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浸食谷を覆いつくしたマツの林 by 高見邦雄(GEN副代表)

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 10月に西安で開催された日中韓の民間団体の集まりで、緑の地球ネットワークの活動を報告しました。緑化の成果を示す写真をみてもらったのですが、とくに反響が大きかったのがこの組み合わせでした。
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 10月17、18日に中国の西安市で開催された第15回東アジア市民社会フォーラムで発言の機会をいただきました。日中韓の民間組織が持ち回りで開催しており、今回はSDGsがテーマでしたが、私は緑の地球ネットワークがやってきた黄土高原での緑化協力について報告しました。30余年の活動を短い時間で話さないといけないので、ビフォー・アフターの写真で視覚に訴えることにしました。(驚いたのは、私の後で登壇された韓国の民間団体の方が“高見たちの活動に触発されて、モンゴルで緑化協力に取り組んでいる”と話されたことです。うれしかった!)

 いちばん強い反応があった写真がこれです。場所は大同県徐疃郷(現雲州区峰峪郷)。写真を撮っている私の背後は急な崖で、そのうえの稜線が南隣りの渾源県との境界です。目の前はゆるやかな斜面で、そこに無数の浸食谷が刻まれており、遠くの水面は桑干河をせき止める冊田ダムで、北京の水源でもあります。
 
 日本にあったら観光資源になりそうですが、ここの人たちにとってはたいへんな問題です。6月半ばからの3か月に集中する雨は、ときに局所集中の豪雨となり、植生の乏しい大地をたたいて表土を押し流し、このような浸食谷をつくりだします。中国では「水土流失」と呼びます。その結果、土地が劣化し、作物や植物が育たなくなる。水土流失と砂漠化はセットです。
 
 ここにマツを植えたのは1993年春です。私たちが大同で緑化協力を始めて2年目のこと。この徐疃郷では1994年に6万本ものアンズを植え、それが大失敗しており、私のトラウマになっています。それについてはこのメルマガにも書いており、つぎのところで読んでいただけます。
https://note.com/genmerumaga/n/nf17d16dcf0f6
 
 当時のこの郷のリーダーと親しくなり、長く滞在しました。郷にホテルや招待所はなく、郷政府の事務室に泊めてもらいました。郷の幹部は県から派遣されている人が多く、たいていは事務室にベッドを置き、週日はそこで暮らし、週末だけ自宅に帰りました。その一室を提供してもらったのです。民家に泊めてもらったこともあります。
 
 アンズの大失敗があって、徐疃郷から足が遠ざかりました。先ほどの松林の写真は2014年12月のもので、前中久行代表といっしょに訪れました。現存する協力プロジェクトとしては、もっとも早期のもので、樹高はそのときでも10mを超えていました。林のなかにも入ってみました。そしたら、マツの落ち葉をかき集め、家に持ち帰って焚きつけに使うのでしょうが、そのまま忘れられたものが1かたまり残っていました。松葉は油分が多く、最高の焚きつけ材です。こうやって農家の役に立つことによって、自発的に林は守られます。
 
 ここまで育てば、水土流失の軽減にも役立ちます。北京の水源を守るためにも役立っているわけです。そんなことを考えながら写真を撮っていると、「護林員」の腕章をつけた男がバイクで通りかかり、「ここのマツは日本人が植えたんだ」とジマンそうに話してくれました。覚えていてくれたんですね。うれしかった!

 それからでも何年もたちましたので、大同事務所のスタッフだった小郭(郭宝青)に、場所を指定して、写真を撮って送ってもらいました。2022年10月のこと。以前のあのみごとな(!)浸食谷はマツに覆われて、まったくみえません。この写真には冊田ダムの水面もちゃんと写っています。いまGoogleEarthで現場をみると、私たちが植えたもの以外にも林ができているのがわかります。やっぱりいい仕事をしたのです。

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