MEV(最大抽出可能価値)について考察する
暗号資産、とりわけDEXをはじめとする取引所ではMEVについて議論がなされてきました。MEVというのは最大抽出可能価値というもので、イーサリアムの待機中の取引プールを分析して、収益性の高い取引を見つけることで獲得できる利益の一つとされています。
もともとMEVは攻撃の一つとして考えられていました。というのも、DEXにおいて待機中プールを分析して、ターゲットよりも高いガス代の取引を入れることで、ターゲットがより高い値段で対象のコインを買うということができるからです。これについてもう少し解説していきます。この一連の行為は、ターゲットよりも前に取引を挟むことから、フロントランニングと言います。
フロントランニングとは?
具体的にフロントランニングを解説するにはブロックチェーンのトランザクション実行について前提を知っておく必要があります。まずもってビットコインなどのブロックチェーンでは、マイナーがガス代が高い取引から順にブロックに入れていきます。これはマイナーがガス代による利益を最大化するために導入された仕組みであり、基本的には利益を追求する以上、高いガス代の取引を優先することになります。たとえそれが時刻順に入ってきた取引ではなくてもです。
そのうえで、上記取引は操作できるものではありません。ガス代順というのは基本則として考えられてきました。しかし、イーサリアムはガス代順に取引をブロックに入れるというルールがありません。
この事実こそがフロントランナーが生まれるきっかけを作りました。イーサリアムでは、ガス代を調整することで、意図的に自分の取引を他人の取引の前に差し込むことができる仕組みを取っていました。
自分の取引を他人の取引よりも優先したい場合、ガス代を高く設定してやればいいだけの話になります。では、これのどこが問題なのでしょうか。
例えば、誰かが1ETHを100USDTで売却したとして、100USDTで1ETHを購入するという取引が想定されるとします。最もお得に1ETHを手に入れるには100USDTで買うことです。
ここで、攻撃者となるフロントランナーがターゲット(100USDTで1ETHを買おうとしている人)を見つけます。次に、ターゲットのガス代よりも少し高いガス代で、100USDTによって1ETHを買う注文を入れます。
攻撃者はガス代順優先により、100USDTで1ETHを入手できます。ここで、1ETHを100USDTで買った場合、プール内の価格変動が生じ、1ETHは100USDTよりも高い金額でしか買えなくなります。つまり、1ETH = 101USDTのような状況になります。
すると、ターゲットは、もともと100USDTで買えたものを101USDTで買うことになります。そして、攻撃者は最初に設定したガス代とETHの価格変動の価格差を「儲け」として計上することができます。これが、基本的なMEV、ないしはフロントランニングの例です。
ここでは、攻撃者は一般ユーザーでもなくマイナーでもない書き方をしましたが、MEVの議論が白熱した末に「マイナーも意図的に取引順序を選べる仕組み」が登場しました。それがFlashbotsというものです。そのため、FlashbotsはMEVの民主化ともいわれています。
フラッシュボット出現後の世界
今では、フラッシュボットは多くの場面で利用されていることがわかっています。このツールが出現して何が変わったのか、と言われれば一つにはガス代の低下が挙げられます。その原因については、ガス代競争が激しくなり、それらで生じた勝者と敗者が取引を放棄したことなどが考えられているようです。
実際のところ、フラッシュボットは導入されたとしてももともとフロントランニングが横行していたところに、まったく同じやり口で切り込まれただけなので、一般ユーザーに損害を与えるようなことはありません。
むしろ、ガス代により取引を挟むことができるため、ネイティブトークンが入っていないウォレットでもトランザクションを行うことができたりします。これは、以前までハックされたウォレットにはネイティブトークンであるETHをいちいち入れないと、他のアセットも抜き出せないという問題を解消することができ、メリットといえます。
イーサリアム「Merge」アップデート以後、フラッシュボットはMEVの先駆者のように考えられ、分散型MEV市場をけん引する存在としてさらなる発展を見込まれています。