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OMEGA 第一世代のスピードマスター '57 コーアクシャル(金無垢モデル) 9301 (ref: 331.53.42.51.02.002):使用レビュー(3週間)


はじめに

このマガジン「オメガ魂」では、自分が購入したオメガ製品のレビューやオメガのニュースについて情報をシェアしていく。記念すべき一発目の記事は、最近購入したオメガ 第一世代スピードマスター57(キャリバー9301を搭載)のレッドゴールド(金無垢)の使用レポートだ。本機は既にメーカー廃盤のため、並行店で新品購入した(並行だが、オメガの正規5年保証付)。3週間ほど毎日、風呂以外の時間は常に身につけている、という状態でのレビューをお届けする。(2024年10月17日現在)

製品の基本情報

メーカーホームページの紹介

ムーブメント情報(9301)

本機のムーブメント9301のベースは9300で、ローターとテンプを支えるブリッジの素材を18金レッドゴールドにした高級バージョン。機械的要素は9300と同様である。9300は現行のマスタークロノメーター化された9900系のベースになったモデルで、表面上のスペックやシリコンヒゲゼンマイなどの仕様は同じである。9300/9301はマスタークロノメーター認定こそ取得していないものの、基本設計は同じであり耐磁性能や精度はマスタークロノメーターに準ずるものであると思われる。

相場情報

価格ドットコムによれば、新品相場は概ね200万円弱。中古はほとんど流通がないようだ。第一世代スピードマスター57シリーズは2013年に発売し、2015年にダイヤルと金属ブレスレットモデルのデザインを少し変えたマイナーチェンジモデルが出ている。そしてこの金無垢モデルは価格ドットコムによれば2018年9月に登録されたとあり、既にメーカー廃盤だが比較的新しいようだ。ちなみに、後継の第二世代スピードマスター57シリーズ(キャリバー9906)は2022年に発売。

2024年10月17日現在

金無垢で買えるスピードマスター

金無垢モデルを新品で購入できるスピードマスターは、プロフェッショナルシリーズ(相場350〜460万円)か、この第一世代スピードマスター57(相場200万円弱)に限られる(第二世代では金無垢モデルは未発売)。また、ベゼルまで含めて全てゴールド、というデザインのスピードマスターはこの第一世代スピードマスター57だけである。

デザインの特徴

本機は「57」というシリーズ名があるため、ついつい1957年に発売された初代スピードマスターの復刻版なのかと思ってしまうが、実はそうではない。初代のクラシカルなデザイン視点をベースにして、なおかつ最近のトレンドを盛り込んだモダンな時計を新設計したものであるそうだ。通常のスピードマスターには「分」と「時」の積算計が独立しているが、スピードマスター57はそれを3時位置の一つのサブダイヤルに統合して2カウンターモデルにした。これにより6時位置にデイト表示窓を作るスペースを確保し、左右対称でスッキリとしたデザインを実現することができている(これは57に限らず、プロフェッショナル以外のスピードマスターシリーズの多くはこの方向のデザインを踏襲している)。サブダイヤルは立体的に掘り込まれており、見る角度によってダイヤルの表情が変わるところもポイントで、随所に18金による装飾も施され、非常に高級感がある。

もう一つの重要なデザイン上の特徴は、タキメーターベゼルがゴールド仕様である、ということ。通常のスピードマスターはタキメーターベゼルにアルミニウムやセラミックを使っており、プロフェッショナルモデルは金無垢であってもベゼル部分はゴールドではない。本機はケース全体がゴールドの塊になっている、というのも他のスピードマスターシリーズにはない大きな特徴である。

一方で、ゴールドの塊であるにも関わらず、華美に過ぎることはなく、あくまでツールウォッチ(道具)としてのたたずまいを残しているのも特徴だ。タキメーターベゼルと側面をヘアライン仕上げにしているため、他のオメガの金無垢モデル(デ・ビルシリーズやアクアテラなど)に比べれば幾分大人しい。個人的には、ビジネス(インフォーマル)でもガンガン使える時計だと思っている(営業先にもよるが)。

しかし、近くでマジマジと見つめればゴールドの高級感は随所に見られ、特に裏蓋周りの造形と、そして18金でできたキャリバー9301のローターの動きには高級感が漂う。それでいて、新品で買える金無垢のスピードマスターの中ではリーズナブルであり、かなりコストパフォーマンスが良いと言える。

