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ヨーロッパにおける家族形態――鹿島茂のN'importe Quoi! 「前回のおさらい」

こんにちは!早くも暑さにやられがちのゲンロンスタッフ野口です。
こんな日は日中は図書館や喫茶店にこもって本を読み、日が沈んだら川沿いで涼みながらビール、という生活がしたい……

そんな僕の願望はさておき、ゲンロンではフランス文学者の鹿島茂さんによる講義放送「鹿島茂のN'importe Quoi!」を運営しています(放送プラットフォーム「シラス」でご覧いただけます)。
毎回の講義内容を振り返る「前回のおさらい」(本当の「前回」とは限りません!)。この記事では2022年5月24日に放送した「ヨーロッパにおける家族形態――家族人類学入門・トッド理論の汎用性⑤」の内容についてご紹介していきます。

1.第一理論と第二理論の違いは「時間軸」

本放送では、1983年に刊行されたエマニュエル・トッドの著書『第三惑星』で示した理論を「トッド第一理論」と呼んでいます。こちらのポイントは「家族類型をマッピングした際のイデオロギーとの一致」。例えば、共同体家族に分類されるロシアや中国では共産主義や一党独裁型の資本主義が採用されている、というようなものです。
これに対してはさまざまな反論があり、本書発表当時の分析は、アジアなどやや雑になってしまっている地域もあることは、トッド自身も認めるところです。

そこから発展して、再度著されたのが『家族システムの起源』。居住規則という基軸を導入して家族分類をやり直すのですが(これを「トッド第二理論」と呼んでいます)、第一理論と第二理論の違いは「時間軸」の発想だといえます。つまり、双処居住、母方居住、父方居住の3つの形式がどのような順番をたどって変化したのか、という視点です。
第一理論を打ち立てた当時のトッドは、師でもあるピーター・ラスレットの核家族理論への反論にとらわれるあまり、やはりラスレットの理論のなかでも言及されていなかった「時間」に関する視点や発想が出てこなかったのではないかと鹿島さんは分析します。

2.ヨーロッパを再分析

さて、この『家族システムの起源』においては、自らの理論を再点検していくトッド。過去の講義でも何度か出てきている「周縁部の保守性原則」に則って、ヨーロッパの周縁部にも着目し、アイルランドなど第一理論を打ち立てた時点では「よくわからない」ままにしていたエリアも再度分析を加えていきます。
講義のなかでは、アイルランドの貴族階級と庶民での相続規則の違いがなぜうまれたのか、文学作品と家族理論のつながり、あるいはヨーロッパの最辺境ともいえるバスク地方の独自性など様々なテーマトピックが飛び交いました。中にはベレー帽やバスクシャツに関するお話も!

話を本筋に戻しましょう。ヨーロッパの家族形態には居住規則という軸で考えても残る謎があります。それはイングランドとフランス・パリ盆地周辺で見られる「純粋核家族」の誕生。一時的同居すらないこの家族形態がどのようにうまれたのか、明快な答えはまだ得られていないのですが、1つの説として「土地所有」との関連があると考えられています。
平野部がひろがり、権力者による巨大な荘園ができやすかったこの地域では、庶民たちは「自らの土地を所有」するのではなく「農事労働者」として、小作人として働いていた。ゆえに相続する財産は「動産」しかない状態だった。これが家族形態に影響したのではないか、という説です。

ちなみにここで言う動産の例としてオーソドックスなものは家具。といっても家具そのものが相続されるのではなく、オークションを経て現金化し、その上で相続を行う、という形式が一般的だったようです。
鹿島さんがかつてフランスの田舎の村役場(オテル・ド・ビル……Hotel de Villeと呼ばれるそうです!)で見かけたのは、役場内に設けられたオークション会場。公的な施設で行われるほど、一般的なものだったんですね。

また、イングランドとフランスはともに純粋核家族ではありますが、相続規則の有無では違いがあります。第一理論の際にすでに分析されていた通り、イングランドは兄弟間で不平等な相続。フランスは兄弟間で平等な相続でした。
フランスの平等分割による相続の影響としてはローマ帝国、あるいはゲルマン民族(とくにフランク族)によるものと考えられるのですが、そのポイントについても、昨年刊行された佐藤彰一さんによる『フランク史Ⅰ』におけるフランク族の起源についての説なども交えて解説いただきました。

3.直系家族の誕生

ほかにもヨーロッパで見られる家族形態には「直系家族」と「共同体家族」があります。直系家族に分類されるのはドイツやスウェーデン、ノルウェーなどですが、その誕生について、トッドは11世紀~12世紀頃に行われた、いわゆる「北方十字軍」との関連を指摘します。
「北方十字軍」とは、カトリック教国を中心に実施された、現在のバルト三国やフィンランド、そしてロシアのあたりまで行われた十字軍遠征。トッドが注目するのは、中世ヨーロッパの三大騎士修道会の1つであるドイツ騎士団です。

元々の十字軍遠征であるエルサレム方面では他の騎士修道会であるテンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団に遅れを取り、あまり影響力を持てなかったドイツ騎士団は、この北方十字軍においてプロイセンやラトビア、リトアニアのあたりに進出するのですが、彼らは屯田兵のような形で征服した地域の開拓も行います。それらは自己所有の土地として……イングランドやパリ盆地に比べれば決して豊かではなかったかもしれませんが、相続される土地として扱われた。ここから、のちのプロイセン王国、そしてドイツにもつながっていく直系相続が生まれたのではないかと考えられるのです。さらにトッドはルターらによる宗教改革についても、この土地の自己所有と直系相続の成立が関連していたと見ているのだとか。詳細はぜひ放送をご覧ください。

こちらの不格好なヨーロッパ地図は野口作……放送と合わせてご覧ください!

そして最後に残る「共同体家族」なのですが、地理的に見ると、ロシアやハンガリー、旧ユーゴスラヴィア、さらにはイタリアのトスカーナ地方やフランスの中央山塊など飛び地で分布しています。さらに時間軸・歴史の流れで見てもなかなか関連性を見出すことができません。その誕生の経緯はヨーロッパだけを見ていてもよくわからないのです。

そこでトッドが取った手段はヨーロッパ以外の地域にあたってみること。他の場所や時間でおこった経緯を探っていく中で何か規則性や法則性が見られないかを検討し、それがヨーロッパに当てはめられるかを考えようとします。

4.次回の講義は共同体家族!

ということで、今回のおさらいはここまで。次回はこの共同体家族の謎にせまります!
見ていく地域はロシアと中国。放送は6月28日(火)19時からの予定です。

鹿島先生からはこんなコメントも。

現在の国際情勢を読み解く視点としても注目です!どうぞお楽しみに。

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