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もしこの世に「桃源郷」があるのなら、そこに持っていくドライブミュージックはTHE FLAMING LIPS。

ザ・フレーミング・リップス(THE  FLAMING LIPS)というバンドは非常にキャリアが長い。
結成が1983年というのは、ソニック・ユースの2年後輩、尾崎豊と同期、ニルヴァーナの4年先輩にあたる。日本がまだバブル景気に突入する前である。

アメリカ合衆国オクラホマ州にて、ギター(程なくしてボーカルも)担当のウェイン・コインを中心にガレージロックバンドとしてキャリアをスタートしたフレーミング・リップスは、1980年代および90年代を通じ、インディーファン達のコアな知名度に支えられてギリギリ活動していた「今ひとつ突き抜け切れないバットホール・サーファーズ亜種」のようなバンドだった。
フレーミング・リップスに対して、現在のカラフルでファニーなビジュアルイメージで勝手に「ピースフルなバンド」と思い込んでいるリスナーが多いが、実際フロントマンのウェイン・コインはボブ・ディランやベックを口汚く罵るタイプの尖り系のオッサンで、人当たりのよさそうな欧米版ムロツヨシだと思って近づいたら中身はノエル・ギャラガーだった、みたいな人である。
フレーミング・リップスが音楽性をバブルガムサウンドにシフトチェンジした後もカッコ良さを失わなかったのは、ウェインの根底にオルタナティブマインドが変わらず息づいていたからである。

4つのCDプレーヤーで同時再生してやっと全容が把握できるCD4枚組の8thアルバム『Zaireeka(1997)』に象徴されるように、彼らのアート志向と実験性は「CDプレーヤー4つも持ってる人なんて居ねーよ」というリスナーからのツッコミが届かないくらい暴走しがちだったが、そんなフレーミング・リップスのクリエイティビティがようやく絶妙なバランスでポピュラーな領域に落とし込まれたのが、1999年に発表された9枚目のアルバム『The Soft Bulletin』である。

Race for  the Prize (1999)/ THE  FLAMING LIPS


A Spoonful Weighs a Ton (1999)/ THE  FLAMING LIPS


Buggin' (1999)/ THE  FLAMING LIPS


オーケストレーションと電子楽器の音色をふんだんに散りばめたスタジオワークによって極彩色のファンタジックサウンドを実現した本作は「90年代版ペットサウンズ」と評され、シンフォニック/チェンバーポップの歴史的傑作として世界中の音楽メディアから高い評価を得ると同時に、フレーミング・リップスというバンドの音楽性とアイデンティティを決定づけた代表作として知られる。

日本の音楽ファンにはナンバーガールの後期2作『SAPPUKEI(2000)』『NUM-HEAVYMETALLIC(2002)』でお馴染み、デイヴ・フリッドマンによるエンジニアワークも際立つ。デイヴのミックスダウンの特徴である荒々しい爆発音のようなキックとスネアが、浮遊感のあるサウンドを地上に繋ぎ止めて楽曲全体を引き締める役割を果たしている。陶酔でヨダレを垂らす心地良さではなく、高揚で走り出したくなる心地よさがある。色鮮やかな花々の絨毯を望み、窓全開で花々の香りを感じ、名前も知らないカラフルな鳥たちのさえずりとともに聴きたいドライブミュージックである。

続く10thアルバム『Yoshimi Battles the Pink Robots(2002)』では更にユーフォニックなバブルガムポップ路線を追求し、商業的にも累計50万枚を超える大ヒットを記録。同アルバムの収録曲がグラミー賞を受賞し、アルバムはゴールドディスクに認定された。
ちなみに「Yoshimi」というのは元ボアダムスのヨシミ(OOIOO)のことで、アルバムタイトル曲の冒頭で聴こえる女性の声の主がヨシミである。日本盤のボーナストラックには日本語バージョンが収録されており、岡山生まれのヨシミの入れ知恵で「can beat」の部分が「しばき倒す」に訳されていて、それを素直にカタコトで歌っているウェインが何とも微笑ましい。

Fight Test (2002)/ THE  FLAMING LIPS


Yoshimi Battles the Pink Robots Pt.1 (2002)/ THE  FLAMING LIPS


It's Summertime (2002)/ THE  FLAMING LIPS


Do You Realize?? (2002)/ THE  FLAMING LIPS


Yoshimi Battles the Pink Robots (Japanese Version)(2002)/ THE  FLAMING LIPS


フレーミング・リップスはスタジオアルバムだけでなく、彼らの音楽性と見事にシンクロした幻想的でエンターテイメント性溢れるライブパフォーマンスも非常に評価が高い。
スペクトラムなプロジェクションマッピングが飛び交い、色鮮やかな紙吹雪と無数の巨大バルーンが客席を舞い、着ぐるみ姿のオーケストラ達が踊りながら演奏し、仮装した大量のダンサー達がステージサイドで横ノリし、バブルボールに入ったウェインが客席にダイブする。おもちゃ箱をひっくり返したようなピースフルで遊び心満載のステージショーが繰り広げられる。

音楽鑑賞は自室のヘッドフォンだけで充分満足、という出不精な私にすら、「死ぬまでに一度はライブに行ってみたい」と思わせてくれる唯一のバンドがザ・フレーミング・リップスである。


最後に、シドニーオペラハウスで行われたフレーミング・リップスのライブ映像をどうぞ。

ライブっていうよりもはや参加型アトラションである。頭上に降ってきたデッカいバルーンを弾き返して、紙吹雪まみれで歌って踊って酒飲んで。こりゃ楽しそうだ。

The Flaming Lips   Live at Sydney Opera House(2019)

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