈津子「わかってる」
「(有志に目くばせをしながら)運転手さん、すみませんがこれでお願いします」
有志「...、はい、畏まりました。ご指定の住所にお送り致します」
有志はナビに、住所を手早くインプットした。
ディビッド「お母さん、今日はお疲れさまでした。また、お邪魔します」
健一「おばあちゃん、またね」
伸次「おばあちゃん、来週友達と横浜に行くんだけど、泊めてくれる?」
小枝子「勿論いいわよ、LINEしてね。
皆、今日はありがとう、ご馳走様。楽しかったわ」
有志は高速渋谷の入口に向かって車を進めた、
暫くすると小枝子から
「運転手さん、今、何処を走っているの?」
と尋ねられた。
有志「高速に乗るために、六本木通りを渋谷に向かっています」
数分後、
小枝子「運転手さん、今、何処を走っているの? 景色が昔と変わったので、何処を走っているのか、わからなくて…」
有志「高速3号渋谷線です、間もなく三軒茶屋を通過して、東名高速に向かいます」
小枝子「そうですか、昔はよくこの辺を
車で走ったわ」
246号線の上に流れるネオンと、すれ違う車の光の川の流れの中で、有志は小枝子のことを考えた。
小枝子は、外の景色を食い入るように
見つめていた。
有志「運転が、お好きでいらっしゃったのですか?」
小枝子「はい、…楽しかったの、此処はどこ?」
有志は、小枝子が景色が変わったから分からないのではなく、呆けてしまって分からなくなってしまった、と思った…。
小枝子は運転している頃の感覚が残っていて、何となく見覚えがあり、よい思い出だけが残っている。
有志は、バックミラーに映る小枝子、食い入るように外の景色を見ている横顔を見て、切なくなった。
小枝子に幸せだった時の残像を、少しでも思い出して欲しい。
大切で楽しかった思い出は、けして人の心からは消えないものだと、想った。
そして自分も年齢を重ねた時に、楽しかったと思える風景を少しでも残していたい。
自分も小枝子の様に、よい歳の取り方をしたいと、感じた。
有志「お待たせしました、そろそろご自宅に到着いたします。シートベルトは未だ、そのままでお願いします」
小枝子「はい、運転手さん安全運転をありがとう」
有志「こちらで宜しいでしょうか?」
小枝子「はい結構です。運転手さん、これは気持ちです。お茶でも飲んで下さいね」
有志「…ありがとうございます。遠慮くなくいただきます・・・」
有志は何かを言いかけたが、止めた。
東京に戻るハンドルを握りながら、有志は切なさと清々しい気持ちと、
安堵感などが相混じった複雑な気持ちで、
眼鏡を外して涙を拭いた。
次回予告: コロナ禍の人々