膨らんだ夜

わたしが愛だなんだと騒ぐのは、愛するということに憧れているからに他ならない。

うまく愛せない、うまく大事にできない。あらゆる感情は嘘ではないのに、炸裂する衝動はどこまでも利己的で配慮が見当たらない。

わたしが溜め込んできた歪みはもうとっくに自分では手に負えなくなった。歪んだまま巻き込み続けて、触るためにはたくさん引き裂かないといけなくなった。


傷ついてきたこと、それに対しての悲しみ、それを受けての怒り、燻らせて恨み。誰かに祈ってもらっているから、わたしはまだ正気でいられる時間が残っているだけだと強くつよく、思う。

「幸せになってね」
「笑っていてね」

そんな祈りを貰い続けて、その祈りを本物だと信じ続けて、わたしは立っている。生かされている。

愛している人に愛されている。愛してくれる人を愛している。愛はつよい祈りなんだね。

「ずっと一緒にいようね」
約束のような、願い事。嘘になんかならない言葉。


夜が膨らんでいる。やわやわと、ふかふかと。
張り詰めていない夜はなんて久しぶりなんだろう。
疲れ切っていないから気絶するように眠らないし、擦り切れていないから眠るまで泣いたりもしない。
ただ、膨らんだ夜の質感を確かめる。
わたしは今、安心しているんだな。


箱の蓋をあける日は近い。溜め込んだものをゆっくりと出していく。焼いた死体の骨を拾う速度で。いつか身軽になれるときまで。
無理に信じず、無理に疑わない。それだけのことがなんとも難しい。

わたしが定める誠を得るための人生だな。もしほんとうにそう在れるなら、生きててよかったと思える夜はそこにこそあるだろうね。

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