中学受験をしないという選択 #1
東京の中央区で子育てしていると、否応なく意識せざるをえないのが子供の中学受験だ。我が家では早くから「中学受験はしない」と決めてはいるものの、子供の友人たちの大多数がこれから塾通いや受験活動に邁進していくのかと思うと、「しっかりした理論構築をしておかないと後になって気持ちがブレてしまうかも」という若干の危惧を感じる。ちなみに、中央区の中学受験率は文京区に次いで2位で、40%程度だそうだ。
こういうエリアで親同士で話す時、「中学受験をしない」と言うと驚かれることもたまにある。その驚きの背景には、「それなりの収入があり、親も高学歴ならば、中学受験は当然するもんだよね?なんで?」というこのエリアでは当然の前提があるからだ。「なんで?」と聞かれても特に答えを用意していない(用意する必要性も感じなかった)ので困ってしまう。だから、このNoteに書いて自分の意見をまとめておこうと思った。
中学受験をしない理由1:コスパが悪い
まずは、コスパが悪い。「コスパ」というと「子供の教育についてコスパを語るとはいかがなものか!」と怒られたこともあるが、あえて言おう。コスパが悪い、と。
中学受験の目的の一つは、世間的には「良い大学に進学させたい」というもののようだ。まずここでいう「良い大学」を定義したいのだが、それは多くの場合は「東大」のことではない。東大に高確率で合格者を輩出している中高一貫校は、開成高校とか筑駒とか全体のごく数%でしかなく、その開成高校でさえ、東大に落ちて早慶に行く場合もあれば、浪人するケースも少なくない。というか、東大に合格する学生は数が少ないので当たり前の話なのだが、色々な情報を見る限り、中堅の上位国公立か、早慶上智か、MARCH程度の私大にある程度進学ができてれば、私立中学としては「まぁまぁ良い進学実績」と言われるようだ。
しかしこれはかなり奇妙な話である。なぜなら、偏差値60程度のそこそこの都立高校ならば、早慶もMARCHも中堅の国公立もそれなりに合格者を出しているからだ。極めて甚大なコスト(小学校4年からの塾通いと親の涙ぐるましいサポート)をかけてまでして進学した中高一貫校の進学実績が、中堅の都立高校と大差ない、というのは支払ったコストに対して割りに合うものだろうか?個人的には、「東大進学以外の道はないから筑駒いく!」という以外の家庭にはコスパ悪いよね、と思ってしまうのである。(ちなみに、近年は上位都立高校から東大進学の事例も増えてきたので、東大進学でさえ中高一貫校経由はコスパが悪くなりつつある)
中学受験をしない理由2:受験経験が減る
受験は苦しみだ、と感じる人が多い。だから、我が子にそういう苦労をさせたくない、という親の気持ちはよくわかる。しかし本当に親が考えなければならないことは、学生時代の苦労を減らすことよりも、「社会に出てから通用するスキルや精神のタフさを身につけさせること」ではないだろうか?
中学受験を勧める記事の中には、「大学の附属校に入ってしまえば、あとは推薦で受験を避けられるから楽ちん」みたいな言説が多い。それをメリットに感じてだろうか、大学の系列学校の人気は高いらしい。でも、それはメリットというよりも、逆にデメリットだと僕は思う。
受験というのは、現代日本社会で子供が頑張れば乗り越えられる適度な難易度のハードルだと思う。もちろん、スポーツや芸術、あるいは科学オリンピックなどで乗り越えるべきハードルを持っている子供はそれでもいいかもしれない。でも、ほとんどのいわゆる普通な環境の子供は、受験以外には人生に関わるタフなハードルを超える機会、というものを持っていない。
であれば、受験は人間として成長できる大切な機会の一つである。それは合格までの道筋を戦略的に考え、得意な科目を伸ばし、苦手科目を克服し、合格ラインを越えるための作戦を実行する、というプロジェクトを経験することである。また、自分の将来の仕事や可能性を考える良い機会にもなる。そしてなにより、受験は「願書」という重要な書類を自分の責任できちんと作り、提出日までに提出する、という最初の訓練にもなる。僕は今でも、中学生のときに大変な緊張感で願書を作り、一字一句間違えないように、何度も見直しをしたことを覚えている。
「エスカレーターで大学にまで無受験で行けてラッキー」というのはそういう経験を全て子供から奪うことに他ならない。大学にいくまでの苦労を減らすことは、本当に子供に有利になることだろうか?と思うので、僕はエスカレーター式の学校を勧めない。
中学受験をしない理由3:小学校時代の後半の時間を失う
これが最大の問題だと思う。中学受験は小学校4年生から本格化する。塾通いに時間を費やし、多くの宿題プリントにも忙殺される。なにより、親の負担も凄まじいらしい。送り迎えに弁当の用意も必要だそうだ。親も子供もとんでもなく大変で、共働きが「7割」といわれるこの時代にそんな事が果たして可能なのか?頑張っているご両親には頭の下がる思いだ。僕にはとてもじゃないができない。
要するに、問題は塾の勉強時間で他にやるべきことをする時間が削られてしまう、ということだ。別に、小学校時代に学校以外の勉強すること、つまり「早期教育」は悪いことじゃないし、むしろやったほうがいい。特に、英語と数学と物理は独自の学習をしたら良いと個人的には思う。あと、短期留学もできたらしたほうがいい。だけど、それは中学受験勉強ではない。そもそも英語は受験科目として採用されるケースはまだ多く無いし。
長くなってきたので、次回以降では中学受験以外の早期学習について、あるいは大学受験などについて深掘りしてみたい。