ジャックロードさんの写真を拝借

ケースバックは、2011年にオメガ初の完全自社製クロノグラフ自動巻ムーブメントとして開発された9300を、存分に眺めることができるシースルーバックである。その大きな特徴は、ムーブメント機構がケースからはみ出てしまっているのを、ドーム型クリスタルが覆っているというデザインにある。また、本機の9301はテンプを支えるブリッジとローターがレッドゴールド製無垢の特別あつらえで、高級感を演出している。ローターをくるくる回しながら、ずっと眺めていても飽きがこない。アラベスク模様のジュネーブ装飾も素晴らしい。

ジャックロードさんの写真を拝借

なお、後継機の第二世代スピードマスター57は自動巻ではなく、手巻きのキャリバー9906を採用している(下の写真)。マスタークロノメーター化され、スペックも向上しているが、デザイン的にはローターがなくなってしまったというのは個人的には寂しいところだ。

個人的にはシールスーバックは好きなスペックであり、時計好きの「時計内部の稼働部分を眺めてみたい」という欲求に応えてくれる。自動巻ローターがあればローターの動きがそれに応えてくれるわけだが、ローターがないこの9906は見せるものがテンプの動きだけになってしまう。なので、第二世代のシールスーバックは個人的には好きになれなかった。もし薄型化が目的であったというならば、プロフェッショナルシリーズと同様にキャリバー3861を搭載するという手もあったのではないだろうか。ただし、その場合は日付表示はなくなり、2カウンターでなく従来の3カウンターに戻るということも意味するので、デザイン的にはかなり変わってしまう。

第二世代スピードマスター57のキャリバー9906。手巻きであるため、薄型化に貢献している。しかし、ローターがないため稼働部分を眺められるのはテンプとコラムホイールの動きのみである。
最新のスピードマスタープロフェッショナルシリーズで採用されている、手巻きのキャリバー3861。マスタークロノメーター化されていて、ハック機能も搭載した。もし薄型でシースルーバックにしたいのであれば、第二世代スピードマスター57はこのムーブメントを搭載すればよかったのに、と思う。(ただし日付表示はなくなり、2カウンターではなく3カウンターになるが)

ところで本機の金無垢の素材は、最新の「セドナゴールド」ではなく、一世代前の「レッドゴールド」である。本機はケース素材とムーブメントがオメガ製品の中で一世代前というところが、少しリーズナブルである理由かもしれない。

オメガホームページより

レビュー

それではレビューを始めよう。本機を購入したのは9月末で、丁度3週間使ったところである(風呂以外の時間は寝ている時も全て着用)。購入時に時刻合わせをして、3週間そのままにしていたので、3週間の着用時精度も報告しよう。

ちなみに本機を購入した並行店に聞いてみたところ、これをそのお店で在庫したのは1年前であった、ということ。しかしそれ以上前の状況はトラッキングできていない。最も古くて2018年の製造で、私が購入するまで最大で6年間倉庫に眠っていた可能性もある。

精度報告〜驚きの日差0.1秒

まずは、気になる精度についてのレポート。ここで言う「精度」とは専用の機械での測定ではなく、単純にずっと着用していてどれだけ時間がズレるか、という議論である。結論から言って、かなりすごい精度であった。購入した日の夜にスマホでキッチリ時間を合わせて以来、本日で3週間(約20日)が経過した。そしてズレた時間は、たったのマイナス2秒であった。しかも毎日変動していてたまたま今日はマイナス2秒であった、というわけではなく、毎日ほぼズレない状態であることは確認している。日差では0.1秒、月差に換算しても3秒以内、年差でも30秒以内であり、その辺のクォーツ時計よりも精度が高いという一面を見せた。

もちろん機械式時計なので、使用条件や着用時の姿勢によって個体差、個人差があり、これは参考情報でしかない。また、本機は流通の過程で数年間倉庫に眠っていた可能性もあり、製造したばかりのベストコンディションではない。しかしそれでもこれだけの精度を出せるというのは、流石はオメガである。

ちなみに補足情報だが、私がこれまで新品購入してきた他のオメガ(デビル5カウンターモデル、シーマスター300プロフェッショナル)でも、同様に高い精度を誇っていた。デビルは購入して10年経過してから日差がマイナス5〜10秒程度、シーマスターも5秒程度の誤差が見られるようになっている。(デビルは現在オーバーホール中)

