爽やかでドープな世にも美しい「ダブポップ」アルバム『Family(2003)』 / Polaris
Polaris(ポラリス)は、2000年に結成されたバンドである。
真心ブラザーズとかキリンジとかキセルとか、二人組なのに「デュオ」ではなく「バンド」呼びされるオルタナポップ勢の系譜(勝手に私が考えた系譜)に位置している。
メンバーは、ボーカル/ギターのオオヤユウスケと、ベースの柏原譲。
オオヤユウスケはポラリス結成前、LaB LIFe(ラブライフ)というポリシックスとオザケンのハイブリッドみたいな音楽性のテクノポップユニットのボーカル/ギターとして活動していた。
柏原譲は、元フィッシュマンズのあの柏原である。フィッシュマンズ当時、ドラムの茂木欣一とともに「日本一のリズム隊」と言われていた泣く子も黙るベーシストである。例の『男達の別れ』でお別れしたかと思いきや、その2年後にオオヤとポラリスを結成した。
基本的にはこの二人のバンドなのだが、初期〜中期の活動ではドラムとして坂田学が参加しており、今回紹介するアルバム『Family(2003)』でも坂田がドラムを叩いている。坂田学はあの坂田明の息子にして、あいみょんからジム・オルークまでを共演歴に持つドラマーである。
今回紹介するアルバム『Family』はポラリスの2ndアルバムとして発表された。
レコーディングエンジニアにZAK、ゲストに原田郁子とハカセ、という布陣で挑んだこのアルバム、とにかく完成度がもの凄く高い。
まず光るのはオオヤのソングライティングセンスである。
この人のつくるメロディは素直で美しい。変なところで捻くれないし裏切らない。
歌詞も純粋さと不純さのバランスが絶妙である。「子供向けの絵本作家が酒浸りで仕事してる」みたいなアーティーな両面性が垣間見える。やっぱそういう意味で辻村豪文の系譜として語るべきだと思う。
そして、柏原とZAKがフィッシュマンズ時代から引き継いだ職人技のダブワイズなベースとアレンジ。1stアルバム『Home(2002)』に比べて重厚なダブ感は少し控えめになった分、逆にオオヤのポップなメロディラインが際立っている。
ただし、一筋縄ではいかない経歴とパーソナリティが滲み出てしまう柏原、ZAK両名のミニマルで執拗なアレンジも健在であり、「爽やかでありながらもルードな浮遊感」を感じさせる独自の音楽として仕上がっている。
強いて挙げれば音楽性はキセルに近いけど、キセルほどのノスタルジックな不穏さ(そこがキセルのカッコ良さ)は無くて、むしろ青春ポップスぐらいポジティヴな爽快感を感じる。切ないメロディなのにノスタルジーに完全に侵食されないのはオオヤユウスケの生まれ持ったセンスだと思う。
フィッシュマンズの取っ付きづらさ(良い意味での)から脱却したメロウでポップなダブミュージックの完成系であり、下北ギターポップや渋谷系ギターロックをソフトダブリミックスしたような他に類を見ない不思議なアルバムである。
星と願うなら
深呼吸
檸檬
このポラリスというバンドについては、関わったメンツを見て「フィッシュマンズ亜種」としてほとんど聴かずに処理した、もしくはちょっと聴いてスルーした人もおそらく多かったと推測するが、それはもったいないくらい素晴らしいバンドである。
窓を全開にして夜のドライブをしながら『流星』を大音量で聴いてほしい。
シラフの人も星空へ飛んでいけるはずだ。