植物を育てる(13)by立花吉茂
苗を育てる目的
緑化のための育苗と林業のための育苗はスタートの時点で異なっている。林業の場合は、収穫時に商品としての価値の高い品種、系統を用いる。時にはクローンさえ使用する(北山杉の挿し木苗)。しかし、緑化のためなら、いきなり極相の樹種多数を集めても良いし、条件が悪ければ先駆植物や、場合によっては草本まで集めて蒔くことにもなる。したがって「木の苗を育てる種子を蒔けば良い」というような単純なものではない。まず、元の植生を把握してその植生の種子を集めねばならない。西日本の場合であれば、少なくとも30種以上の組み合わせになるだろう。遺伝子の多様性を考慮して、地元の樹種の種子で不足なら、なるべく地元から近い地域の種子を集める。また、優占樹種と希少樹種との割合などを考えた育苗本数を考えておく必要がある。人類は途方もない面積に植林をしてきたとはいえ、たった数種の樹種であり、数十種、数百種の天然の植生の組み合わせの植林をやった経験がない。かつて、大阪市立大学の植物園にいたとき、ドイツから来たプラント・ハンターが、12型の樹林型造成の仕事を見て「うーむ、これは人類最初の事業だ」といたく驚いていたことがあった。だから緑化の計画は極めて慎重にやらねばならないのである。
種子を集める
計画はできたが、さて種子を集めるとなると、どの種類は、いかなる形の種子なのか、いつ頃成熟するのか、どのように調整、貯蔵したら良いのか、いつどこにどのように蒔けば良いのか、移植傷みはないのか、などなど、ほとんどデータがないのが実情である。データのあるのは栽培植物だけである。野生種で実験的にある程度発芽のクセが明らかになったのは、クスノキ科、モチノキ科、ウルシ科、ブナ科、マメ科、ミカン科、アオイ科および若干の先駆植物たちである。これらの樹種だけでも、1種ずつこのクセを把握するのは大変である。そこで、図を見ていただこう。これでおおざっぱに、取り扱い方の違いによるグループ分けができる。乾果たちは普通の種子のように乾かせて蓄えればよいが殻斗果や液果は貯蔵方法が難しい。以下次号でご紹介しよう。
(緑の地球81号 2001年9月掲載)