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CTスキャンはどれほど安全なのか?【放射線被ばく問題】

放射線、そう聞くと「危険なもの」ととらえる人は多くいるでしょう。実際、その認識通り放射線を浴びると健康に害をもたらすことが分かっています。その最も有名な影響の一つとして知られているのが「発がん確率の上昇」です。

いわゆる、電離放射線に被ばくした場合、その被ばく度合いによって人体にはいくつかの影響が出るといわれています。ここでは、その影響について一つに「発がん確率」とします。

発がん確率がどのくらいの被ばくで上がるのか、それは人種によっても異なる上に性別、年齢によっても異なります。また、リスク評価で「絶対リスク」と「相対リスク」というのがあります。そして、割と重要なのが被ばく度合いを数値化した「シーベルト」という単位です。ぶっちゃけ、放射線と人体の関係だけを知りたい場合、シーベルトだけ知っていれば問題ありません。大体の研究では、シーベルトのほかに「グレイ」という単位も出てきますが、最終的に求めるべき被ばく量はシーベルト換算のものです。

ちなみに、広島原爆の爆心地「500メートル圏内」の放射線量はおよそ「35シーベルト」といわれています。これはどれほどのヤバさなのでしょうか。結構比較するのは難しいですが、一般的に言われている「致死暴露量」がおよそ1.5シーベルトです。そう考えると、致死量の10倍以上であるためヤバいことが分かります。

実際、広島原爆において爆心地から500メートル圏内で生き残った人は10%程度というデータがあります。しかし、リトルボーイの爆心地からの線量を見てみると、3キロメートル離れたところでは、数シーベルトのレベルまで落ちており、生存率も50%ほどでした。

上記の問題は、発がんとかのレベルを通り越して生きているか否かの問題になります。とはいえ、原爆の死因は知られているように「熱線と爆風」がほとんどであり、放射線の影響というのはわずか数パーセント程度です。

さて、ここで多くの研究で使われている「広島原爆集団被ばくデータ」を考えます。これによると、発がんする確率は「1シーベルト当たり5%」との結果が出ているようです。

大体のCTスキャンの被ばく線量は「5-30mSv」といわれています。つまり、大雑把に計算すれば、1回のCTスキャンにおいて発がんする確率は「0.05から0.2%」くらいだということが言えます。さて、この確率は本当にあっているのでしょうか。しかし、ほとんどの文献において、この確率が広く使われており、今のところ100mSv以下の発がん確率を明確に示した根拠はないという状況です。

なぜないのかといえば、その統計的研究スケールの取りにくさにあります。基本的に、こういったデータを集めるとき、わかりやすい外れ値ほど測定しやすいものです。放射線被ばく量が少なくなればなるほど、それが「本当に放射線のせいでがんになったのか」が分かりにくくなるのです。それは当然ともいえます。がんの発症理由の30%が喫煙であり、もしCTスキャン1回で0.1%上昇したとすると、潜在的な発生確率は30.1%になります。しかし、ここの0.1%はそれ以外の30%に比べると無視できるようにも思えます。

しかし考えてみてください。これは生涯にわたる「発がん確率」です。その中で0.1%の上昇がたった30分程度のCTで浮かび上がるのは控えめに言っても深刻にも思えます。ちなみに、こういった被ばくの影響は年齢と性別の差異もあります。例としてCT曝露の場合女性は男性よりおよそ2倍癌になりやすく、20歳以下の子供はそれ以上の成人に比べて2倍以上癌になりやすいともいわれています。

さて、ではここでタバコ1本あたりの死亡確率はいくらくらいか紹介します。それは0.00005%で非常に小さいものです。ちなみに、10ミリシーベルトの被ばくは、タバコ1000本に相当します。そして、大体の場合癌になる確率の半分の確率が死亡率になります。つまり、「0.01mSv=タバコ1本」というわけです。しかし、これを緻密に計算すると上記に言っていた「1シーベルト=5%」の発がんリスクに見合わない数字が出てきます。

タバコ100本で0.005%の死亡率、そしてタバコ10万本で5%の死亡率です。1シーベルトあたり5%の発がん率を考慮すると、500ミリシーベルトあたり5%の死亡率になり、タバコ10万本は500ミリシーベルトと等価と考えられます。すると、10ミリシーベルトはタバコ2000本である計算です。もし0.01ミリシーベルトが1本の計算なら10ミリシーベルトは1000本なので、2倍も異なります。

