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USHCに対するカナダからの返答。変態マスコア/ポストハードコアの大傑作『WRONG(1989)』nomeansno

カナダという国は、けっこうな頻度で定期的にとんでもない音楽スターを輩出し続けている。
近年だとドレイクとジャスティン・ビーバー。少し前にはセリーヌ・ディオンにアヴリル・ラヴィーンにSum 41。もう少し遡ればニール・ヤングもカナダ出身である。錚々たるラインナップ。

この面々を見て「え?みんなアメリカ人じゃなかったの?」と驚く人も結構いる気がする。

ニール・ヤングに関してはカナダ人だと初めて知った時は私もビックリして、『渚にて(1974)』をカリフォルニアのビーチを想像しながら聴いていた俺の時間は何だったんだろう、と自分の知ったかぶりと無知を嘆いたりした。さらに言えばニール・ヤングはトロント出身なのでなんなら東海岸寄りである。

もう少しシブいところで言えばアーケイド・ファイア、ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー、ティム・ヘッカー、ジャズ畑ではオスカー・ピーターソン、ギル・エヴァンス(ビルじゃない方)なんかもカナダ出身である。オスカー・ピーターソンなんてめっちゃアメリカ人感あるのに。
ちなみにボーズ・オブ・カナダはスコットランド出身。ややこしい。

カナダもアメリカもどっちもコーカサス系の英語圏だし、MLBにもNBAにもカナダが本拠地のチームがあったりするし、そもそも隣同士だし、地理的に遠い日本人なんかは特にこの二国をザックリと一緒くたにまとめがちだが、それは欧米人が日本と中国と韓国をひとまとめにして語るのと同じように、当の本人たちからしたら「いやいや、ぜんぜん違うから!」ってな感じである。

カナダとアメリカというのは、タイマンの武力衝突みたいな深刻なレベルではないにしろ、今も昔も互いの文化や政治や国民性を互いに腐し合う程度のレベルで安定して仲が悪い。
カナダは単純にカトリックの割合が若干多いし、そもそもイギリス連邦国家だし、カナダの人はアメリカとのパートナー意識よりもむしろヨーロッパへの帰属意識のほうが強い印象である。
「隣国同士は基本的に仲が悪い」というのは例外無く全世界共通で、「だってそもそも仲良かったら国境線なんて引かれてないから」という話なのである。


さて本題。
ノーミーンズノー(nomeansno)は1979年、カナダのブリティッシュコロンビア州ビクトリアにてジョン・ライト、ロブ・ライトの兄弟二人によって結成された。同郷のハードコアレジェンドであるD.O.A.のライブに触発され、ドラム&ベース&ツインボーカルスタイルのツーピースバンドとして活動をスタートした。
1983年にギタリストのアンディ・カーを加えスリーピース体制となり、ジェロ・ビアフラ主宰のレーベルAlternative Tentaclesと契約。
1989年に発表された彼らの4枚目のアルバムとなる『WRONG』は、同時代には他に類を見ないほどのスピーディで複雑でテクニカルなハードコアパンクアルバムとして各方面から絶賛された。

It's Catching Up


Brainless Wonder


Tired Of Waiting


The End Of All Things


Big Dick



音圧マックスでストップ&ゴーを繰り返すもはや変態的とも言える緩急自在でキレッキレの演奏。というか、ドラムもベースもギターも単純にメチャクチャ技術が高い。上手い。
そして息の合ったツインボーカルの突き抜けっぷりと疾走感。気持ちいい。
彼らが影響を口にする80年代のUSハードコア勢やポストパンク勢とは一味も二味も違う全く新しいハードコアが鳴っているし、何なら90年代後半から盛り上がりを見せはじめるカオティックハードコアやマスロックを先取りするような音楽性である。

彼らの特異な音楽性の形成には、ジョン・ライトの学生時代のジャズバンドでの経験値と、元々ツーピースでギタリストが不在だったというバンドヒストリーが大きく関わっている。ジョン曰く、

「自分たちは元々ギタリストがいなかったという性質上、パンクロックやロックンロールが一般的に依存している標準的なギターフックに頼ることができなかった。その分、ベースとドラムはより多くの事をしなければならなかった。」

とのこと。この試行錯誤こそが、ドラムとベースのリズム隊で、まるでメロディを奏でているような、聴く者を飽きさせない圧倒的なグルーヴ感を生んだのだろう。

奇しくも全く同時期に、遠く離れたシカゴにてスティーヴ・アルビニやジョン・マッケンタイアらが「ポストハードコア」として、ノーミーンズノーと似たような音楽(よりインテリジェントなアプローチではあったが)を模索していたのは偶然か必然か、歴史の面白さである。

2016年に惜しまれつつも解散したノーミーンズノーだが、『WRONG』の傑出した完成度と先見的なオリジナリティは、今も色褪せずにハードコアキッズ達を虜にする魅力に溢れている。

カナダはやっぱり凄い。今までも、そしてこれからも。
そして、「コイツらやべぇぞ」ってノーミーンズノーのヤバさをいち早く見抜いて一本釣りして『WRONG』を世にドロップしたジェロ・ビアフラも、デッケネも、要するにアメリカももちろん凄い。


だからケンドリックとドレイク、そろそろ喧嘩はもうやめて。

面白いからもう少し見てたい気持ちもあるけれど、銃撃戦にならない程度にね。

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