デザインについて所感

まずはリストショット。本機のケースサイズは41.5mm、ラグーラグは5cm弱である。通常のスピードマスターよりもラグが長いデザインであるため、腕からはみ出ることがないかどうかは心配であった。私の腕周りは17cmで、個人的にはちょうど良い大きさだと思う。実際に着用するとベルトの膨らみ部分があるため、ラグ端のキツさは感じない。

純正ベルトを着用

この時計はケース厚さも気になる点だろう。スペック上は約16mmもあり、物理的にかなり分厚いのは事実である。ただし、その厚さのうち5mm程度は風防とシールスーバックのクリスタルの厚さである。実際に真横からみると、クリスタルの部分は透明であるため、数字ほどの圧迫感は見た目では感じない。

側面からのショット。厚さ16mmの時計だが、上下のクリスタル部分が透明であるため、そこまで圧迫感を感じることはない。純正ベルトを着用

物理的に厚さは16mmもあるので、時計をシャツの袖の中に入れることは難しい。だからこそ、袖には入れずにどどんっと見せるのがこの時計の着用スタイル。下の写真は社外品のクロコダイルストラップに換装したもの。明るいブラウンレザーのストラップが、レッドゴールドのオメガによく映える。

社外品のブラウンのクロコダイル(ホーンバック)ベルトを着用

個人的に好きな角度、というか着用していて見える角度というのが、下の写真のように6時位置の側面である。ここのポリッシュされたゴールドの輝きとストラップが反射している様が素晴らしく、非常に高級感を感じることができる。この時計はクラシックなスタイルを目指しているので、ストラップエンドは円形である必要はなく、ラグの隙間が空いているスタイルが一番似合うのではないかと思う。

ラグ側のケースサイドから撮影。ポリッシュされたゴールドが美しい。

クラシックな姿を堪能しつつ、ラバーベルトをつけたらどうなるか?と思って試したのが下の二つの写真。どちらもアマゾンで二千円程度で購入したラバーベルトである(スウォッチコラボのスピードマスター用)。

ラバーベルトを付けると途端にスポーティーになり、それでいてラグジュアリー感も感じる。まるで、複合素材を得意とするウブロみたいでもある。雨が振ったり猛暑で汗がダクダクのときにはこういうスタイルもありかと思う。

気になった点としては、このラバーストラップは時計側のエンドが丸みを帯びていて、ケースにピッタリとくっつくスタイルである。それ自体は問題ないし、見た目は格好いいんだが、ケースとピッタリくっつくラバーというのが個人的にはあまり好みではない。なんか、そこに小さなゴミや砂などが入った場合、それらが自然に落ちることはなく、持続的にケースを傷つけ続けてしまわないかが不安になる。というわけで、ケースにピッタリくっつかない高級感のあるラバーベルトを探している。

アマゾンで購入した激安のブラックラバーベルトを装着
アマゾンで購入した激安のホワイトラバーベルトを装着  

機能面のレビュー

主な機能は

  • クロノグラフ(作動中のリセットボタンを押しても壊れない3層コラムホイール)

  • 時計を動かしたまま1時間単位で時間調整できるタイムゾーン機能

  • 100メートル防水(10気圧)

  • 日付表示

  • ハック機能(秒針を止めることができる)

  • 耐磁性能(シリコン製ヒゲゼンマイ)

クロノグラフは、スピードマスターのアイデンティティーである。ボタンの固さは、固すぎず、柔らかすぎず、普通だと感じる。ただし、おそらくは並行品として長期間倉庫にあったからか、油が固まっているのか、針の戻りが悪い。

下記の写真では、クロノグラフ秒針がわずかに左にズレている。

クロノグラフ秒針がわずかに左側にズレて帰零する

また、クロノグラフ時針の戻りが悪い(ねばっこい感じで動く)。結果、針ずれが生じている。

クロノグラフを1時間稼働したところ。クロノグラフ時針がわずかに進んでいる

本機は幸いなことに正規店での新品購入で5年保証があるため、おそらくは修理に出すことは可能だ。危険な故障というわけではないので、しばらくはこのまま様子を見ようと思う。新品ではあるが数年間倉庫で在庫していた機械式時計であるため、この手の不具合はしょうがないとも言える。

タイムゾーン機能については、良し悪しがある。海外出張などで数時間だけ時針を動かしたい場面では重宝するが、日付を動かすためには1日分動かすのにいちいち時針を2周させなければならず、10日ほど修正したいという場合にはかなり面倒である。また、その際に高速で時針を動かすことにもなるので、機械的な負担も大きい。基本的には、無理に早く回さず、ゆっくり落ち着いて針を動かした方がいいだろう。

