日本の森林と世界の森林(その3)by 立花吉茂
日本の森林の特徴
世界の先進国のなかでは抜群に森林の多い国である。国土の3分の2は山岳地帯であり、裸の山はない。昔の日本の国土は世界有数の多くの樹種をもつ原生林で覆われていた。高木の種類数が600種というのは驚異的な数字である。ドイツ固有の樹木の数が20種であるのに比べるとその多さがわかるだろう。
なぜこんなに多くの樹種が存在するか? それは絶対的な夏の雨の多さにある。日本全土は年間1000ミリ以上雨が降り、月100ミリ以下になるのは冬のあいだだけである。フランスやイタリアなどヨーロッパの南部は1年をつうじて雨がきわめて少ない(図)。
冬のあいだは温度が低いため、土壌の水分はあまり蒸発しない。そして、植物は5℃以下では成長せず、休眠状態になるから葉面蒸発もきわめて少ない。だから、冬の降水量よりも問題は夏の降水量が森林発達の決め手になる。そして単純な種類だけの森林ではなく、樹種の多い多層構造の森林になるには、暖かさとともにこの降水量がものをいうのである。
社寺林を訪ねよう
この豊富な日本の原生林は、縄文、弥生を経て農耕地として伐採、開墾され、江戸時代の末期にはもう現在とあまり変わらない程に消滅した。日本の国土面積の3分の1ほどの平地にあった照葉樹林が、壊滅状態になったにもかかわらず、昔の樹種は絶滅せず、どっこい生き残っていたのである。それは全国各地の社寺林である。とくに神社の森、鎮守の森にその姿が見られるのである。山の好きな方がよく利用される5万分の1の地図は下辺が20kmだが、この地図1枚に100以上の神社と寺のマークがある。これはおそるべき密度である。ここにはスダジイ、コジイ、アラカシ、ウラジロカシ、イチイガシ、マテバシイ、シリブカガシ、アカガシ、ツクバネガシなどのドングリ類、クスノキ、タブノキ、ヤブニッケイ、シロダモ、カゴノキなどのクスノキ類、モチノキ、クロガネモチ、ナナミノキ、ソヨゴ、タラヨウなどのモチノキ類、などの常緑樹がどこの社寺林にも必ずといってよいほど繁茂している。どんな小さな神社でも1本も樹木のない場所はない。必ず日本の樹木が何本かは生えている。
不思議なことに日本の理科の教科書に小学校から大学まで、このような日本固有の森林の樹種を詳しく紹介していない。アサガオやチューリップやヒマワリなど外国産の植物ばかりが目立つ。これは少しおかしいのではないか。日本はヨーロッパにない複雑多彩な樹種をもつ森林がある唯一の国なのである。「ドングリころころドンブリコ」は幼稚園の歌ではなかったのか!
(緑の地球第49号 1996年9月掲載分)