いろいろと計算してはいますが、これは実際こうなるというわけではないのをご了承ください。というのも、日本で行われている被ばく線量とがん発症に関する研究によれば、今のところ(2020年までの時点での見解)は100ミリシーベルト以下、例えば20ミリシーベルトほどの被ばくでがんになるかどうか、発がん確率が相対的に上昇するかどうかは、相関がないとのデータがあります。

しかし、同時に英国や米国、オーストラリアなどで行われた研究では低線量被ばく(5ミリから30ミリ程度のまさしくCT被ばくに該当するスケール)において将来的な発がん性の上昇がみられたとされるものもあります。

ただ、これは難しいところがあり逆因果といわれる「がんになるような奴がCTをうけているからCT受診者の将来リスクが高くなっただけ」じゃないか説もあり(しかし、オーストラリアの研究などではその重みも考慮したとは書いてある)、一概に癌リスクがどの程度低線量で寄与するかはいまだ不明というところがあります。

そこで、ほかの研究として「がんと放射線」の関係を細胞レベルで調べたものもあります。面白いことに、通常放射線を浴びると「DNA損傷」が起きて、それが普通の場合「修復」されるわけですが、1ミリシーベルトと5ミリシーベルトでは、その修復レベルが1ミリシーベルトのほうが低かったとのデータがあります。これは、おそらく「少し過ぎる損傷は特に直されず放置される」可能性があることを示唆しています。しかし、どの線量でも修復される細胞の割合は変わらず、やはり1ミリシーベルト(マンモグラフィーレベル)から10ミリシーベルト(胸部CTレベル)にかけて線形比例してDNA損傷個所が増えるとの報告でもありました。

また、これは多くの場合低線量被ばくが線形的に発がん確率に寄与しているという理論に反論するものですが、スレッショルドモデルとホルミシスモデルが挙げられます。これらは、発がんするのは100ミリシーベルト以上ないしは、とある線量以上だというものと、ある程度の低線量の下であればむしろ発がんリスクは低下するというものです。

ホルミシスという言葉とその意味の面白さから日本ではやたらとホルミシス効果とか言ってラドン温泉につかりに行こうなんて言う人もいますが、実際のところラドン温泉に浸かったところでほとんどホルミシス効果は見込めないのと、ホルミシス効果自体本当なのかどうかもよくわかっていません。最も現在では「被ばくすればするほど癌リスクはあがる」というのが支持されており、「多少の被ばくであれば癌リスクはむしろ下がる」といった免疫活性理論はあくまでも補助的な仮説であり、「被ばくすればするほど癌リスクが上がる」という主張が絶対ではないから浮かび上がっているだけにすぎません。

発がん問題と低線量被ばくの研究の歴史は長くそれはそれはいろいろな議論が巻き起こっています。いわば現代の放射線測定は「対価のために我慢する」ような状態になっていると指摘するものもいて、一方で少しの放射線も気にしたくないという海外セレブが「MRI全身スキャン」などに手を付けたりと、徐々に低線量被ばくであっても許容できないという風潮が間違いなく強まっていると感じています。実際、低線量被ばくで問題がないかどうかは不明瞭なだけでゼロではないというのが現状の見解であり、その警戒をうのみにするのであれば、低線量でも許容できないというスタンスは間違っていないように思います。

CTスキャン被ばく線量とそのほか

腹部CT:8ミリシーベルト
頭部CT:2ミリシーベルト
腹部骨盤CT:8から15ミリシーベルト
胸部X線:0.1ミリシーベルト
東京-LA間飛行機移動:0.06ミリシーベルト
発がんリスク上昇0.5%:100ミリシーベルト

ただこういった放射線被ばく誘起がんの議論をすると「あの研究は発がんリスクが10msv当たり4%だった、これはICRP基準の数倍高い」とか何とか言ってくる人がいます。しかし、それらの研究をよく見てください。それらは大体先天性心疾患や心臓病患者を対象にしており、心疾患自体ががんリスクを20%ほどブーストするというデータもあります。つまり、逆因果が起きていることを挟むべきにも関わらず恐怖とバイアスに負けて声高に叫んでしまっている可能性があるのです。

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