100メートル防水(10気圧)については、これを付けたまま泳ぐわけではないので十分な性能だと思う。手洗いや突然の雨でも安心である。防水性能についてはスピードマスタープロフェッショナル(5気圧)や、他社のライバルクロノグラフ(例えばブライトリングのナビタイマーなども5気圧)と比較しても安心感が高い。

日付機能については、ビジネスでも使うのであれば個人的には必須だと考えている。デザイン的には6時位置に日付表示窓があり、左右対称ですっきりしていると感じる。これも、スピードマスタープロフェッショナルにはないメリットである。ただし前述したように、この機種の日付調整は少々面倒だ。

ハック機能(リューズを引くと秒針と止められる)については、最近のオメガ製品であれば標準装備である(スピードマスタープロフェッショナルも新しいムーブメントになってからはハック機能を搭載)。個人的にはキッチリと秒単位で時間を合わせたい性分なので、ハック機能は必須である。

耐磁性能(シリコン製ヒゲゼンマイ)については、キャリバー9300/9301では公称スペックはなく、一般論として「耐磁性能が高い」とオメガは謳っているに留まる。公称スペック(マスタークロノメーター認定)として「15000ガウスに耐えられる」と表しているのは後継のキャリバー9900系からになる。とはいえ9300/9301も素材は同じ磁性を持たないシリコン製ヒゲゼンマイであり、機構もよく似ている。よって、公称スペックではないものの、おそらくは9900系と同等の耐磁性能はあるだろうと期待して使っている(だからといってわざと磁石に近づけることはしない方がいい)。しかし、いずれにしてもシリコンヒゲゼンマイを備えたオメガの腕時計は、他社製品と比較しても圧倒的に高い耐磁性能があると言えるだろう。

シリコン製ヒゲゼンマイを採用している証として、ケースバックの縁に「Si14」が刻印されている

下記の記事(2016年)によれば、パテックフィリップやブレゲ、ゼニスなども積極的にシリコン製部品を取り入れているようだ。しかしその中でもオメガは自らマスタークロノメーター認定を作るよう働きかけをするなど、群を抜いて耐磁性能に力を入れているといえる。

https://blog.gmt-j.com/%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E7%B4%A0%E6%9D%90%E3%80%8C%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%80%8D%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/

購入の経緯と、他に比較検討した時計

そもそも本機を購入した背景として、今年は個人的に特別な年、節目の年であったということと、そして、これまでの数本の高級機械式時計を保有してきたものの、「ラグジュアリーな一本」というのはまだ持っていなかったということがあり、予算的にも昔から憧れていた「金無垢時計」に挑戦するいい機会であった、ということがある。

また、オメガは数本コレクションしていたが、スピードマスターシリーズについてはスウォッチコラボのスヌーピーウォッチだけで、ちゃんとしたオメガ製のスピードマスターはまだ持っていなかった、というのも今回スピードマスターを検討したきっかけであった。

時計の候補に求めたもの

価格帯は100〜300万円程度を想定。貴金属を使ってラグジュアリーでありながらも、カジュアルな場面ではビジネスでも使える時計。精度、耐磁性、防水性、耐久性、将来のメンテナンス性も大事。そしてなにより、歴史を語れる時計。なおかつ、その歴史が自分の人生とリンクするような時計。以上のようなことを考えながら、今回の時計選びをした。

なぜ、スピードマスター57であったのか

スピードマスターといえば、NASAの公式採用と初めての月面着陸。あるいは、アポロ13号の危機を救ったクロノグラフ、などの逸話が有名だ。そして、オメガという会社の活動にまで話を広げれば、オリンピックの公式タイムキーパーであること。これらは、工業時計としては人類史上最高の誉といっても過言ではない。歴史的にその流れを汲むオメガは決して過去の栄光に浸るだけではなく、最新機種でもマスタークロノメーター認定にこだわるなど、精度や耐久性については現代においてもトップランナーで居続けている。そういうブランドだからこそ、仕事の時計としても安心して選ぶことができるというものだ。

また、私自身が本職で挑戦的な仕事をしている、というのも背景にある。既成概念にとらわれず、新しい何かに挑戦するという姿勢は、私にもスピードマスターにも共通するものだ。一方で、「スピードマスタープロフェッショナル」に関しては「現在進行形で挑戦をしている」というよりは、アポロ計画時代の過去の栄光に浸っているポジションのシリーズである。プロフェッショナルシリーズは「変えてはいけないアイコニックな製品」であるからこそ価値がある一方、その存在は保守的で、これからの挑戦者には不釣り合いとも言える。NASAが月面着陸をした頃を懐かしみ、懐古するためのノスタルジー時計である。

