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ケンカ無敗のピアニストが繊細に紡いだ絢爛な銀世界ジャズワルツ 『Glad I Met Pat(1974)』 / DUKE JORDAN

デューク・ジョーダン(DUKE JORDAN)の「DUKE」は、デューク・エリントン(DUKE ELLINGTON)の「DUKE」と同じ「公爵」という意味で、本名はアーヴィン・シドニー・ジョーダンである。

デューク・エリントンの「DUKE」が、気品溢れるエリントンの立ち振る舞いに起因する呼称であったのに対して、デューク・ジョーダンの「DUKE」は、彼の「喧嘩の強さ」が由来である。
若い頃はプロボクサーになるかピアニストになるか迷っていたほどの腕っぷしの強さとは裏腹に、穏やかで温和な性格だったという漫画の主人公みたいなキャラ立ちのデューク・ジョーダン。

1922年にニューヨークに生まれた彼は、8歳から音楽教育を受け、高校卒業後にジャズピアニストとしてのキャリアをスタートさせる。1940年代後半〜50年代にかけてはチャーリー・パーカーやスタン・ゲッツのクインテッドに参加するほどの有能なサイドマンだった。
しかし、良くも悪くもクセが少なく奥ゆかしすぎて目立ちづらい演奏や本人のキャラクターも相まってか、自身が発表したリーダー作はいずれもセールス的に振るわず、リアルタイムではお世辞にも人気とは言えないピアニストで、1960年代にはタクシードライバーをして食いつなぐほどだった。

1970年代になり、モードジャズやフュージョンの台頭でゴチャついた本国アメリカのジャズシーンへの反発としてアメリカ以外の国々(特にヨーロッパ)で盛り上がりを見せた、ジャズの原点回帰的な機運「ハードバップリヴァイバル」の流れに乗って、デューク・ジョーダンはデンマークのレーベルSteepleChaseと契約し、リーダーアルバムをリリースし始める。
そして、1974年にピアノトリオ屈指の傑作として知られる『flight to Denmark』を発表する。

その中から特に個人的におすすめのナンバーをどうぞ。

Glad I Met Pat (Take 3)/ DUKE JORDAN


アルバムジャケットのイメージそのままに、北欧の雪景色を優雅に舞い踊るような絢爛なジャズワルツ。デューク・ジョーダン作曲。
個人的に冬に聴きたくなるジャズナンバーのベストオブベストである。


その他のオリジナル曲、スタンダードナンバーも派手さはないが、珠玉の佳作揃いである。

FLIGHT TO DENMARK (1974)/DUKE JORDAN


「イントロの名手」としても知られたデューク・ジョーダンのマイナー調の抒情的なメロディセンスは、ケニー・ドリューら他のヨーロッパ移住組のジャズピアニストと同様に、本国アメリカよりもヨーロッパや日本で受け入れられ人気を博した。
もともとデューク・ジョーダンのピアノ自体が、オフビートのいかにもジャズマナー然としたスウィング感よりも、オンビートのクラシカルマナーが特徴的だったので、本人の音楽性とキャラクターもヨーロッパの水に合っていた。1978年にはコペンハーゲンに移住し、ヨーロッパに腰を据え、その後も多くのリーダー作を発表しジャズシーンに見事返り咲いた。そして2006年に同市でその生涯を終えた。

デューク・ジョーダンはジャズ史において、「巨人」「巨匠」と評されるほどのピアニストではないが、ある時はイケイケの頃のチャーリー・パーカーの傍らで、またある時はスタン・ゲッツの『Stan Getz Plays(1955)』といった名盤の片隅で、静かに、そしてひたむきに鍵盤を叩いていた、音楽ファンなら忘れてはならないジャズマンの一人である。


さ、雪も降ってきたし、『Glad I Met Pat』を聴きながら、踊ろう!

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