昨今のサウナブームに「別に必要はない」フィンランドジャズの珍盤 『Sauna Jazz(1974)』 / Martti Pohjalainen Trio
全裸(たぶん)に片手桶とヴィヒタ、というサウナTPOに従順な正装で眼光鋭くカメラに目を向けるヒゲのオッサン、という冗談か本気かわからないアートワークがインパクト抜群の本作。
マルティ・ポーヤライネン(Martti Pohjalainen)は、ヘルシンキの広告代理店で働きながら300曲以上のCM用ジングルを制作したことで知られる副業音楽家である。ピアノ及びヴィブラフォン奏者としてジャズバンドで活動していた経歴も持つ。おそらくジャケット写真のヒゲのオッサンがマルティ本人だと思うが、それすら確認できないほどネットにも情報が少ない。
「サウナ発祥の地」として知られるフィンランドだが、熱心なジャズファンの間ではポリジャズフェスティバルが有名だろう。同国南西部のポリ市にて、1966年から現在まで毎年行われているヨーロッパ最古のジャズフェスティバルで、第一回開催はモントルーより一年早い。
そんなわけで、デンマーク一辺倒の印象が強い「北欧ジャズ」だが、実はその興隆にフィンランドもしっかり一枚噛んでいる。
とは言いつつ、上品なイメージのある北欧ジャズに分類できるかどうかは微妙な珍作が、今回紹介する『Sauna Jazz(1974)』である。
Sauna Jazz(1974) / Martti Pohjalainen Trio
タイトルに堂々と「サウナ」と冠した作品なので、てっきりネタ系のモンドアルバムかと思いきや、「熱気感」とか「ととのう感」みたいな「サウナ感」は別に無く、ふざけたアートワークに反してムダに端正な演奏だったりするのがまたツッコミどころである。
たぶん日本で置き換えれば「歌舞伎ジャズ」とか「天ぷらジャズ」みたいなノリで、単に「フィンランド産」ってだけで付けられたアルバムタイトルなんだろうと思う。
ポーヤライネンは、フィンランド国内においてはいくつかのヒットソングで知られているようで、このアルバムのコンセプト自体も「フィンランド民謡とジャズの融合」ということらしい。確かにアルバムの後半、コメディタッチの独特なメロディやコードやリズムが聴こえてくる箇所があって、ご当地民謡をマリアージュしたようなオリジナリティが感じられて面白い。
しかし反面、思わず唸ってしまうような正統派のカッコいいフレーズもたくさん散りばめられているのが、余計にこのアルバムのポジショニングを迷わせるポイントである。
音が一つ一つ綺麗で丁寧なので、サンプリングネタを探しているレコードディガーなんかに結構人気の盤だったりする。Discogsでの相場は100ドルぐらい。
Spotifyで聴くことができる(良い時代ですね)が、2025年現在CD化はされていないので、自分の手元に欲しい場合はMP3データ、もしくはレコード盤を購入するしか無い。
その存在を知らずに人生を終えても別に困らないアルバムだし、別にサウナ中に聴きたくなりそうな作品だとも思えないのだが、私のような温泉もジャズも好きなモノ好きは所有しておいて損は無いだろう。
得も無いが。
損得だけでは動かないあなたに是非。