その点、スピードマスター57シリーズは単なる懐古主義ではないところが気に入った。デザインこそ初代スピードマスターをヒントにしているものの、そのクラシックなデザインベースの中にモダンさを取り入れ、当時の最新ムーブメントも搭載した。現代に生きる挑戦者のパートナーとして、相応しい時計なのではないかと感じたのである。

今回、スピードマスター57(金無垢モデル)と最後まで悩んだ候補が、同じくオメガのスピードマスタープロフェッショナル  ホワイトダイヤルだ(下の写真)。スピードマスタープロフェッショナルが保守的だというイメージは前述した通りだが、このホワイトダイヤルには違う印象を持った。なにせ、限定品を除くプロフェッショナルシリーズの標準モデルとしては長らく伝統であった「ブラックダイヤル」からの革新である。そして、ホワイトラッカー仕上げの白い文字盤は美しく輝き、無骨なプロフェッショナルシリーズの中にあってラグジュアリーな一面もある。新型の金属ブレスの付け心地も最高で、価格も120万円台で銀座のブティックで在庫もあったことから、「うーん」と毎日悩んだものであった。

スピードマスタープロフェッショナル ホワイトダイヤル

結局、決め手としては「デイト表示がないこと」「防水性(5気圧)が弱いこと」「金無垢を買うなら今しかないのでは?」ということが頭をよぎって、このプロフェッショナルを購入するには至らなかった。しかし、気に入っていることは事実なので、いつかは手が伸びてしまうかもしれない。

もう一つオメガの中で悩んだのは、同じスピードマスター57のコンビモデルである。これの悩みのポイントは、ずばり価格だ。金無垢モデルの半額で、約100万円というのは家計に大きなインパクトがあった。

ジャックロードさんから写真を拝借
バックスケルトンは同じデザインだが、9300のローターはステンレス製

コンビモデルの場合、ブレスレットの中心部分が金無垢になる。ブレス全体も合わせて使われている金の重量としてはケース全部が金無垢であるのと同等程度であり、お得感も大きい。また、ブラックダイヤルもゴールドが映えて個人的にはいい印象だった。ただし、9300ムーブメントのローターがステンレス製である点は今一歩なポイントだ。後で後悔する可能性があるなら、高い方を買おうというのが僕のポリシーだ。結局は9301の美しいローターに追加100万円の価値を見出してしまったと言える。

以上の話をするとあまり迷わずにオメガ、そしてスピードマスター57の金無垢モデルを選んだかのように見えるが、実際にはそう単純ではない。下記では、この時計を選ぶにあたって悩んできた他社製品との比較検討についても紹介しよう。

ロレックス サブマリーナ(青サブ)の検討

オメガについてアレコレ語った後になんだが、やはりロレックス欲しい、というのも正直にいえばあった。特に青サブのコンビは昔から憧れていて、爽やかなブルーダイヤルとコンビブレスレットの組み合わせは長年の憧れだ。

通称「青サブ」 リファレンス 126613LB/ロレックスホームページより

ところがどっこい、これを正規店で定価で購入するのは至難の技である。ロレックスマラソンに参加はしてみたものの、たったの3回の参加で棄権することとなった。だって、いつ買えるかわからない、ゴールが見えないマラソンなんか走りたくはないんだもの。

かといって、並行店で100万円の追加プレ値のついた「中古」を買う気にもならない。転売ヤー達に飯の種を提供する気もサラサラない。よって、ロレックスが本気で転売ビジネスを撲滅しようとするその日が来るまでは、ロレックスを買わないことを決めた。

元はと言えば、ロレックスが悪い。ロレックスは、本気で転売を防ごうとすればいつでもできる(なのにそれをやらない)。例えば、新品購入時に会員登録をした場合だけ正規修理を受けられる権利を作るなど(ブライトニングなどは正規ユーザー会員と並行ユーザーで価格差をつける対応をしている)。正規ユーザー登録は家族であれば譲渡手続きが可能とか、プレゼント用であれば一回だけ変更可能とか、いくらでもデジタル処理でトラッキングできるはずだ。また、新品購入時に購入者の名前を刻印するサービスもやればいい。実質上はそのサービスを必須とするなどもできるはずだ(正規の修理サービスを受ける権利などとリンク)。とにかく、転売を防ぐための工夫はいくらでもある。

