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私の研究ことはじめ #3 生態学の可能性と環境に関わりながら生きることについて (インターン生 小林杏佳)

藤沼潤一さん(GEN世話人、タルトゥ大学マクロ生態学研究室)

 今回インタビューに答えていただいたのは、タルトゥ大学マクロ生態学研究室の藤沼潤一さん。GENをきっかけに環境に関する研究をはじめ、現在はエストニアで生態学の研究をしながらGENの活動にもかかわっています。

―現在までのキャリアを教えてください。
 大学で2016年に環境科学分野で博士号を取得し、大学卒業後は専門の研究分野に進みました。琉球大学に3,4年務めた後、ヘルシンキ大学で1年半。今はエストニアで研究員をして4年目になります。

―現在の専門分野や研究について教えてください。
 打診があれば基本なんでも調査研究を行っています。最近僕が中心となって行っている研究は、ソフトウエア開発に感覚的には似ているのですが、生態学的なデータを解析する用のプログラムを作っています。特定の環境に対してこんな動植物が存在してもいいのではないかという推測を科学的根拠に基づいて調べることができるものです。一見ファンタジー要素が強いように感じますが、昔から自然が豊富な場所でもいなくなってしまっている動植物を科学的に探ることができるというロマンのある研究だと思います。

―現在はどこまで研究がすすんでいるのですか?
 私たちの研究は今、環境に適した動植物を探り当てること自体ではなく、その生態系に存在することができるのに実際には存在していない動植物にフォーカスして、それらがどんな特徴をもっているのかどんな原因で存在していないのかという問題部分を調べ上げるプログラムを開発しているところです。具体的には、プログラムを用いて世界中から集めてきたデータを用いて、世界中の自然の共通性を調べています。

―どんなことに活用できるのですか?
 例えばGENの活動の中で、中国の黄土高原で自然再生を行う上でいない動植物、いた方がいい動植物をピックアップすることができます。そして、リストアップされた動植物は大抵の場合、持ち込んだり、植えたりするとしっかりと根付いて生きていけるケースが多いのです。皆さんが、好きなバンドと似ているバンドのコンサートに行くと大概はまってしまうように、植物も適した環境に置けば確実に定着して生きられます。また、動植物が定着しない場合でも、動植物の生態や、自然再生している場所に起因する根本的な問題を究明することで改善を試みることが可能です。

―生態学の研究手法をGENの活動にどのように活かせると思いますか?
 GENが植林サイト候補地を選定するために、環境やアクセスなど様々な条件を考慮して現在蔚県にて活動を行っていると思いますが、実際にどこのサイトが最もポテンシャルをもっているのか、ポテンシャルが高いのに政府や機関がまだ見つけていない場所はどこにあるのか、を特定することができると思います。
 さらに、どんな生き物を本来植えて育てるべきなのか、(再生した森林にどういった機能を求めているのかによりますが)そこに適した在来植物を適切に吟味・評価することができると思います。
 また、ヒト社会よりの話になりますが、GENが再生してきた森林がどれだけ生物多様性やCO2の吸収に貢献したのか、これからしていけるのか、という評価をいろいろな単位(お金など)ですることができると思います。自己評価を科学的にできることによって、カーボンが固定できるからGENに任せてくださいといった具合に説得力を持つと思います。

―環境に興味を持ったのはいつですか?
 中学生くらいのころから、すでに環境に関心を持っていました。ただ、高校を1年生の時に中退してから、アルバイト生活を送っていて、周囲に環境のことを語り合える人に恵まれず、GENのツアーに参加して初めて本格的に環境についての勉強を始めました。

―GENが大学進学のきっかけにもつながったのですね。
 そのほかにもいろいろなきっかけがありましたが、GEN顧問の遠田宏先生や、立教大学の上田信先生や大学で研究されている先生と関わっていく中で、研究員の仕事も面白そうだなと思い、大学に通ってみようと戻ってきました。

―GENで活動している中で印象深いエピソードはありますか?
 長くお世話になってきましたが、印象に残っているのはやはりGENの活動に参加し始めた20歳のころですね。GENのツアーに参加してから、上田先生を中心としたGENの関東ブランチの月例会にも積極的に伺うようになりました。当時、私はなんの集団にも所属していない身だったので、突然自分の興味がある環境の分野の同志のような人たちに囲まれたことが、すごくうれしかったです。

―具体的にはどんな活動をしていたのですか?
 今思えば、いろいろわけわからないことを関東ブランチのメンバーとたくさんやっていました。イベントで紙芝居を使ったGENの紹介とか。写真家の橋本紘二さんがとったA1の写真パネルをもって、いろんなところを駆けずり回って展示をお願いしたり、自分の地域のイベントでGENの活動の紹介を必死に行ったりしていました。上田先生が声をかけてくださって、餃子をつくる会や飲み会に参加したこともいい思い出です。

―広報活動をする上でのアドバイスをお聞きしたいです。
 そもそもGENで活動してくださっている人たちは、環境活動に対して関心があるから参加してくださっているので、全然興味ない人にアプローチして振り向いてもらうのは本当に難しいと思います。全然興味がない人は、環境問題の深刻性を訴えても全く響かないので、全く違う媒体や娯楽に結び付けることが大切だと思います。例えば、GENには大阪の血が流れているので、環境漫才を活用してみるとかも面白いじゃないですか。そういった全く関係ないような分野を織り込んで伝えていくことが環境活動の輪を広げる為の突破口になるのではないでしょうか。

―現代を生きる若者に人生の先輩として一言お願いします。
 世界に目を向けて、外がどうなっているのか、日本が今どのような状況にあるのかを知ってほしいです。日本はとても閉塞的で未来が見えにくい社会だと思います。よく井の中の蛙と言いますが、ずっと日本にいたり、海外に旅行に行ったりするだけでは外の世界とその中の日本の位置付けってわからないんです。僕は、今エストニアという地で働くことを選択していますが、みんなにそうしてほしいのではなくて、外がどうなっているのかを知ってほしい。それだけです。どんな状況か気づいたら、それを変えたいと思うなり、そこでどうやって生きていこうかを考えるなりすると思うので、まずは知ってほしい。海外に行くことだけじゃないです。ニュースなども、日本語だけの情報のみを見聞きするだけでなく、もっと海外のメディアや出来事、文献などに目を向けて、どういう視点で書かれているのかを知って欲しいと思います。

■今回のインタビューを通して
 インタビューを快く引き受けてくださった藤沼潤一さん、本当にありがとうございました。生態学の道に明るくない私ですが、できるだけわかりやすいように専門的な内容を噛み砕いて話して下さり、生態学の研究がGENの活動とどれだけ密接に関わる分野なのか詳しく知ることができました。また、一人の学生としても非常に有意義な価値観を共有していただけて、これから自分の進む道をじっくりと考えるきっかけに繋がりました。生態学は環境問題の未来を明るく照らす学問です。身の回りの生態系に目を向け、人間活動の影響が環境や生物多様性の保全・破壊と密接に関わっているということをしっかり認識することが私たちにできる環境活動の一歩目になるとインタビューを通して感じました。そしてこれからも、自分の視野を広げることを忘れず、日本と世界の問題に向き合っていこうと思います。

GENのYouTubeでは過去の藤沼潤一さんの講演を配信していますのでぜひご覧ください。
「マクロ生態学の視点で自然共生を考える」


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