結局、ロレックスは投機的な二次流通市場での価値の増加によって企業ブランドを高めようとしているに過ぎない。はっきり言って、拝金主義のマネーゲームカンパニーだ。ブティックの前に並んでいるロレックス愛好家よりも、投機市場を優先している。だから、僕はロレックスを買わないことにした。(ロレックスファンの方、気を悪くされたらすいません)

ブライトリング ナビタイマーの検討

オメガのスピードマスターと匹敵するものを他社に求めた場合、その筆頭とも言えるのがブライトリングのナビタイマーではないだろうか。実際、ナビタイマーシリーズは、スピードマスターよりも先に宇宙を飛んだ最初のスイス時計でもある(宇宙飛行士の個人所有の時計として)。オメガの宇宙でのライバルだ。

また、ブライトリングは金無垢モデルであっても比較的リーズナブルで、ブティックの定価でも200万円台から選ぶことができる。これも非常に悩みどころであった。

ブライトリングホームページより

スピードマスターとの比較で決定的な弱点は、防水性の課題であった。ナビタイマーの防水性は3気圧しかない。これは、回転する計算尺をインナーベゼルに採用している機構の宿命と言える。新品の状態でも3気圧しかないということは、少しでもパッキンが劣化したらもう「通気性抜群」である。これは、手洗いやちょっとした雨でも気を遣う。特に僕は汗をよくかくので、残念ながら現実的に着用は困難だと結論づけることとなった。

ゼニス クロノマスターの検討

クロノグラフで検討する上で外せないのが、伝説のエルプリメロを搭載したクロノマスターである。そしてこのクロノマスターオープンは、フロントのダイヤルからテンプを垣間見ることができる、オープンハートデザインを採用している。また、バックスケルトンから除くエルプリメロの造形も見事であった。ゴールドモデルでありながら200万円台に予算を抑えられることもポイントだった。

クロノマスターオープン(金無垢) ゼニスホームページより

とても良いなぁと思ったものの、果たして高速振動のテンプは今の自分にどれだけ必要なのか?ということに回答を見出せなかった。10分の1秒計測のクロノグラフの精度が極めて高いことは良いが、高速振動故にテンプの寿命やオーバーホール周期が気になった。そして、現行バージョンになると、ケースサイズが39.5mmというのも僕の腕には少し小さく感じた。大きさに関しては従来機種のサイズ(たしか、41mmくらい)の方がフィットしていたが、ただし従来機は秒針が備わっていなかったので検討外だった)。

ロレックスのデイトナがエルプリメロを採用した際、テンプの振動数を標準の36000から28800に下げたという。それは、ロレックスの基準では、高速振動のままの場合は安定性や耐久性を担保できなかったからだろう。こういう事実も、エルプリメロに食指を伸ばすのを躊躇わせてしまったかもしれない。

まとめのレビュー

以上、長いレビュー報告になった。使用レビューとしてはまだ3週間という短い期間であるが、今のところ非常に満足感は高い。一部クロノグラフ針に不具合が見つかったものの、これは長期の平行在庫故の不可避な事故であろうことと、メーカー保証範囲内なので心配はしていない。

不思議なことに、第一世代スピードマスター57のゴールドモデルは廃盤になって2年以上経つが、長期間新品在庫が残っている。金の価格が高騰しメーカーの新製品のゴールドモデルの定価が100万円単位で増加するなか、この在庫の価格は200万円弱のまま据え置きである。もしも「金無垢のスピマスが欲しい」「金無垢のオメガが欲しい」という場合、発売から11年の本機は比較的新しく、かつかなりリーズナブルに入手できる選択肢の一本であるため、お勧めといえる。

本機はオメガとしては一世代前のムーブメントであり、金無垢のケース材質も最新のセドナゴールドではない。その点はオメガファンの中では少しネガティブかもしれない。しかし、他メーカーまで視野を広げれば、そもそもオメガが先進的過ぎるだけで、オメガの中で一世代前程度は全く古くはない。このスペックでも十分に最新でモダンな時計であるといえるだろう。特に金無垢モデルは希少性があり、今後はメーカーの新品価格は増加の一途が予想される。もし、オメガの金無垢に興味があれば、今の価格のうちに入手しておいても損はないはずだ。

以上、オメガ スピードマスター57(第一世代)金無垢モデルの3週間レビューでした。

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